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1-1 溢れる平和の端の端

これが1話です

転生は成功した。

成人男性の豊富な知識と魂の質量に赤子の頭脳が耐えられるわけが無いとは思い、体に魂が入ってから脳がある程度成長するまで制限をかけるようにしていたため、記憶が戻った瞬間彼の魔法の成功は証明された。


そしてまず、自分の体が女であることに気付いた。

鏡を見ると、幼いながらも美しい少女がいた。長い黒髪に白い肌、辛口評価されても美しいと言われそうな姿。

ただ、自分である。

抑制された魂で十年過ごしてはいたが、それでも凄まじい違和感がある。



クレイはそれについて考えるのをやめた。おそらく時間が解決するであろうし、それ以上にすべきことが多いからだった。


まずすべきことは情報の整理だ。

朧気な現世の記憶を、何とかして掘り出す。不完全な魂で過ごして来たとはいえ、少しはわかることもある筈である。


まずは自分について。名前、ためが井・理奈。年齢、十歳。転生した時点で自分はクレイではないことには気をつけていかなければならない。


次に周囲の環境である。


今いる場所は部屋の、おそらく寝床と思われる場所。前世では体験したことのない、沈み込むような柔らかい寝床である。かけるために使われていると思われる布も厚くて軽く、また枕もとても柔らかい。技術の発達が寝床にまで及んでいるあたり、世界はある程度平和なのだろう。


寝床の隣には大きな何かがあった。見たところ手足の短い何かの動物の形をしているが、生命の気配は一切感じず、生臭さもない。革新的な食料の備蓄がされているのか、それとも飾りか。確かどこかの国で動物の皮を装飾にしていた覚えがあるので、その類かもしれない。


部屋の壁は白く、床は板張り。どちらもかなり綺麗に保たれており、しかし豪華さはない。そのふたつが同時に存在する状況もまた初めて見るものである。


そして何より、机と椅子、そして本。本がいくつも並んでいる。信じられない光景である。

立ち上がり、それらをいくつか取って見てみると、細かい文字や絵が沢山並び、しかも同じ文字は本当に全く同じ形をしていた。一体どのような技術を用いているのか気になるところである。


ここで一つ気づいたが、前世とは文字がだいぶ違うようである。しかしそれでも一部の字を除いて読める。そこは一応覚えておいてくれたのか、と不完全な魂に感謝した。

但し何が書いてあるかはよく分からない。読めても分からない部分が多い。


たかだか部屋の中だけでここまでの変化を感じることが出来た。一体外に出れば何が見えるのか、若干興奮しつつ窓にかかった布をどけ、外を見る。



「......んな」



その景色は、整っていた。

部屋は丘の上の方にあるらしく、かなり遠くまで見通すことが出来た。

真っ直ぐな道、直線的な建物、ありえないほど高い構造物。何かを言うことも出来ない。そもそも家と思われるものの数が異常に多く、敷き詰められている。


あまりにも違いすぎる。

あらゆるものが発達している。

手元から地平線まで、人工物という人工物が全て進化している。

ここまで来ると、驚きだけではなくほんの少しの不安を感じてしまう。



「......何年経った?」



今がいつかを確かめるためには、街にひとつはある教会か集会所に行くのが楽だ。が、ここまでの変化があるとそれらも残っているかは分からない。


取り敢えず、部屋から出てその手段を探すことにする。窓から外に降りることも以前は出来なくは無かったが、この体はまだ魔法を使ったことはおそらくなく、出力がどれほど戻っているかは分からないため、後々にどこかの広場で試すことにした。


で、扉に向かったものの、ここでも驚きがあった。

扉に着いている突起を回すと、扉が開くようになる仕組み。不完全な時は普通に使っていたはずのものも、復活した精神から見れば、このような技術も驚きものである。


それにしても、ここまでの十年の記憶が異常に少ない。この突起を回すことは出来ても今がいつなのかの情報が入っていない。恐らくこれも転生魔法の影響だろう。少なくともクレイが十歳の頃に比べたら頭に入ってきている情報量が違いすぎる。


