動機
長らく更新ストップしていて申し訳ございませんでした!
またスローペースですが更新していきたいと思います!
入隊式の流れを一通り教えてもらったところで、私はようやく隊服に着替えることができた。といっても、真黒な隊服に紫のベルトを通しただけである。昔は上下揃いだったらしいが、誰かが『おしゃれしたい』と言って隊服の下は自由になったらしい。先程のお姉さん達の中にはスカートを着用している人もちらほら見られる。
「アニー行こう」
呼ばれて振り返ると、紺色の隊服に銀色のベルトを通したカミラが手招きをしていた。かっこいい。
隊服とベルトの色は種族によって異なる。
「おっ迷わず来たなお前ら」
「エド!」
私たち黒魔族は黒に紫、カミラたち剣族は紺に銀、竜族は茶に黒、拳族は深緑に茶、そして白魔族は白に黄、といった具合だ。
更衣室から出てひたすらまっすぐ歩けば、すぐに入隊式の会場である巨大な広場に着いた。三十人程度がごった返す中で、私と同じ色の隊服を身に着けたエドがニヤつきながら手を振っていた。私たちは苦笑気味に近づく。
「……さすがにこの距離で迷いはしないよ」
「どうだかな。それよりもう見たか? 班分け」
「班?」
「見習い隊士の班さ。今年は五人ずつで構成されてる。」
入隊して一年は、まず見習いとして先輩隊士とともに任務をこなしていく。その班が既に掲示してあるらしい。
「まだだけど、エドは見たの?」
「おう。お前らとは違う班だったよ。」
「それは残念ね。」
「ちなみにお前らは同じ班な。」
「お、やった!」
よろしく、とカミラは眩しい笑顔を私に向けた。正直『約束』のためとはいえ、この孤児院で同世代とは(例の男の子を除いて)まったくといっていいほど関わってこなかった私が知らない人たちといきなり仲良くできるか不安だったので、こうしてカミラやエドと早々に話せるようになれたことは嬉しい。
「迷ってよかった……」
「?」
「あ、いや、その……ふ、二人はどうして軍に?」
「急ね……私は道中で話したように、姉の力になるためよ。」
「あ、そうだったね」
つい口から本音が零れてしまったので咄嗟に話題の転換を試みたが、どうやら転換先を間違えてしまったようだ。とりあえず笑って誤魔化すと、カミラは小さく首を傾げたが、そのまま流してくれた。
「エドはどうなの?」
「俺? んー……」
エドは頭をボリボリ掻きながら明後日の方向を見た。気だるそう、というよりもなんだか少し照れくさそうだ。
「まあ、なんだ。俺もカミラと似たようなもんだ。追っかけみたいなそんな感じ。」
「…………ふーん?」
「なんだよ」
「いえ別に」
エドも私と同じくモンテマジョル領を出たばかりのはずだから、学院出身ではない。となると人並み以上の志望動機がありそうなものだが、あまり言及されたくなさそうだったので引くことにする。
エドは居心地が悪そうに、今度は私の動機を尋ねてきた。
もちろん、私は。
「約束したんだ」
「約束?」
「そう。……昔、同じ年くらいの男の子と。大人になったら王国軍に入って、そして王都で会おうって約束。」
「なんだかドラマチックだな」
私は目を瞑り、あの暖かな笑みを思い出した。
やっと、やっと私、ここに来れたよ。
「じゃあ、そいつも軍にいるのか?」
「……え?」
ぼーっとしていたからか、予想外の言葉だったからか、私は即座に反応できなかった。
「? だって、軍に入って王都で会うってことは、そいつも軍に入る予定だったってことじゃねぇの?」
「……そ、そっか……!」
今まで漠然としか考えていなかったが、そうか、そういうことになるのか。
私は途端に胸がざわざわしてきて、周りをキョロキョロと見渡した。
「じゃあ学院にいたかもしれないわね。その人の名前は?」
「な、まえ……」
名前は――。
答えようとして、口を開いた。だが、何かが浮かぶ直前に突然心地の良い低温が広場に鳴り響いた。星塔≪アステルス≫の鐘だ。
「お、やっとか。話はあとだな。」
エドは軽く身だしなみを整えて塔の方へ身体を向けた。カミラや他の人たちも同じようにして、先ほどまで雑音でいっぱいだった広場は一気に静まり返った。
戸惑いながらも同じようにして、横目でカミラを見た。するとカミラはにっと笑って、期待に満ちた目線をよこした。
「入隊式の始まりよ」
しかしなかなか話が進まないな。