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1-19 未知の怪物、法の蛇

多忙と化したので遅投稿です。ごめんなさい

(アスラ)は、見た中で一番高い瓦礫の上に飛び乗った。



「アレはお前らの仕業じゃないのか?」

「いや俺はお前が投げてきたのかだ思ってんだけど、アイツ」

「まじか...」



長い付き合いのせいかこいつの嘘はなんとなく分かるようになっているのだが、今回は嘘をついているようには見えない。どうやら燐もあの人間、いや、肉塊について知らないらしい。

さて、どう動くか。

まず通信が切れた。補助は受けられない。

燐は実力の底が見えているが、理奈と同じくらい強い。対してあの肉塊はなんの情報もない。

本来は情報の多い方を先に殺すのだが、今回それをすると潰しあった上で肉塊に殺される可能性もある。だから肉塊の方を先に、最低でも三つ巴にして対処したいのだが。



「まあいいか。お前もアレもここで...ん」



肉塊が瓦礫を破砕して姿を現した。赤黒く染まった体に獣のような影、最早さっきまで人間の形をしていたとは思えない様な姿だった。しかも、目に見えて大きくなっている。



「オ...アア......!」



理奈と燐を視界にとらえるとさらに大きさが増し、さっき見た電車の二倍くらいに膨れ上がった。

そして。



「アアアアア!!」

「!」



二つに分裂し、理奈と燐の両方に突進してきた。



「”氷化砕骨”」

「”火拳散塵”」



ただの突進程度、二人にとっては何の問題もない。無防備な肉体を完膚なきまでに破壊する魔法を叩き込めばいいのだから。

だが、やはりこいつの厄介なところはここから。加熱や凍結によって再生が遅くなるようだが、それでも本来は死んでいるような状態から復活する。未知の魔法が用いられているのは明らかだ。


ここで、この知性の欠片もなさそうな化物がいかにして魔法を使っているのかという問題が出てくる。


魔法の使用手段は主に二つ。自分で意識して使うこと、そして刻んだ術式に魔力を流して発動させること。前者は理奈が接続やら伝播やら大半の魔法で用いている手段、後者は現装魔法やこの剣の有機分解魔法機能に用いられている手段だ。


まず、実はこいつにはしっかりと知性があって魔法を使っている、すなわち前者の説。可能性はかなり低い。なぜならば、体全体を灰にされたり氷漬けにされても思考が働いていなければその状態から再生する魔法も使えないからだ。



「”凍結・推進”」



再び飛びかかってきた肉塊に再び凍結魔法を使い、吹っ飛ばす。さっきから突撃と飛び込みしかしてこない。馬鹿でももうちょっと考えるし知性は無さそうだ。


ならば次、体に魔法が刻まれている、すなわち後者説。あそこまで粉々にして術式が無事とは思えないのでこちらもなさそうだ。しかし、何らかの技術で物理的干渉による影響を受けない術式が開発されていた場合は別だ。なんとかしてその記録を消さねばならない。


これで前者と後者、可能性が低いとはいえ両方の仮説が揃ったが、それはあくまでこの肉塊が使用者だった場合。こいつは魔法を使っている訳では無い、それが一番有り得る。


考えられるものとしては、外部からの接続魔法で再生をされている、もしくはこいつ自体が魔法の産物であり魔法として操作されている、の二つ。どちらにしろ外部からの干渉によって回復しているということになる。


ちらりと燐の方を見ると、焦げたり凍ったりした肉塊を撒き散らして再生を遅くしようとしていた。そして向こうも同じようなことを考えていたのか、目が合う。



「...ちっ、”空間剣装”」



剣に空間魔法を纏わせ、蛇の内壁に沿って放つ。同時に燐も空間障壁を使用し、理奈と燐、そして肉塊が完全に空間魔法の断裂によって囲まれた。

それでも肉塊は向かってくる。生命の機能自体はあるのか、ならば接続による回復だったのだろう。



「”加熱”」



肉塊に剣を突き立て、加熱魔法を使う。これでこの化物もようやくただの灰に───


───ならない。回復し始める。



「うっそだろ!?」



思わず叫んでしまった。

空間魔法を貫通する外部からの干渉が行われている?それともこいつ本体が魔法を使っている?情報が少なすぎる。

考える。空間魔法による隔絶を無視した接続を自分が行うならどうするか。空間魔法を空間魔法で貫いて無理矢理通す。だが、先程の空間魔法は一切外部攻撃を受けていなかった。


