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1-10 壊れた尊厳の廃材アート

「...」



なんだよ。



「気付かれたか」



俺が気づかないわけないだろ。



「や、ちょっと話したいことがあってな。すこしいいか?」



いいぜ、暇だし。



「俺達は世界最強だ。俺達の右に来れるやつなんて居ないだろうな」



お?いるかもしれないぞ?見つかってないだけで。



「馬鹿言え。そんなんいたらとっくに見つかって軍の中さ。んでよ、要は俺達は無敵って訳だ」



だなあ。



「でもさ、俺とお前が戦ったらどうなるんだ?」



......さあ。



「この戦争は俺とお前の考えが一致してるからいい。でも、この戦争を終わらせて次は、分からないだろ」



そうだな。お前と俺、結構色々違うしな。



「だからその時どーすっか考えてた。で、お前に意見を求めに来た」



そんなの簡単だろ。



「どうすんだ?」



どっか人のいない場所で、二人でやり合って、生き残った方が生きる。



「成程な、そうすれば被害が減るしな。でもよ」



ん?



「お前ど───────」








目が覚める。視界には空ではなく、ぐらい天井。



「...夢か」



体を起こし、顔を洗う。ここでしゃきっとしないと、一日がどろどろしたものになってしまう。終わりよければ全てよしと言うが、始まりが良くないとなかなか終わりまで良くならないものだ。


しかし、前世の夢を見るのは初めてな気がする。もしかしたら覚えてないだけかもしれないが、朝起きて認識しているのは初めてだ。懐かしい感じがしたが、どこかほとんど何も分からないが、何かが引っかかるような夢だった気がする。


時計を見ると四時四十五分。殆どの人は寝ている時間だが、仕事や趣味で起きている人もいる。深夜と朝の境界である。



部屋を出る。足音で誰か起きても可哀想なので、浮遊魔法を使って移動する。やはり魔法は便利である。

さて、どこに行こうか。せっかく早く起きたのだから何か面白いものでもあればいいのだが。


そうして飛んで数十秒、あきねに遭遇した。どうやら走り込みをしているらしい。



「おはよう」

「あ、おはよ。早いね」

「そっちこそ」

「たしかに」



あきねはそう言うと、持っていた布で顔を拭う。



「あー、昨日はほんとごめん」

「気にしなくていいよ。俺にとってもあの遊びはいい経験になった」

「それもあるんだけど、あたしもいろいろ吐いちゃって」

「それについてはこっちからも感謝してるくらいだよ、ここに居る理由がしっかり決まったし」

「ならいいんだけど」



そう、昨日のあの時間は、偶然のものだったが得るものが多かった。一晩経ったらあの恥ずかしさももうどうでも良くなり、ここに来てさらに一皮剥けた気分である。



「おっと、止めて悪かったな。走り込みの最中だろ」

「いいって、あたしも言いたいこと言えたから。じゃ」



そう言ってあきねは走って行った。

彼女の背中を見ながら、思うのは自分の体のこと。十歳児の体はやはり弱い。最近運動していないのは少し問題だろう。暇があればああいう風に走ったり、確かここには運動室もあったはずなのでそこを使うことも考えた方がいいかもしれない。



さて、続けて魔法区画を高速浮遊徘徊していると、灯りがついている場所があった。有留日の研究室である。



「あーるひー、起きてんのー」



飛行速度を弛め、彼女の研究室の前で停止し、中を覗く。そこには、有留日がいたが、奥には雷、そしてもう一人男がいた。



「あ、理奈ちゃんさんおはようっす。なんか用っすか?流石にまだアレは完成してないっすよ」

「いや、起きたから徘徊してただけ。なにしてんの?」

「協力者に渡す記録の選定っす」

「協力者...あー、あれね。なんだっけ、月型(つきがた)?の社長?」

「会長っすね」

「なーにが違うの」

「一と四ぐらいじゃないすか?」

「四倍違うな....」



七日間の多くを共にすごした有留日とは、彼女の性格もあってだいぶ仲が良くなっていた。この時代についての知識も多くを彼女から得ている。

月型の会長についても彼女から聞いた。確か月型重工という巨大な企業を中心とした会社の集まり、その頂点に立つものらしい。四十がそこらで、立場の割にかなり若いと聞いている。


ここでは食料などは自給できているようだが、どうしても自分たちで用意できないものはある。そういう時はここに来た後に回収した貯金を使い、人の多い場所に出て戦える人間同伴で買ってくるのだが、魔法の研究などではそういう行けば買えるようなもの以外の需要が時々発生する。

そんなときに彼を頼るのだ。彼は個人的な範囲で魔法に興味を持っているらしく、その財力をもって処理部隊の目を逃れて取引ができるような場所を用意したそうだ。取引内容は毎回魔法の新しい情報と特殊な機械。それにしても、知るだけで感知して殺しにくる連中相手によくもまあそんな芸当を成し遂げたものである。



「今回は私の頼みでー、吊り上げ車を搬入してもらえるんすよー」

「ツリアゲシャ?なんだそれ」

「そのままっすよ、ものを吊り上げる車っす」

「へぇー」



釣竿でも使えばいいのではないか?と思うが、必要なら必要なんだろう。理奈の知らない理由が存在すると考えていい。



「てか気になってたんだけど、その会長とやらは信頼出来るのか?魔法の使わせて貰えない世界で処理部隊から逃げつつ魔法の知識集めてるんだろ?」

「してないっすよ、信頼は」

「してないのか、取引してるのに」

「処理部隊に勘づかれず魔法を知ってる時点でいろいろ気になることあるっすからねぇ。だから取引の時に渡す情報は全部古いやつにしてるんすよ。そうすれば万が一の時も優位に立てるし、それで負けたら元々負けしかないっすから」

