05 タケルの決断
ジュラルミンケースの端には、拳銃の他に封筒が1通 入っていた。
『臨時召集令状』と題された文書には、日下部 孝臣が言っていた通り、武を特例要員として探偵派遣協会コズミックに所属させることが決まったとの通知に加え、早速ミッションに当たれとの指令が書き連ねられていた。
そんな事務的で親切心の欠片もない、とてもじゃないが これまで協会に関わりないところで すくすく育った10代の若者に宛てて書かれたとは思えない内容には閉口せざるを得なかった。
更に そのミッションというのが、「山奥にある私立高校で このところ頻繁に確認されている瘴氣の原因を探り、可能であれば根絶せよ」との潜入捜査だ。
どう考えても馬鹿にされているとしか思えない。
大方、その業界では誉れ高い お家柄に生まれたにも関わらず親が一線を退いたばかりにエリートコースを歩むことなく、一般人として高校にも進学することもできず、挙句の果てには こんな下品なラーメン屋で下品な関西人のオッサンらに虐げられながら下働きをしていることを憐れに思ったのだろう。
丁度 人手も足りないし、仕方ないから使ってやろうか―――――
そんな上層部の気まぐれだったに違いない。
神山家も随分とナメられたものだ と嘆息したところで、吐いた息は自身を卑下する言葉を引っ提げて首を絞めに戻ってくるだけだった。
こんなにも安く雇われたのでは名家に傷がつく。
武は すぐにでも筆を取って「断る!」と殴り書いた手紙と共にジュラルミンケースごと着払いで突き返してやろうとしたが、便箋を探しに立ち上がった途端に一抹の不安を過らせてしまった。
単なる気まぐれでも、これは上層部から下された召集令だ。
武が断ることで、母親が立場を悪くするかもしれない。
いくら一線を退いたとはいえ、協会と全く通じていないというわけではないのだろう。
この令状が いい例だ。
そこまで考えてしまうと、一応とは位置づけながらも財布を手に店を出ずにはいられなかった。