1-22 戦略兵器にほど近い
ごめんなさい(4ヶ月)
三宿での事件から一ヶ月が経った。あれ以降、理奈は頻繁に外出するようになった。
まず最初に、世界で最も有名な山に登った。側から見れば違和感のある服装で登頂し、少し頂上で景色を見て楽しんだ後、山小屋で食事をとり、下山した。山に遊楽で登る機会はクレイにはなかったため、そこそこ楽しかった。
そしてその次には、登山用品を売っているある都市の郊外の大型商業施設に行った。そこでも初めて見るものが多くあり、理奈の知的好奇心が高止まりのまま数時間が過ぎ、精神的に少し疲労しながらも登山用品といくつかの気になったもの、そして満足感を海底基地に持ち帰った。
その後の外出は、基本的に早朝に山の麓に転移し、登っていろいろして帰ってくる、時々都市に出て買い物をする、を繰り返した。
結果、感覚基準ではあるものの有益な情報が手に入った。
まず、魔力流れのズレ。これは、三宿のある真京県を中心としたいくつかの県で感じられた。そして、真京に近づくほどわかりやすくなっていた。
また、ズレの感覚は他のほとんどの県では感じられなかったが、真京近辺以外で唯一、安都県という場所でもわずかに感じられた。聞いた話によると安都はかつて世界の中心とされた場所であるという。中心都市が絡んでくる可能性は高い。
そして何より、どの地形も全く知らない。敵を見つけるため、進行方向を確かめるために山に登ったり山をみたりといった経験は何度かあったが、その時の記憶と合致する山は今のところ一つもない。多少姿が、禿山が緑に包まれたり、建物が立っていたり、変化していてもわかるものはわかるだろうが、本当に見覚えのない景色しかない。前世とのつながりに関する情報は、ない。情報がないことが、重要な情報である。ここまで一致しないとなると本当に異世界か何かの可能性が高くなってくる。
「んー」
寝台に寝転びながら、情報をまとめた端末を眺める。ズレを感じた時、その方向も調べておいた。地図に書いてみると、みな真京の中央付近を指していた。ここに何かある。怪しいを通り越してもはや確信に近い。しかし確定していないのに動いて墓穴を掘りたくはない。
「でもこれ以上何か調べられるかなあ」
地中に何かあるという説もあったが、直接調べるために魔法で掘削すればすぐにバレる。地中を調査した際に出てきた土を保存している場所もあるらしいが、地上に出されて時間が空いていれば魔力は抜けてしまう。
「あー」
ちなみに地下鉄を調べたときは風があって調べられなかった。ああいう場所は空気を循環させるようにできているらしく、そして地下を走る鉄道によりさらに風が発生するため、換気的には素晴らしいことだが今の理奈にとっては都合が悪かった。
「理奈ちゃさん」
そもそも地下という場所は空気が篭りやすく、それは人間にとって有害になりうる。だから大抵の場所は空気循環が行われており、静止した空気などなかなか出会えたものではない。山頂で調べた時は魔法やら場所選びやらでなんとかほぼ無風の環境を作ったが、都心の地下でそんなことをすると目立つ。
「理奈ちゃんさん?」
それ以前に天井がある時点で参考にならない。天井により魔力の流れも変化する。個体が上空を覆っていない、そしてさらに深い場所があのような都会にあるはずがない。地下を調べる以外に何か調査の方法はないか。
「へい」
「うわっ、有留日か」
「なんか隙多くないっすか」
「......おっしゃる通りだよ本当」
前世の頃とは比べものにならないほど、言い訳のしようがないほど油断していた。敵意がなかったからとは言えるが、敵意なく襲ってくる輩に今襲われていたら死んでいた。反省してもし切れない。
「で、何?」
「空間魔法と転移魔法絡めた研究してたんすけど、なんだかよくわからないことになたんすよ。だからちょっとみて欲しくて」
「へえ」
なかなか興味のそそられる話題だった。最近空間魔法を知ったばかりなのによくもまあそこまで研究しようと思えるなと感心し、少し別のことを考えて頭をすっきりさせようと思い、自室を後にした。
そして研究室で見せられたものを見て、理奈は絶句した。
「ええ......」
「理奈ちゃんさんでもその反応なんすね」
何が起きていたかというと、空間魔法が転移魔法に飲み込まれていた。転移魔法の出口からは空間魔法はでていない。
そういえば二週間ほど前、空間魔法の研究がしたい有留日のために、空間剣装した剣を貸していたのだった。空間剣装は、使い方によっては性質をそのまま保持させることができ、魔力さえ供給すれば保持期間をかなり延長できる。
で、それを使った研究をした結果がこれらしい。理奈にも理解できない。転移魔法に空間魔法を突っ込んだら、おそらく転移の門が消滅するか、貫通するかだと思っていた。空間魔法の先はどこへ行ったのか。
「あ、術式回路これっす」
「ありがと」
渡された術式回路図と、魔力観測値を見比べる。転移魔法の方は、出口の魔力の方が入口より多いようだ。そして、両方の門の周りの魔力の流れを見つつ、回路を見て、を続けてしばらく後。
「......こう?」
転移魔法の回路を少しいじった。とある魔力流部分に魔法発生回路をひとつ加えた。
すると。
「あ!でてきたっす!」
「出るんだ...」
転移魔法の出口の門から、空間魔法の刃がはみ出していた。この辺りの魔力流がなんかおかしいな、と思い感覚で修正したため何が起きているのかは理奈にもわからない。だが、修正前後の記録は残っているので、考察を続ければ成功の理由もわかるだろう。
空間魔法を転移魔法に乗せることが可能なことがわかった。これは大きいどころの収穫ではない。理奈の使い方によっては戦術自体が変わってくる。理奈が魔力調査をしているうちにこのような研究をしてくれていたとは、本当にありがたかった。
「天才じゃん......」
「やった」
「転移魔法を開けて、空間魔法を叩き込んで、解除を繰り返すだけで一方的に敵を攻撃できる。不意打ちに必殺級の威力を持たせることもできるね。相手がそれに気づいて空間魔法してこなきゃ、だけど。いやあいつならそれくらいやるな......有留日、この研究を続けてくれるかな、空間剣装貸し出すくらいしかできないこともあるけど、できる限り協力する」
「元々そのつもりっすよ、今はちょっと詰まってただけなんで」
「ありがとう」
空間魔法を転送できる転移魔法を用意すれば何ができるか?まず最初に思いつくのは複数の地点への同時攻撃だ。燐意外には防ぎようのない攻撃をばらまくことができる。言うまでもなく出鱈目に強い手段だ。タネがばれても使い続けられる。一般市民の方に攻撃を向け内容に注意せなばならないが、 その程度些細なことだ。
また、空間剣装をあらかじめ渡しておいて支援してもらうこともできる。空間剣装は結構な魔力を消費するため他の面子に持たせることはしなかったが、転移可能となれば話は別だ。転移越しに狙撃してもらうだけで、燐がとの戦いが楽になる。
「ふふ」
これは戦争だ。楽しむべきものではない。だが、できることが増えるというのはどうにも心が躍ってしまうものだ。
さて、どうやって追い詰めて行こうかと考えていたところで、端末がなった。魔法が使われた警報だ。
落単したので勉強に本腰入れてました あと前回より後の展開を考えていませんでした だから四ヶ月開きました エタらないって行った気がするので思い出して書きました 頑張ります ごめんなさい
大学は人生の昼休みとか言いませんか?嘘つくな