部屋の外にあった部屋もまた目新しいものだらけだが、その中で「二千七百三」の文字を見つけた。その下には四角が沢山並び、三十一までの数字が書かれている。

これは、知っている。貴族の家で何回か見た、暦を記したものだ。

確か終戦式典の際、二千五百十年何日だとか言っていたため、もしこの二千七百三が年を表しているなら、およそ二百年経っていることになる。



「うわ......」



世界を守るなどと言っておいてこの様か、と自分を嘲笑う。分の悪い賭けは、大敗までは行かないもののそこそこ負けてしまったようだ。

ただまあ、見たところ平和なようなので少し安心した。



さて、年月に関する疑問は解決したので、次は魔法の確認を行いたいところである。

室内での魔法は非常に危険だ。少しでも規模を間違えると大惨事に発展する。先程見た景色の中に、確か特に何も建っていない、木々に囲まれた丘があった気がするので、そこを目指すことにした。


これまた綺麗な階段を下り、朧気な記憶に従って歩くと、扉があった。玄関である。

足の大きさからして自分のものであろう靴に足を入れ、先程と同じように突起をひねり、開けようとするが、開かない。



「ん?あれ?これどうなってるんだ」



ひねっても、まだ何かがつっかかっている。

現世の知識が足りないので前世の知識で考えると、これは鍵がどこかにあると考えられる。外にあると詰みだが、どうやら扉の中からカチャカチャと音がするようだ。扉の中に鍵を入れる技術など知らない。

とりあえずしばらく扉を見て考えていると、突起の上に小さな何かがあることに気がついた。平たい金属の小さな板が、扉にくい込んでいる円柱にくっついたもの。


閃いた。

それを指で掴み、捻る。するとカチャンという音がした。

それと同時に突起を捻ると、扉が開いた。



「成程、この時代では捻る文化があるのか」



考えてみれば合理的だ、簡単に出来るが、自然では無い動き。重要な場面ではなかなか使えるものである。


玄関を出ると、目の前は道。それも、真っ黒で良く固められた道。

足を踏み出して分かったのは、こらもまた進化であるということ。土の道よりもはるかに歩きやすく、おそらく雨でぬかるむ心配もない、素晴らしい素材を使っているらしい。


空間把握は得意なので、先程見えた丘がどちらの方向にあるかは何となくわかる。それを頭に入れ、歩いてゆく。


しばらく歩いていると、前の方から大きな何かが近づいて来た。車である。

現世の記憶で乗ったことがあるため分かったが、その経験がなければまず分からないだろう。引っ張る動物もいないのだ。どのように動かしているのか気になるところである。


さらに歩いていると、通行人と出くわした。見たところ三十くらいの母親と、十くらいの少女といった感じである。

最初は特に気にならなかったが、少しして、二人ともずっと自分を見ていることに気づく。



「あれって......」


「ためがいさん......?」



どうやら自分のことを知っているようだが、記憶をどれだけ辿っても人間の顔がはっきり浮かばない。何とか一人の女がもやもやと思い出せる程度で、それ以外の人間を認識することなく生きてきたのだろうかと思えるほど人の顔が浮かばない。

これは不完全だった自分についての情報を、ついでにほかのいくつかのことを知る良い機会である。



「どうかしたのか?」

「喋った!?」



喋るだけで驚かれる人間だったのか。



「なんで喋るだけで驚くんだ?」

「ためがいさんなにか喋ったの見た事なくて......いや、返事はたまにしてたけど自分から話してくるなんて」

「私も為我井さんからもほんとに何も言わないってよく聞いてる」



成程、おそらく少女は自分と何らかの同じ共同体に属しているのだろう。そして理奈は人と関わる能力が致命的に欠如していたようだ。他人の親にその情報が届くくらいに。

さてどう説明するか。転生魔法はかつて研究が違法とされていた人魂魔法に類するもの。クレイは、最終手段として秘密裏に、それも功績とその理由から公安魔法部隊からの直の許可を得ての研究だった。