そうだ。空間魔法なら、アレがあるではないか。空間を飛躍する靄。アレを通してこいつに接続を使用し、回復魔法を掛ければいい。


肉塊は重い叫びを上げながら殴りかかってくる。丁度いい。



「”空間剣装・小繭”」



迫り来る拳に剣の切っ先を当て、小規模な空間障壁を張る。腕の一部が切り取られるが、肉塊は痛くないのか、それとも痛くとも気にしないのかそのまま腕を押し込んでくる。そんなことをしても空間魔法に触れて肉が飛散するだけだが。

一旦肉塊を凍らせて遠ざけ、小さな空間障壁内に意識を向ける。空間魔法の反応から、この中の肉塊は戻る場所が分からずとも回復し続けており、常に空間魔法に身を削られている。

つまり、この範囲内に魔法が発動する何かが含まれているということだ。

もっと詳しく調べたいのは山々だが、アレと戦いつつ障壁を維持するのは面倒だ。この小さい範囲内なら、さっき以上に確実な殲滅法がある。



「”繭刺”」



空間障壁内に、可能な限り細かく空間魔法で斬撃を与える。石は砂に、木は粉になる程の細かい斬撃。すると、漸く回復は収まった。


思わずにやりと笑ってしまった。外部から隔絶し、ここまで細かく刻んでやれば回復は起きない。そしてなにより、斬撃の中で数瞬、空間魔法に触れた感覚があった。



「そうかそうか、そこにあったか!」



つまり、体内に細かい空間転移魔法が隠れており、そこを介して回復を行っていたということ。そしてそれは、理奈の使う空間魔法で切断できるらしい。

幸い相手は生物由来、引き金を再び引けば餌になるし、魔力が籠っているのでそれを利用することも可能。回復の起点が妙な魔力のせいで見れないのが厄介だが、ならば体を覆いきって切り刻んで終わらせてやろう。


そう思い駆け出した時、ふと(アスラ)が目に入った。空間障壁を蛇の内壁に反って展開し、篭手は刺々しい形になっている。


まずい、と思い空間障壁を自分の周りに二重に張る。次の瞬間、空間魔法越しに例の謎の魔法が使われているのが分かった。あの、全てを塵にする奴だ。

空間魔法に鑑賞することが出来ないのに何故、あいつならそろそろ何が起きてるか何となくわかるだろうに、と思ったところでその意図を理解する。


その魔法が終わった瞬間に空間障壁を解除、肉片の方向を見る。そこにはさっきまで肉塊だったものが、血の飛沫と塵となって下に落ちようとしていた。

そして、それらの中で何ヶ所か、回復が始まっている場所が何十箇所かあった。



「させるか」



その程度の数、理奈の前では一と変わらない。空間剣装による精密な斬撃で、全ての中央部を断つ。すると回復が止まり、肉塊だったものは地面へビチャビチャと落下した。


(アスラ)は何をしたかったのか。それは、あの塵の魔法で可能な限り細かく肉塊を分割することで、回復魔法がどこから発生しているかを可視化しようとしたのだ。そうすれば少ない魔力で回復の起点を破壊できる。そこからの処理については、あの凄まじい回復速度を上回らなければならないあたり我々にしかできない芸当だが。


