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混血の竜騎士  作者: サガロワ
~序章~ 血は全ての始まり
9/10

シュメール城迎撃戦

01

 僕達が城に戻って来て6日が経過した。この間に、城の周りには騎士達が泊まる為のテントが設営された。

 テントは1部隊に一個支給されておりその数は城の外壁を容易に覆うほどになった。

 城壁の上には投石機と固定ボウガンの[バリスタ]がびっしりと並べられている。

 投石機は敵部隊の奥を攻撃し全線の負担を減らす機械だ。バリスタは主に対空兵器として使われたり一撃の威力が高いのでオークがオーガ等の巨体な魔物に対して使われたりする。

 隊長から聞いた話によると、警戒状態の時は魔物達が攻めてきても早急に対応できるように城跡の周りにテントを張るようになったらしい。

 僕達の年齢の騎士達はそんな場面見たことが無かったので、(こんな事態になったところを初めて見た)慣れない状況で困惑するばかりだ。

 夜の警備は城壁の上から見張る者、下で見張る者に別れて行う。2時間おきに交代する仕組みだ。

遠足で見張りを経験しといてよかった。おかげで夜中に起こされても意識がしっかりと保てる。クラインは何度か交代の時間になっても起きず、アルキールの拳を食らって起こされていた。

 6日目の早朝、まだ周りがうす暗い頃。見張りを終えた僕はカイルといっしょにテントに戻ろうとしていた。

 その時、城壁の上から鐘が鳴った。不安を煽るように鳴り響く鐘を聞いてすぐ、僕達は自分達のテントに向かい走った。

向かう最中、城壁から一人の騎士が

「魔物が来たぞー!総員起きろー!」

と叫ぶのを聞きながら。

 

 

 

02

 テントに戻ると皆が外に出ていた。

 部隊長は僕達が来たのを確認したのちに僕達にこんなことを言った。

「皆、いよいよ魔物共がやって来た。大きな魔物は前線の騎士達が迎え討つ。我々はその合間を抜けてきた小さい魔物共の相手だ。危険だと思ったら迷わず逃げるんだ。いいな!」

「「「「はい!」」」」

 その言葉を聞いてる最中、僕とニトは下を向いていた。

 それに気付いた隊長は僕達のそばに近寄って

「ニト、ルイス。自信を持つんだ。あの時は奇襲だったから上手く戦えなかっただけだ。奴らはいま真正面から向かってきてる。今のお前達なら十分戦える。自分の力を信じるんだ!」

と僕達を励ましてくれた。

 僕とニトはその言葉に対して大きな返事で答えた。

「「はい!!」」

 騎士達が横に幾重もの列を形成してる中、僕達は最後尾の列に並んだ。前の様子は見えないが、奥から土煙が上がっているのが見える。

 簡易的な見張り台に登り、奥を偵察していた騎士が愕然とし、叫んだ。

「た、大量のゴブリン共だ!それだけじゃない、オークやオーガ、サイクロプスまでわんさかいるぞ!!」

 地面の揺れが強くなっていくを感じた僕は、構えていた直剣を強く握りしめた。

 最前線の騎士達が大声と共に一斉に駆け出す。

 オークやオーガもゴブリンの大群を抜けて突撃してきた。

 先制攻撃をしたのはオーガ達だった。奴らは大木で作った棍棒を振りかざし、大きな石斧で薙ぎ払った。

 一人の騎士はその石斧をかわし、オーガの懐に潜り足を切りつける。怯んで膝を付いたその隙に、近くにいたエルフの騎士はその巨大な体を踏み台にして飛び、頭めがけて細身の剣を突き刺した。オーガの頭から血が吹き出し、声を出す間もなく死んだ。

 ドワーフの騎士はオークの棍棒を大剣で受け止め、その受け止めた棍棒を足場にして、別の騎士が頭頂部を叩きつけた。地面に着地した騎士の背中をドワーフの騎士が、駆け上がった。目眩を起こしているオークを真上から力いっぱい切り下ろすと、オークは腹部まで真っ二つにされて倒れた。

 その他の騎士も、一糸乱れぬ連携で、複数人でオーガ達を抑えていた。後ろにいた騎士達は、オーガ等の後ろから来たゴブリンを彼らの邪魔にならないよう相手をしている。

 それでも、ゴブリンの大群は合間を縫って攻めてくる。

 そのゴブリン共をルイス達は倒していた。

 ルイスはゴブリンの攻撃を弾いて、腹を切る。部隊長との練習のおかげで、ゴブリンの攻撃は簡単に弾くことができた。

「隊長との訓練に比べたら、こんなの!」

 そう言って、ルイスはゴブリンを順調に倒していた。

 一匹のゴブリンが、ルイスの背後に襲いかかる。それに気付いたルイスだったが、咄嗟の反応に遅れてしまう。だが、そのゴブリンはルイスの目の前で横に吹き飛ばされた。

「させるかよ!」

 カイルが風魔法でゴブリンを吹き飛ばしてくれたのだ。カイルは駆け出し、倒れたゴブリンにとどめをさした。

「後ろは俺に任せろ!」

 カイルはルイスの背中について、彼の背後にいるゴブリン5頭を倒しにかかった。魔法石を下に向け、自身の体を宙に浮かせたカイルはそのままゴブリンの後ろに周り、背中を突き刺す。

