00 とある生徒の記憶
昨日、こんなことがあった。
数学の授業だった。
いつものことだけど、かったるくてさ。
まともに座ってる奴なんて一人もいなかったんだ。
うちじゃこんなの当たり前だから、教師も時間が来るまで一人芝居して終わる奴ばっかなんだけど、新しい奴だったから知らなかったんだろうな。
入ってきて しばらくは扉の前で突っ立って、俺らの様子見て呆れてたよ。
それから思い出したように「静かにしろ」とか怒鳴りだしたんだけど、「逆にお前が黙れよ」とか言われててさ、なんか滑稽だったな。
相手にされなくてムカついたのか、突然 教科書やらを教卓に投げつけやがってさ、驚いて見てたら、あいつ、何を勘違いしたのか偉そうに説教してきやがったんだ。
ガムを噛んでた田中を指して「出せ」とか言い出してさ。
そしたら田中の奴、あいつの顔面に出しやがったんだよ。
あれは笑ったわ。
これで こいつも終わりだなって思った。
いつもは そうだったんだ。
だから田中も、いきなり掴みかかってこられて太刀打ちできなかったんだろうな。
そのまま ものすごい勢いで机やイスやらを跳ね飛ばして窓に叩きつけられた田中は、すでにぐったりとしていた。
ガラスがヒビ割れるくらい何度も頭を叩きつけられて、血が出てきてんのに あいつは やめなかった。
やっと解放された田中は顔面 血だらけで、ああ、死んだなって思った。
それから何事も無かったかのように授業が再開した教室は、さっきまでの騒々しさが嘘のように静まり返っていた。
きっと、今日の授業もそうだろう。
チャイムが鳴った。
ほら、《教師》が来たぞ。