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セリュジア王国幸福論  作者: こじし
ボスワース領編
9/13

遭遇?

 改めて考えてみると、この広大なボスワース領で一匹のネコを探し出すなんて無謀ではないだろうか。そんなことを思いつつ私とカミラはひたすら街中を歩き回っていたのだが、気が付けばタイムリミット。任務は夜間の見回り隊に引き継いで、初任務は終了となった。

 隊宿舎に戻り、朝と同じような形で夕食をとった。少し違ったのは、周りがお酒も入ってひたすらガヤガヤしていたことと、見習い五人の間に会話がなかったことだ。まあ、クレオンだけは一人永遠に喋っていたが。

 私も部屋に戻るころにはとてつもない睡魔が襲ってきて、お風呂から上がると倒れこむようにベッドへダイブした。

「つっっっかれたぁー……」

 あっついお湯で少し目が覚めたが、それでも身体がだるくて上がらない。街を歩き回っただけでここまで疲れるとは、この先やっていけるんだろうか。


―――それに、結局()にもまだ、再会できていない。


「『18歳』、『王国軍』、『王都』……」

 次王都に行くのは見習い期間が終わる一年後。だからてっきり入隊式で会えると思っていたのだが、結局カミラにも学院にいたか聞きそびれたし、パフォーマンス後の人混みをギリギリまで探し回っても彼らしき人物は見つけられなかった。

 実はあの時、向こうも私と同じように探し回ってくれていたのだろうか。

 それとも、私の名前を忘れてしまって探せなかったとか?

 ……または、『約束』のことさえも、忘れてしまっているのだろうか。

「…………はあ。」

 身体だけでなく、どうやら心も疲れているらしい。

 いやな想像が消え去るように顔を枕に沈めて、ぎゅうっと瞼を瞑った。


 ―――きっと、おぼえてくれているよね。だって、あの『約束』は。


「…………?」

 何か聞こえた気がして、身体を少し起こした。あんなにきつく閉じたはずの瞼も軽々と持ち上がって、私は窓の方に意識を集中させる。


―――コン。コンコンコンコンコンコン。


 ノックにしては明らかにリズムや回数がおかしいし、音もすごく控えめだ。なによりここは隊宿舎の四階。竜族とかでもない限り、ベランダに降り立つのは難しいだろう。

 一応杖を召喚しておいて、私はそっと窓へ近づいた。カーテンに手をかけると音がやんでしまったので、もしかしたら私の存在が気づかれたのかもしれない。

 気づかれてしまっては仕方ない。と、多分向こう側が思っているであろう言葉をぼそりと零しながら、私は勢いよくカーテンを開けた。


「ニャー」

「…………?」


 窓の外には綺麗なお月様。と、その1.5メートル下に同じくらい綺麗な真っ白い……

「ネ、ネコ……!?」



「失礼します!……ってあれ?」

 ネコを小脇に抱きながら急いで副隊長室に来たのだが、明かりはついているのに不在だった。窓も空いているので、どうやらつい先程まではいたらしい。……それより、その窓の下に脱ぎ散らかしてある靴と靴下がとてつもなく気になるのだが、今は我慢だ。

「わっびっくりした……」

 少し高音な男の人の声に振り返れば、ちょうどエディさんが書類を届けに来たらしかった。

「こんな時間にどうしたの……って、それ、ネコ?」

「あ、そうなんです。私の部屋のベランダで保護したんですけど、副隊長が不在で……」

「べ、ベランダ!? ……まあいいか。副隊長は僕が呼んでくるから、アニタさんはこの書類を副隊長のデスクに並べといてくれるかな? あとネコの監視も。」

「了解です!」

 そう言うとエディさんは、軽い身のこなしで出て行った。……窓から。

 とりあえずネコを床におろして、大量の書類をデスクに運ぶ。が、そのデスクにはもう乗り切らないほどの書類が溜まっていて、窓からの風で床にもだいぶ散らかっている。

 この書類の山になら積めるかな? とか、いやこっちだろうか? とか、私の持つ書類は永遠に宙を行き来して一向に落ち着かない。

 するといきなり白ネコがストンとデスクの上に飛び乗って、私と目を合わせた。

「?」

「にゃあ」

 そうひと鳴きした途端、ネコから白い暖かな光がふわりと発せられ、紙という紙が一斉に宙に浮いた。

 激しい風が部屋中を舞い、やがて確かな流れを作って紙が四つの列を作っていく。

 そして最後の一枚が舞い落ちたころには、デスクの上に膨大な量の紙たちが綺麗に四列、ものすごい高さに積まれていた。

「なんだ、今のは……」

「! あ……」

 気が付けば副隊長とエディさんが窓から顔を覗かせながら、私と同じように目を見開いていた。




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