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混血の竜騎士  作者: サガロワ
~序章~ 血は全ての始まり
7/10

近付く恐怖

01

僕達が湖にきてからかなりの時間がたち、気がつくと空はすっかりオレンジ色になっていた。

これから晩ご飯の準備なので、僕達は遊ぶのをやめてテントに戻ることにした。

料理は皆で分担して行うことになった。

食材を切る係がクライン、ライナ、カイル。

料理を作る係が部隊長、アヤメ、ニール、 アルキール。

スープ担当は僕とニトがやることに。

部隊長以外の皆とはいつも城内の食堂で食べているけど、一緒に料理をするのは初めてだ。(隊長はすぐ何処かに行ってしまうから、一緒に食べたことはない。)

昼ご飯を作った時ライナが実は料理上手だというとこに気付いた。

逆に、ニールが料理をすると具材が炭と化することも。

ニールは女子たちに教えてもらいながら慌てながら料理を作っていた。

おかげで晩ご飯は一人分足りなくなるような事態にはならなかった。

食事の会話が弾む中、僕は部隊長と会話している。


「隊長、今回の遠足どうしてやろうと思ったんですか?」


僕は遠足をやることにした理由を知りたかった。

隊長のことだからきっと何か理由があるはずだと思ったからである。


「うむ。我々騎士は各国の防衛を行っている。要請があればその国に向かわなければならない。しかし、国同士の距離が遠いから必ず野宿しなければならないし、食事も部隊別に行う。そうなった時に備えて今回の遠足を計画した」

「やっぱりそうでしたか」

「なんだ。分かっていたのか」

「はい。なんとなくですけど」


そう。僕達が守るのはシュメール国だけではない。

だから、もし他国に行くことになったらその際の移動は当然歩くことになる。

馬はいるけれど、さすがに全騎士に配備されるほどにはいない。

それに、転移系の魔法もない。

どうしても野宿することになるのである。


「でも、この遠足は楽しみたいと思います」

「そうだ。休息無しではどんな屈強な騎士でも駄目になる。この3日間は仕事は忘れて、存分に羽を伸ばすことだ」

「はい。分かりました。隊長」


夕食を食べ終えて、もうすぐ寝る時間になろうとした時、隊長が僕達に指示を出した。


「夜は二人一組の二時間交代で見張りをする。最初は私が、次にルイス、ニト組。ライナ、カイル組。アルキール、クライン組。アヤメ、ニール組の順で行ういいな」

「「「はい!」」」

「何か質問はあるか?」

「あの…、あります…」


ニールが手を挙げる。


「もし、魔物が来た時どう対処したら良いのでしょうか?」

確かに、もしもの時のために対策は考えておいたほうがいい。

「そうだな。念のために考えておこう。んー…では[アップルパイが焼けたぞ]と叫ぶのはどうだ?」

「…パイ、ですか?」


ニールの頭には疑問符が付いていた。

僕もどうしてアップルパイなのか分からず疑問に思った。


「何故、アップルパイなんですか…?。普通に[敵がきたぞ!]でいいじゃないですか…?」

「私の経験上、[アップルパイ]と叫んだ方が敵が困惑することが多いのでな。それと私がアップルパイが好きだというのもある。アップルパイが近くにあると聞けば、私の体はすぐさま目覚めることができるからな」

「……分かりました」


まあ、この中で誰よりも強いのは隊長だから隊長が素早く動けるようなら良いだろう、ということで皆納得した。




02

そして今、僕はニトと一緒に見張りをしている。テントは岩の間にあった開けた場所に設置したので、僕達はテントから3分位の場所にある焚き火の地点で暖まりながら前方をみている。敵が侵入するとすれば前方しかないので、前以外見る必要がないと思ったからだ。