 別の場所では、ライナが複数ゴブリンの攻撃を受けていた。

 彼女は氷魔法でゴブリンの足を止めようとしたが、魔法石を構えた瞬間、その手をゴブリンに攻撃されて魔法石を落としてしまった。予期してなかったことが起きたライナは驚いてしまい、ゴブリンの追撃を許してしまう。

「うぅっ!」

 体重の軽いライナはゴブリンの攻撃で飛ばされる。

 幸い鎧に当たり怪我はしなかったが、ライナの細身の体には充分響いた。ライナは体勢を立て直そうとしたが、恐怖でそれができなかった。その隙を逃すまいと、ゴブリンが彼女にさらなる追撃を加えようとしたが、それは上手くいかなかった。

「おりゃぁあぁぁぁ!」

 追撃を食らわせようとしたゴブリンは、ニトのハンマーで遠くへ吹き飛ばされていた。

「大丈夫か!?怪我は、?」

 ライナの状態を確認するニト。

 恐怖に囚われていたライナは頭を横に降るだけで精一杯だった。

「よかった。無理だけはするなよ!」

とだけ言い残してニトは別の場所へゴブリンを倒しに行った。

 アルキールとクライン、ニールとアヤメはそれぞれ、二人一組でゴブリンを倒していた。

 アルキールが苦手とする背後をクラインがカバーし、アルキールは前だけに集中してゴブリンを倒している。

「私のパンチを、食らいなさい!」

「俺のお墨付きだ。良く味わえよ!」

 いつもの仲の悪い兄妹とは違い、やはり兄妹だからか、スムーズな連携でゴブリン共を着実に倒している。

 ニールとアヤメはゴブリンの位置をしっかり確認しながら、背後をとられないように戦っている。

 しかし、次第にゴブリンの数が増えていき、囲まれてしまった。

「アヤメさん、囲まれて来てます!」

「飛んで、ニールくん!」

と言って、アヤメは鞭を思い振り回した。アヤメの鞭はその強い遠心力で内臓されていた刃が飛び出し、囲っていたゴブリン達の腹を切り刻んだ。ゴブリン達はその場に輪を作るように倒れてく。

 以前の時とは違い、少しではあるが戦えている様子を、部隊長のルシウスは横目で見ていた。

(たいした奴らだ。たった数ヶ月でゴブリンを相手に戦えている)