燐の方向を見ると、あちらもその拳から放たれた空間魔法で回復起点を全て破壊し終えたところだった。

なら次はこちらに来るか、と思った所で、燐は瓦礫の上へ座ってしまった。



「何してんだお前」

「一旦停戦にしよう、これから戦っても損しかねぇ」

「は?」



嘘は言っていない。



「できる限りでいいから納得いく説明をしてくれ」

「この蛇の中で先に誰かに攻撃するとここから出られなくなるんだよ」

「はあ...?」

「こいつは一定以上の敵意と加害に反応してそいつを閉じ込める機能を持ってる。そしてそいつが死んで暫くすると口を開いて元の場所に戻る。そういう生物なんだ」



そんなバカみたいな話があるか、と思ったがこの蛇自体大きさがバカみたいな話のそれなので信憑性が高まってしまっている。



「じゃそのまま俺が襲いかかるの待ってお前が勝てばよかったんじゃないか」

「痛いところつくよなお前。正直今の状況だと俺が勝てないからだ。理由は考えてくれ、この辺はなんか言うだけで後々不利になりかねん」



あ、これ多分有機物変換魔法バレてるなと分かった。あいつにはそれに準ずる魔法とかが無いんだろう。そうなればこっちの方が使える魔力が多いことになり、あの塵魔法も使ってしまっているのもあってあいつは不利だ。



「......分かった。この後はどうすればここから出られる?お前を倒せないんじゃここにいる意味ないんだが」

「五分くらい待っとけば口が開く。そしたら帰れる。あ、間違っても口が開いたら殺せるとか思うなよ、また食われるから」

「はいはい、俺は帰れるならいいよもう」



現装を解除して燐の近くに座る。同時に、燐の装備が剥がれて蛇の奥に吸い込まれて行った。武装していない燐は、確か教科書で巫女の例として挙げられていたものに近いものを着ていた。確か巫女だとか言っていたし当たり前だが、見ているとなんだが妙な気持ちになる。アスラ(アレ)がこの服を着ているのかと思ってしまうせいだろうか。

そしてその燐もまた同じことを考えていたようで。



「お前なんだその服、現代の十四歳くらいが好きそうな」

「いいだろ別に」

「見た目はいいんだけど中身がお前だと思うとなあ」

「どの口が言うんだよ、この前のお前の口調の方が気持ち悪かったわ」

「巫女なんだよ、人前じゃあーやってなきゃいけないんだよ」

「すぐ崩したくせに」

「意味なくなったしお前ならいいだろって」

「雑だなあ」



ふふ、と笑う。姿違えど、今は敵でも、こいつ(アスラ)との話いいものだ。クレイとしての自然体が呼び戻され、気が楽になる。


しかしこの時間、まず無いだろうこいつと話せる貴重な瞬間だ。あまり無駄遣いはしたくないが、重要な情報なんて話してくれないだろう。

差し障りのなさそうなことはいくつか聞いてみる。



「なあ、何となく思ったんだけど、こいつってアラタノオロチか」

「ご名答、伝説のアラタノオロチだ。悪人を主に食い、時々悪人以外も食べに来る妖怪」

「下手な作り話だと思ってたけどまさかいるとはなあ」



悪人を食べる、か。

さっきの話でひとつ引っかかったことがあった。



「なあ、お前こいつは敵意と暴力に反応するみたいなこと言ってたよな、でも魔法で戦っても食いに来ないよな?魔法での戦いは罪判定されてないんだ」

「お前ほんとさ...俺も分からないんだよ何に反応してんのか、今回初めて動いてんの見たし」

「そこは言うんだな」

「まあな」



反応するときと反応しない時があるという情報は、かなり扱いづらい。なんせ「アラタノオロチは敵意と攻撃に対して反応し襲ってくる()()()()()」と考えたら、常に襲撃の可能性が頭を過ぎってしまう。こいつのことだからそれを理解して伝えているんだろう。