夜も更け、寒さが増してきたので僕達は寝る時に使っていた毛布に身を包んで焚き火の前で話しをしていた。


「ルイス、守護竜って知ってるか?」

「うん、聞いたことがある。かつて各国の象徴として君臨していた古竜に匹敵する竜たちのことだろ?」


今はもういないが、かつて各国には守護竜なる竜がいた。

それぞれ異なる属性を持ち、一頭で一国を守っていた。

竜たちはその長い寿命をとうに終えていて、今はその肉体は各国で大事に保管されているらしい。


「そう。俺の住んでいたヴォルケニルでは[ケヴォルトス]って竜が、ここシュメールには…えっと、何だっけ?」

「[メルガルム]だな」

「あーそうそう。で、他にもアジュラカの[ドラキマ]、ハリストの[ウェイザー]がいた。」

「で、その竜がどうかしたのか?」

「ああ。俺はこの四竜の他にも、まだいたと考えてるんだ。」

「魔物には古竜がいるっていう噂のことか?」

「いや、敵側じゃねえ。味方の方だよ」

敵側にもいるとは思うけどな、とニトは続ける。

「ホーマダスにも竜がいたと俺は思うんだ」

「ああ…なるほど、ホーマダスね」


他国との交流を絶っているホーマダスなら、なるほど確かに伝承などに載ってない竜もいるはずだ。


「どうしてそんなに竜に興味を持ってるんだ?」

「え?だって、竜はカッコいいだろ?カッコいい以外に理由は必要ないぜ!」

「実にニトらしい回答だな」


なんて話しをしていると、突然遠くから声が聞こえてきた。

声というよりは唸っていたように聞こえた。

狼かと思ったが、そうではない。

その唸り声は今まで聞いたことのない低く、喉の潰れたような声で

〔グシュルグシュル〕と呻いた。


「っ!今の声、聞いたか!?」

「…ああ。聞こえたぜ、ルイス」


僕達は辺りを警戒したが、さっきまで焚き火を見ていたせいで良く見えない。


「ルイス。声、増えてないか?」


ニトの言う通り、さっきの声が一つ、また一つと増えていった。

しだいに声の数は増えていき、もういくつあるのか分からないほどになった。

そして、その音は徐々に近づいて来ている。

得体の知れない[何か]に僕達の体は震えていた。


「ぶっ武器を!」


僕達は慌てて武器袋から武器をとり出そうとした。

しかし、二人共恐怖で手が震えてうまく武器が取り出せず苦戦した。

その間もどんどん音は近づいてくる。

ようやく取り出して背中を向けあい構えると、二人とも自分の武器ではなかった。

僕はアヤメの鞭を、ニトはライナの曲刀の半分を持っていた。

なんでこんな時に女子の武器ばっかなんだと思う間もなく、ようやく暗闇になれた目で回りを見ると声の主達は姿を現していた。

現れたのは、10頭のゴブリンだった。

身長は僕の胴体くらいで歪んだ顔に小さな歯が不揃いにたくさん並んでいる。どうやら周りの岩を乗り越えて来たようだ。

体に合わない大きめの動物の骨を削った刃付き棍棒を持っていた。粗悪な作りだが体に食い込めばそのギザギザで次第にダメージを追っていくだろう。

一頭のゴブリンが僕達の周りを回りながら


〔フン、ガキダ。ソレニマダタタカイナレテナイ〕

と言いながらこちらを見ていた。


〔オイ、コイツラヨロイキテナイ〕

〔ハハァ。ヘナチョコダナ〕


方のゴブリンも僕達を見て嘲笑っている。


「くっくるな!近づいたら切るぞ!」


ニトは必死に声をだして威嚇している。

対して僕は声が全く出せない。

首を絞められているような感覚に陥っていまい声がでないのだ。


〔ガキガ。イセイダケハイイ!〕


その言葉と同時にゴブリンはニトに向かって棍棒を振りかざしてきた。

ニトはその攻撃をスレスレでかわしたが、上手くバランスを取れず転んでしまった。その姿をみてゴブリン達は汚い笑みを浮かべてニトを笑った。

ニトが立ち上がろうとしている隙にゴブリンは次の攻撃を繰り出してきた。回避するのが少し遅れたため、服が少し破けていた。破れた場所から血が少量滴っていた。しかしそんなこと気にせずニトは僕の心配をしていた。


「ルイス!危ない!」


ゴブリンはニトを攻撃したそのままの勢いで今度は僕に攻撃をしかけてきた。僕は足を縺れさせて尻餅をついてしまった。


「うわぁぁぁ!」

〔シンデオレラノエサニナレー!〕


ゴブリンはジャンプし、高所から僕めがけて武器を振るってきた。

僕は鞭を上に広げて防御し目を閉じた。

ゴブリンから攻撃が来ない。

不思議に思い目を開けると、僕を攻撃しようとしたゴブリンは仲間のゴブリンの方へふっ飛んでいた。

倒れているゴブリンは微動だにしていない。

良く見ると、頭部には深い切り傷が刻まれていて、そこから流血していた。

だが、そんなことは気にせずゴブリン達は皆揃って同じ方向を向いていた。

ゴブリンの向いている方向から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「なんだ。もうアップルパイが出来てるじゃないか」