「なるほどね、そこは考えてんだ」



その通りである。情報の有利を取っておいて負けるなら何をしても負ける。彼女含めここの研究者は結構優秀そうなのは七日間前に立って何となくわかったし、その七日間の講義でさらに新しい魔法を教えた。それなら、こちら側にしかない情報もだいぶ潤沢なことだろう。それなら心配してもしょうがないというものだ。


それにしても、取引か。そのツリアゲシャとやらも、月型の会長も少し気になる。ここで一発見ておくのもいいかもしれない。



「なあ、俺もそれついてっていいか」

「いんじゃないすか」



即答だった。



「ちょっと待て」



しかし止められてしまった。

止めたのはさっきから電子機器を覗きながら恐らく情報選択をしていた男。名前は、確か桜ノ宮(さくらのみや)天馬(てんま)。八日ほど前に自己紹介は聞いたが、あとは少し魔法講義に顔を出していたくらいであまり接点がなかった。



「やたら落ち着いてて魔法に詳しい十歳児がいたら色々怪しいだろ」

「それもそうっすね...話さなきゃいいんじゃないすか?」

「いや、なんというか、俺はまだあまり九礼(くれい)を見慣れてないんだが、行動の節々の違和感が凄いんだよ。こう、どう見ても子供なのに大人が体を動かしてるみたいな。実際そうなんだが」

「ばれますかねぇ」

「俺でもわかるしあの人なら一瞬で見抜くぞ」



なるほどそれはゆゆしき問題である。詮索されてしまった場合、嘘をついてもそのうちばれるだろうし、バカ正直にいえば魔法情報に差をつけていることを明らかにすることになる。理奈の在り方の歪さがこのような形で影響を及ぼすとは。

しかし。



「それなら解決手段はひとつあるぞ」

「何すか?」

「俺が子供を演じればいい」



そう、問題は見た目と行動の乖離。それを無くせば良い。



「......それきつくないか?色々と」

「私達が混乱しそうっすね」

「事前に聞いてれば大丈夫だろ」

「まあ俺たちはいいとしても、九礼の方は大丈夫なのか......?」

「何が」

「そういう演技ってやってる本人が一番しんどくないか?なんかこう、尊厳みたいなのが」



成程確かにその通りである。大の大人が十歳児を、それも元男が女児を演じるなど、普通の精神では耐えられまい。恥ずかしさとかそういうもので押しつぶされてしまうだろう。普通の大人は。

だが理奈は違う。何故ならば。



「心配するな、昨日捨てた」

「は?」

「偶然だけど、そんなの昨日捨てさせられた。今の俺は、十歳児だろうがなんだろうが恥ずかしがることなく演じられる」



昨日のはるなとのお遊び、それは、今の体が少女のそれであることもあって大人としての精神のどこかに大きな穴を開けるものだった。

だが、もしかしたらその破壊はこのためにあったのかもしれない。これから幾度とあるであろう機会、その中で見た目と行動の乖離を見せないための訓練。



「でも上手いんすか?下手な演技だったら逆に怪しまれるっすよ」

「あー、確かに。それはちょっと試す必要があるな。うーん......」



こほん、と喉を調整する。昨日のはるなの、はきはきとした無駄の多い動きを思い出す。英雄たるもの、どのような技も再現せねばならない。それがただの動きで解決できるのなら、尚更だ。



「......九礼理奈です!」



とりあえず実行したそれらしい自己紹介を見て、二人は絶句した。まだ心が削ぎ落とされていくような感覚を覚えるが、耐える。



「どうした?さっきからなんか話してるが」



奥から(らい)が出てきた。だが、多少の状況の変化によって演技が中断されてはいけない。



「今子供っぽい演技を二人に見せてるんだ!どう思う!?」

「!?」



そのままの調子で返事をすると、雷まで固まってしまった。



「三人ともなんで黙ってるの?」



沈黙が理奈を襲う。まるで石造りの建物がのしかかっているかのように、冷えた静寂が心と体を圧迫する。だが、それでもやめてはいけない。これは演技を見せると共に、それが続けられるかも見せる場。英雄の精神力で貫き通せ、戦争よりはマシな状況だぞ。



「まあいっか!じゃあ私」

「もういい」

「それっぽ過ぎてなんか怖かったっす」

「何だ今の」

「分かってくれたならいいや。これで俺もついてっていいのか」

「どすか、てまさん」

「あー、それを一時間くらい続けられるのか?」

「可能」

「じゃいいか......」



なんとか同行を許可された。事前に尊厳を砕いた甲斐が有るというものだ。特に予期していた訳でもない偶然だが。



「それじゃ理奈ちゃんさん、とりあえず着替えてきてくださいっす」

「わかった」

「結局今のなんだったんだ?」

「それがな───」



推進魔法で研究室を後にする。果たしてツリアゲシャとは何なのか、月型の会長はどんな人間なのか、気になるところである。

一週間の前半の講義負担デカすぎるので月火は投稿ない可能性が超高

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