対策としては、ごく一部の仲間に伝えた上で理奈がなるべくついて行くようにする、といったところか。そうすればこの中で誰に遭遇しようが対応できるだろう。



「答えたからこっちも聞いてもいいか」

「どうぞ」

「端的に言えばこの世界について。どうせお前も色々調べてるだろ?不利益の出ない範囲でいいから何処まで分かってるか教えて欲しい」

「分かってる、って範囲だとなんも言えないぞ、なんも分かってないからな」

「確定してなくても考え方だけでもいい」

「それなら...」



啓介との話をいくつか思い出す。



「そうだなあ、俺達の居た世界は地形が変わるくらいずっと前か、もしかしたら別の世界かだと思ってる。地形、地名、言語の違いか多すぎてそうでもないとおかしいからな」

「待て」

「ん?」

「その前についてもだよ、なんで俺たちの意識が残ってるのか」



そうだ。こいつには転生魔法について話していなかった。こいつは禁忌系の魔法があまり好きじゃないからわざと黙っていたんだ。



「転生魔法を開発して、お前が死んだ後俺に使った。多分お前は巻き込まれた」

「転生...おい、それって魂系の魔法だよな?魔法倫理基本法で禁止されてたじゃねぇか、しかもそんな」

「ナルヴィークとかロゲルベンの協力で秘密裏にやってた。もしも相打ちになるようなことがあったらまずいって気付いてな。ギリギリ俺が勝ったけど死にかけてたから使った」

「ムカつくなあ色々と」

「まあ、そこは謝る」

「で、なんで俺は巻き込まれたんだ」

「そこは自分で考えて」

「不利になるやつか」



まあ、言ってしまえば血溜まり経由で魔法がアスラにも適用されたんだろう。自分を魔力にして情報を読み取るつもりが、実際は変換の対象が生命由来の物質だったせいで、流した血を経由してこいつも情報化されたという訳だ。それで、血溜まりの部分は情報量が少ないからなのか何らかの衝撃でクレイとアスラの情報がたまたま上手く分かれ、別の人間に憑依した。たぶんこうだ。



「しかもロゲルベン絡んでるって実質政府の研究じゃねぇか」

「そうだな」



ナルヴィークは家の功績から政府により貴族指定された功績貴族、ロゲルベンは政府中央研究室の長。二人とも政府公式に縁の深い人間だった。



「はぁ、禁忌系の恩恵受けたうえにそいつを政府がやってたってのは気に入らんけど、過ぎたことはどうしようもないか...で、なんだっけ、時代が隔てられてるかそもそも世界が違うかで考えてんだって?」

「ああ」

「俺の考えは後の方にちょっと近い」



意外だった。こいつも同じように時代飛躍説を考えるかなと思っていたから。



「まじか、俺前の方推しなんだけど」

「そうか、アレ言わなきゃいけないか。この世界の外側にも世界があるんだよ、多分」

「は?どういう意味だよ」

「意味も何もその通りなんだよ、後で地図見て考えろ。とにかく、俺たちの今いる世界は俺たちの前居た世界じゃないと俺は思ってる」

「うーん」



すぐには理解できない話だ。おそらく情報格差のせいだろう、そしてその情報源は口には出して貰えないと見た。


どうしようもないし言われたとおり後で考えようと思い次に何を聞こうかと考えたところで、蛇が口を開き、外の景色が見えた。三宿駅の線路の上だった。



「開いたな、じゃ、次会った時はちゃんと敵だからな」

「ああ、分かってる。次は戦場で」



蛇の口から飛び降りて、見返す。蛇は既に口を閉じており、かなりの速さで空へ戻って行った。



「はぁ...」



ちょっと現代について知るだけのつもりが、とんでもない旅になってしまった。おそらく空間魔法を使う別の敵、アラタノオロチ、そして世界の外。まとめるのに少し時間が欲しいところだ。



「理奈さーん!?」



既に聞きなれた声の方を見ると、広場だったものの端から唄が飛び降りてきた。



「何今の、てか何があったの!?」

「色々あったから直ぐに戻ろう。話したいことが出来た」



唄は混乱していたようだったが、通信して靄を目の前に出してくれた。


よく分からない情報を大量に食らったが、整理すればきっと大きな武器になる。今からすべきことを考えつつ、靄の中に飛び込んだ。

課題が増えたんです。


あと、書きたい話が出来ちゃったのでそっちも描き始めるかもしれないです。完結してから描きたかったけど書きたくなってしまったので

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