声のした方向を向くと、そこにはルシウス隊長がいた。


「「隊長!」」

「二人共!ここは私に任せて他の皆と合流するんだ!」

「「はい!」」


返事をし終える前に僕達は皆の元へ向かって行った。

後ろからゴブリン達が追いかけてきたが、その行動を隊長は剣をゴブリン達の前に投げて遮った。そして、後からその場に着地して剣を抜きながらゴブリン達に言った。

低く、黒い声で。


「君たち。私の部下に手を出すとは、どうやら頭を無くしたいようだな」


言い終わった次の瞬間、彼はゴブリン達の後ろに立っていた。

通り過ぎたゴブリン達は何が起きたのか分かっておらず、呆然としていた。

次第に、ゴブリン達の首の端からつぷっ、という音を出して横線が入っていき、そこからどくどくと血が溢れて一斉にゴブリン達は体だけになり、その場に崩れた。空中には奴らの頭が血しぶきと共に飛んでいた。




03

一方僕達は後ろを振り向かず皆が待っているテントに向かって全力疾走していた。テント近くには松明があるのでそれを頼りにして走っていると、皆がテントから出て待っていた。


「あ!来たよ!」


僕達を先に発見したのはカイルだった。


「二人共、怪我はない?」

「僕は大丈夫だけど、ニトが…」


ニトに目をやると、脇腹を押さえていた。

傷はそんなに深くないが、長い時間血が出ていたせいで、服が赤黒く染まっている。

それを見た、アヤメがニトを連れてテントの中に入ろうとした。


「中に入って!直ぐ治療するから!」

「いや、大丈夫だ。直ぐ収ま…」

「馬鹿言わないで!!」


今まで聞いたことのない大きな声でニトを怒鳴る。

その声で騒がしかった周りが一瞬で静かになった。


「悪化してからじゃ遅いんだよ?強がらないで今は私の言うこと聞いて!」

「アヤメさんの言う通りです…。酷くなる前に治療した方が良い…」

「………わかったよ」


ニールの後押しもありニトはテントに入っていった。

僕はニトがテントに入るのを見てから、ニールに話しかけた。


「皆は大丈夫だった?魔物に襲われたりしなかったの?」

「いや、僕達も寝込みを襲われました…。気が付いたらテントの周りを囲まれてて……」


今まで気が付かなかったが、言われてテントの周辺をみると辺りには無数のゴブリンの死体が倒れていた。こいつらもどうやら岩を越えて来たようだ。


「これ、全部隊長が?」

「はい…。あっという間にゴブリン達を退治しました。そのあと、[ルイス達を見てくる]と言ってそっちに向かって行ったんです…」


隊長がいなければ、今頃僕達はゴブリン共に喰われていただろう。

何も出来なかった。

敵が来た時の合図も言えなかったし、目の前の敵に対し一度も攻撃を当てることができずただ守っていただけだった。

それを思うと悔しいが、実力がないから何も出来ない。

……これじゃあ、市民と変わらないじゃないか。


「とりあえず、隊長が来るまでここで待とう」


無力な自分に対する怒りを押さえながら僕は言った。

数分後、隊長が戻って来た。


「ニール。皆、いるか?」

「はい…。ニトはテントの中で治療を受けてます…。」

「分かった。では、全員テントの中に入るんだ。私は外で見張りをする。明け方、荷物をまとめて城にもどるぞ。」

「あの…。隊長…」

「なんだ。ニール」

「城に戻ったら、どうするんですか…?」

「直ぐに上級騎士達で会議を行う。今後のことはそれからだ。だから、今は休め」

「はい…」


全員がテントに入ると、ルシウスは空を見ながら

「ついに動き始めたか…」

と胡座をかいて見張りを始めた。

こうして、僕達の遠足は幕を閉じた。

そしてこれから、長い長い戦いが幕を上げる。

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