能無し 訓練開始
01
「え…?ど、どうして……」
何度も石を切ろうとした。
だが金属が硬いものにぶつかる音だけが鳴る。
「ルイス…」
カイルは心配そうに僕の名前を呼ぶ。
他の皆もざわめいている。
「これは、一体どういうことでしょう。」
アインさんも、先程までの笑顔は消え真剣な顔になっている。
「こんなことになるなんて…初めてのことなので驚きです。」
「あの…アインさん。これってつまり、僕には魔力が無いってことですか…?」
聞いてしまった。聞かずにはいられなかった。
「いいえ。そんなことはありません。ちょっと待っててください」
アインさんは駆け足で部屋の引き出しまで行き、紫色のレンズをした眼鏡を持ってきた。
それをかけると、僕の方を真剣な眼差しでじっと見つめてきた。
1分位の静寂。
その静かさが僕の不安を煽る。
「ルイスくん」
「はい」
アインさんは眼鏡を外して、安心したような顔で僕に言った。
「大丈夫です。あなたにはちゃんと魔力が流れています」
「どうして、分かったんですか?」
「この眼鏡で確かめたんです。これは魔力を可視化することが出来る眼鏡で、人に流れる魔力も見ることができます。これで見たところ、あなたの体にはちゃんと魔力が流れていました」
「良かったぁ…」
体の緊張が一気にほぐれた。
「しかし…」
束の間、アインさんは僕に伝えるのが厳しい。そんな感じの声で僕に告げる。
「魔力に属性がないので、あなたは魔法を使うことができません」
魔法が使えない。
それは皆よりも、劣っている。そんな気がしてならなかった。
その後、部隊長の命令で今日の練習は中止になった。部隊長は研究所でのことを報告するため、どこかへ行ってしまった。
僕は自分の部屋に戻ることにした。
他の皆もそれを見て、各々の部屋に戻っていく。
[お、随分と早い帰りじゃねぇか。ってどうしたんだよ、そんな湿気た面して]
部屋で待っていたロドリゲスが僕の顔を見るなりそんなことを言ってきた気がする。
駄目だ、声がよく聞こえない。
耳に入ってくるもの全てがぼやけて聞こえる。
僕はベッドに横になり、そして目を閉じて考えた。
いや、考えたところで何も変わるわけではない。
僕が魔法に関して能無しなのは、変わらない。
02
[ようやく目覚めたな、早く支度した方がいいぜ。訓練はとっくに始まってる頃だからな]
気がつくと、部屋に日の光が差し込んでいた。
どうやら、あのまま寝てしまったようだ。
ベッドから起き上がり、体を洗い、着替えをする。
頭が冴えてくると、昨日の出来事を徐々に思い
出してしまう。
魔法無しで、このまま騎士をやっていけるのか。
魔法が使えない僕を見て皆はどう思ったのだろう。
なんてことを考えながら部屋を出た。
部屋を出ると、そこにはルシウス部隊長が待っていた。
「おはよう、ルイス。出てきて早々悪いが、私に付いて来てくれ」
「はい…」
付いて行った先は訓練場の手前、休憩室だった。
そこに僕と部隊長は向かい合う形で座った。
「元気がないな。やはり、昨日のことか」
「はい…どうしても魔法が使えないってことが気にかかって」
「無理もない。あんなことを言われれば誰だって落ち込むものさ」
「はあ…」
「しかし、だからと言ってこのまま落ち込んだままというわけにもいかないだろう?」
「……」
「思い出してみろ。騎士になろうとした時、君は何を思った?」
騎士になろうとした時…。
僕は…。
「僕は…どんな敵でも勇敢に戦える騎士になりたいと思いました」
「ならば君に問おう。君の目指したその騎士に、必ずしも魔法が必要であろうか?」
ハッと、僕は部隊長の言葉で僕は目覚める。
そして部隊長の顔を見た。
「私は必要無いと思う。元より騎士は魔法を使わずとも敵と渡りあえてきた。むしろ魔法を扱う練習をしなくて済む分、剣術に力を注ぐことができる。君もそう思わないか?」
「はい。そう思います」
「ならば、やることは決まっているも同然じゃないか」
そうだ。
魔法が使えなくてもいいんだ。
その分、誰よりも剣術を磨けば良いんだ。
自然と体の底から、元気が湧いてきた。
「ハッハッハ!良い顔になってきたじゃないか!」
部隊長はまるで悪いものを吹き飛ばすように笑っている。
「隊長、ありがとうございます。お陰で元気でました」
「うむ。では訓練といくか!」
「はい!」
僕は駆け足で、皆のいる訓練場へと足を運んだ。
さあ、訓練開始だ。
8月3日投稿
今回の話は短すぎるので、二話連続で投稿したいと思います。
最近昼間が暑くてたまりません。家は扇風機と自然の風任せなので、風が無い日は大変です。