今の自分はクレイではない。今ここで転生魔法がなんだとか言うのは色々まずいことになる可能性がある。



「いやー、さっき頭を打ってしまって」



そして咄嗟に出てきた言い訳がこれであった。



「え、そうなの?」

「ああ」

「あー、うん、そうなんだ。とりあえず」



そんなことあるのかな、と少し疑問を口に出しつつも、実際にかなり変わってしまっている理奈を見て、とりあえず二人は納得したようである。助かる。

ならば次には、少しは情報を聞き出したいもの。重要かつ、10歳の少女が聞いておかしくなさそうなことである必要がある。

数秒考えた後、決めた。



「ところで、ここの辺りで本が沢山読める場所をどこか知らないか?」



特定のことを聞くよりは、多くを知れる足がかりを得た方が良い。先程見た本は、どれも全く違う内容に見えた。しかも家の少女の部屋にあるということは十歳の子供が読んでも普通な筈だし、それなりに広く行き渡っているのかもしれない。なら、本が沢山見れる場所もあるかもしれないし、そこで色々な情報を集められるかもしれない。無ければまあ、家にあったものを読めばいい。



「図書館のこと?それなら第二公園の前にあるけど...」

「ダイニコウエン?」

「ほら、あっちの丘の上の広場が広いところ」



少女が指さした方向は、目的地とだいたい同じ方向だった。丘の上と言っているあたり、向かう広場がダイニコウエンで、その前にトショカンがあるのだろう。



「ありがとう。それじゃ」

「えっ、ああ、うん、じゃあね」



あまり長い間拘束しても申し訳なく、またトショカンとかいう本が沢山ある場所に行けばとりあえずかなりの情報は集まるであろうし、二人との話はここで終わらせておくことにした。どうせまた会うこともあろうし、仲を深めるのはその時でいい。



そしてしばらく右に行ったり左に行ったり坂を上ったりしていると、丘の上のダイニコウエンに着いた。その横には家々の数倍はある建物があり、恐らくこれがトショカンと思われる。だが取り敢えず今はこのダイニコウエンで魔法を試す。

入口と思われる場所まで来ると、「たなのだい第二公園」と書いてあった。ここでようやく、ダイニコウエンは第二の「公園」を意味したことに気が付く。このような木々に囲まれた場所を公園と呼んでいるのだろうか。


入口から入ると、まだ坂が続いている。上ると、ようやくさっき家から見た広場に着いた。

人はいない。好都合である。

そこら辺に落ちていた適当な枝を拾う。クレイが最も得意とする「剣装魔法」は、その名の通り剣に魔法をかけて強化するもの。そして、剣はそれっぽい形をしていればなんでもいい。


ようやくこの時が来た。



「空間剣そ─」



早速そのひとつ、空間剣装を使おうとするが、即座に違和感に気付く。

魔力が集まらない。


魔法は魔力を用いて使用するもの。そんな魔力は二種類、体内に溜め込む内魔力、空中に満ちている外魔力がある。内魔力は時間が経てば回復するが、そこそこの規模の魔法を撃つだけで枯渇してしまうため、基本的に魔法で使う魔力は外魔力である。


その外魔力が非常に薄い。一度魔力を高速消費することで無理矢理周囲の外魔力を枯渇させる魔法を見た事があるが、その時よりも薄い。



「...強化剣装」



試しに消費の少ない別の魔法を内魔力を用いて使うと、普通に発動できた。だがこれではあまりにも使いづらい。



「......まさか」



そう思った瞬間、また別のことに気がついた。

そもそもクレイは世界最強の魔法剣士であり、周囲の魔力の変化から何が起きているかを把握することが出来た。しかし、現世に来てからその感覚が失われている。


一刻も早く情報を手に入れる必要がある。枝を投げ捨て、トショカンに急いだ。



エ〇オのパ〇ドラガチャ発〇配信大好き、1日1回やって欲しい

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