 ルシウスはゴブリン共の首を正確に狙い、切り下ろしていた。攻撃の一切に無駄がなく、戦い慣れした動きをしている。




03

 戦いが始まって30分位が経過。

 サイクロプスには苦戦したが、怪我人だけで、騎士の中に死者はいなかった。

 数十はいたオーガ達も生きてるのはほとんどいなく、死体があちこちに広がっている。

 ゴブリンの死体はさらに多く、辺り一面ゴブリンの山でうめつくされていた。

 騎士達皆が勝利を確信していた。それはルイス達も例外ではない。

 だがその時、再び地面が揺れた。

 ゴブリン共ど戦っていたルイス達だったが、突然の揺れに攻撃の手を止めた。ルイスが手を止めた理由はもう一つあった。ルイスの耳に遠くから叫び声が聞こえたのだ。

「これは…ロドリゲスとは違う、けど似ている……」

 魔物達が攻めてきた方角を見れば再び土煙が上がっていた。

 城壁の騎士は何事かと思い、望遠鏡を覗いた。

「た、たた、隊長…」

 その騎士は部隊長に向かって、青ざめた顔をして言った。

「ど、ドラゴンです!それも数十頭も!」

 その騎士が見たものは、巨大な爬虫類、ドラゴンだった。

 オーガ達を圧倒していた騎士達でさえ敵わないそいつらが、群れをなして攻めてきたのだ。

 種類は四足歩行で歩く[リザード]。

「なんてことだ!」

 慌てその隊長は角笛をならした。

 その音色に聞き覚えのあるルシウスは、近くにいたルイスに向かって、叫んだ。他の上級騎士達もその音色をきいて皆に伝えている。

「あの土煙はドラゴンの群れだ!、ルイス!今すぐに皆と一緒に城へ戻るんだ!」

「ドラゴン…!!」

 隊長の表情を察したルイスはうなずき、皆の元へ走り出した。

それを見送ったルシウスは

「くっ!竜狩り隊がまだ来ていないというのに!」

と額に汗を浮かべながら前線へ向かった。

 突然の角笛に状況を把握できていないルイスだったが、隊長に言われた通り、皆と城へ向かって走っていた。

 ルイス達の足は遅くなかったが、しかし手遅れだった。

 奴らはわき目もふらずにシュメール城に向かって進んできていた。

 リザードは人間の走力を凌ぐ速さで城に向かって来ている。

 上級騎士のリーダーであるルシウスは前線に到着したのちにこう叫んだ。

「総員、武器に魔力を込めろ!」

 前線にいた上級騎士達はそれぞれの武器に魔法石を使い、魔力を留め始めた。

 そして、接近してきたリザードに対して攻撃を繰り出した。

 しかし、彼らの攻撃はリザードの体に傷をつけることができても、動きを止めることはできなかった。

 それどころか、近くにいる上級騎士達はリザードの反撃によって大きなダメージを受けていた。その爪は鉄の鎧を切り裂き、彼らの体に深い傷を残した。

 傷跡からは血が流れ出し、戦闘不能に追いやった。

 進行方向にいた騎士は迫り来るリザードに対して、何もすることができずそのまま喰われてしまう。跡に残ったのは、その騎士のものであっただろう腕のみ。

 上級騎士達が為す術なくやられている中、ルシウスは一人でリザードと戦っていた。

 ルシウスは自らの前に攻めてきたリザードを剣で受け止め、呟いた。

ー我が肉体、己が限界を超越せよー

 ルシウスはその言葉と共にリザードを押し退け、その勢いのまま腹部に切りかかった。その切り傷はリザードの腹を深くまで開け、動きを止めた。そして、空中高く飛び、魔力を留めた剣にさらに魔力を注いだ。

 剣は雷を帯びはじめ、剣身が青白く光り、バチバチと鳴り始める。

 稲妻とも呼べるだろうその剣を両手で持ち、頭を目指し突き刺す体勢をとった。

 勢いよく刺さったその剣は大地から稲妻を降らせて、空気の壁を突き破った。

 リザードはビクンと動き、その後動くことは無かった。

 ルシウスは腰に手をやりながら立ち、次のリザードを殺しにいくため疾走していった。




04

 ルイス達が猛ダッシュしていると、後ろのほうで雷音がしたが、そんなことには目もくれず、城へ向かっていた。

 ルイスの他にも、上級騎士意外は皆城に向かって走っていた。

 彼らの後からリザードが追いかけて来ており、既に何人かが腹の中に入ったのを見てしまったルイスは、恐怖を隠せず声にならない叫びをあげていた。

[ニンゲン、ワカイニク]

 最後尾にいたルイスは、自分の後ろに迫るリザードの走音以外に何もわからなくなっていた。

 そのせいで、下にあった倒木に気付くことができず、ルイスは転倒してしまう。

 立ち上がることも許されぬまま、ルイスはリザードの爪を喰らい、空を舞った。

 胴体から血が溢れていき、地面に叩きつけられると、血の池ができた。



「あれ……そら…?どうして……」



 気付いたら僕は、空を見ていた。

 …なんだか…体の回りが温かいな…。

 けど…体の中は冷たい……。

 そんなことを考えたが、頭が回らず、ただ空がぼやけていく。

 手足……どうして…………動か…………な……い……

 くち………も…………うご……か…………

 あ……………ド……ラ…………………

 僕が最後に目にしたものは真っ赤な空に口を大きく開けたリザードだった。




04

 ルイスを喰らおうとしたリザードに、大砲のような風が当たった。当てられた風はリザードを怯ませ、動きを止めた。その直後、リザードの首がスパンと切断される。頭がルイスの上に落ちる寸前でまた風が起き、頭を遠くへ飛ばした。

 ルイスの元へ、一人の男が近づいていく。

 その男には、右腕が無かった。

 左手で自身の体と同じくらい大きく、厚い大剣を背中に戻すと、ルイスの口に小さな緑の玉を入れた。

 そして、男の後ろに現れた赤髪の女性に対してこう言った。

「メリル。この青年を城の医務室に運んでくれ。俺は残りのリザードを殺してくる」

 女性はその言葉を聞いて微笑みながら答える。

「ええ。わかったわ、あなた」

 女性はルイスを抱えて城へ向かっていく。

 男はそれを見送ってからリザード達がいる方向を向き、呟いた。

ー俺の体は、限界を越えていくー

 男は、リザードのいる所へ疾走していった。

 男の他にもルシウスを除いた5人の人間が城前で戦っていた。

 ある者は、セスタスで頭を潰し―

 ある者は上に乗り、鞭で首を切断し―

 ある者は双剣で蹂躙し―

 ある者は巨大な槌で骨を粉砕し―

 ある者は遥か遠くから脳天を居抜き―

 そして。

 片腕の男は、その巨大な大剣で真っ二つに切り裂いていく―


ようやく物語が展開していきます。

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