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月イチのサキュバスくん  作者: いい奈
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月イチのサキュバスくん 後編

後編です。

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです(* ̄▽ ̄)ノ

 さて、結局夕飯はトラットリアでアマトリチャーナにした。


 フォークとスプーンを器用に使い、小さな口でいただく。


 素だとフォークだけでもう少し雑に食べてしまうのだが、今の真津実は女性である。


 普段から気を付けてはいるが、女性の時はもっと丁寧に。


 周りの席の男性たちが、真津実を意識しているのが分かる。


 サキュバスの性分で、意図せず男性を惹き付けてしまうのだ。


 相手の女性には申し訳無いが、食べ終わったら速やかに退店するので、勘弁して欲しい。


 次に向かうのはバーだ。真津実は酒好きである。


 たまには静かな空間でゆっくり飲みたい。


 そして言い寄って来る無粋な男たちを眺めて楽しむのだ。


 悪趣味だと思う。しかし仕方が無い。それがサキュバスなのだから。


 素だとそんな事したいとは露とも思わないのに、女装するとそんな思いが沸いて来る。月に一度の事なのでご容赦を。


 行き付けのバーのカウンタ席で、真津実はレッドアイを注文する。


 一番好きな酒はビールだが、今は女性だ。


 ビールを豪快に煽るより、カクテルをチビリと飲んだ方が可愛らしく映るだろう。


 我ながらあざとい。


 ほら、早速男性がドリンク片手に近寄って来る。


 笑顔で隣のスツールに腰掛けた。


「お嬢さん、おひとりですか?」

「ええ、まぁ」


 真津実は高い声を作って応える。


 ……うん、こういう男性を見るのは面白いが、実際に来られると鬱陶しいと感じてしまう。勝手なものだ。


 適当にあしらっていると、逆側のスツールに誰かが掛けた。ついそちらを見る。


 綺麗な顔をした男性だった。


 中性的ではあったが、男性的な色気を感じる。


 男性は真津実に笑顔を寄越した後、バーテンダーにウイスキーのロックを注文した。


 和製ウイスキーの年代物で美味しいと評判のもので、やや高価ものだ。


 ロックがサーブされると、男性とは思えないしなやかな手付きでグラスを持ち上げ、一口含んだ。


 その一連の所作を、真津実はつい眺めてしまっていた。


「こんばんは」


 男性が真津実に話し掛けた声は、男性にしてはやや高めなものだった。


 特別良い声と言う訳でも無いのに、耳触りが良かった。


「こんばんは」


 気付くと、愛想良く挨拶を返していた。


 先に真津実に言い寄っていた男性は、それを見て『チッ』と舌打ちして離れて行った。


「レッドアイですか?」

「あ、はい」

「私も以前は良く飲んだなぁ。今はウイスキー一辺倒ですけど」

「そうなんですか」


 おかしい、巧い受け答えが出来ない。


 まさか緊張していると言うのか。


 女性モードのこの自分が、男性を前にして。


 男性が真津実を見て微笑んだ。


 見透かされている。恥ずかしくなって俯いてしまった。


「私も緊張しています。あなたを見付けた時には驚きました。私は鼻が利くんですよ」


 それはどういう事か。真津実は顔を上げる。


「あなた、サキュバスでしょう? 男性の」


 ストレートにそう言われ、真津実の顔が強張った。


 どうしてばれた? 男性だとばれた事など一度も無いのに。


 いや、それもそうだが、サキュバスって言ったか?


 どうして。


 過去どこかに嫁いだ真津実の先祖の関係者だろうか。


 それであっても、サキュバスの性質は女性に出る筈のものだ。


 男性に出た事を知っているのは真津実の両親だけだと思っていたのだが。


「鼻が利くから、あなたがサキュバスだと言う事も、本当は男性だと言う事も判っちゃうんです」


 どうしよう。


 女装をしているだけで、何も悪い事はしていない筈だ。


 言い寄って来る男性に対しても、酒一杯馳走してもらった事も無い。


 だが真津実の気付かない何かがあったのだとしたら……真津実の中に恐怖が沸き、固唾を飲んだ。


「私はね、狼男の性質を継いでいるんです」


 あ、ああ! お仲間!


 合点がいき、真津実は眼を見開いた。


 あれ、それでも真津実がこの男性に対して緊張してしまった理由にはならない。


「でね、私は女です」


 その台詞は男性の、いや、女性の今までのどの言葉よりも驚いた。


 恰好良い男性だと思ったのに、まさかの女性!


 ああそうか、だから緊張してしまったのか。男性じゃ無かったから。


 こんな女性がこの世にいるのか。


 すっかり格好良い男性だと思った。


 いわゆる『男装の麗人』とも違う。


 女性にしては背も高めだし、格好も男性ぽい。


 真津実が見分けられなかった事も含め、狼男所以だろうか。


 ああ、でも男性にしては髪が少し長めか。


「小さい頃からずっと男の子に間違われて、身長も一八〇近くありますからね。だからついこんな格好ばっかりしちゃって」


 女性はそう言って、屈託なく笑った。


「あ、私、高橋飛鳥。よろしく。良かったら今度遊びに行きましょう」

「ぜひ!」


 飛鳥のお誘いに、真津実はつい反射的に応えていた。




 これは後日知った事なのだが、飛鳥は小さいながらも会社経営者だった。


 年商も結構上げているのだそうだ。


 だからバーで年代物のウイスキーなどをオーダ出来るのだ。


 ふたりはまだ遊びに行くだけの関係なのだが、交際に発展するのは時間の問題では無いかと真津実は感じている。


 ここはビシッと男らしく、真津実が言うべきだと思っている。


 サキュバスであるのだが、これでもれっきとした男性なのだから。


 普段はすっかり飛鳥にリードされてしまっていて、それを嫌だなんて欠片も思わないが、ここぞと言う時には男らしくありたいと思う。


 関係が順調に進めば、真津実も先人たちの様に玉の輿、この場合は逆玉に乗る事になるのだろう。


 しかも飛鳥はとても『イイ女』なのだ。真津実は会う度に飛鳥に惹かれて行った。


 サキュバスで良かったかも知れない。真津実は生まれて初めてそう思えた。

ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ

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