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外科病院の夜

作者: ガバディ

 えー、私の友達に、仮にSさんとしましょう、Sさんという方がいるんですが、その方が体験した、なんとも不思議な話を…。


 Sさんは、車やバイクが好きで、当時は仕事の休みの日なんかはほとんど、ドライブやツーリングに行ってた。普段通勤にも車を使ってるってんで、運転には慣れてる。交通安全も意識していつも運転してるんだけど、その日は運が悪かった。ある日、sさんバイクで出かけたんだ。家からそんなに遠くないところにショッピングモールがあるってんで、そこに向かってた。もうちょっとすれば到着ってところで、ドーンといっちゃった。相手は車、こっちはバイク。まともにドカンといったわけじゃなかったんだけど、sさんバイクから投げ出される形になった。幸い、意識もあるし、目立った外傷もない。ふらつきながらも、なんとか道路わきに自分で歩いて行った。ただ、どうにも足が痛い。座り込んで、相手の車の運転手に救急車の手配をお願いしたんだ。で、救急車が到着、応急処置を受けたら、右足首から血が流れてる。すぐに病院の手配だってんで、まあ、これも不幸中の幸いってやつだ、現場から5分くらいのところに外科の病院があった。そこに搬送されたんです。

 病院につくと、なにはともあれ検査ですよ。ヘルメットはもちろん被ってたんだけど、CTスキャナーで頭部診断、足首からの出血ってんで、とうぜんレントゲン撮影だ。で、結果、やっぱり右の足首をやっちゃってた。亀裂骨折が2か所、打ちどころが悪かったのか、アキレス腱も部分断裂してた。バイクから投げ出されたとき、バイクのどこかでザザーッとやっちゃったんだろうね、アキレス腱は外側から削られるような感じでささくれてたらしいんだ。骨折だけならまだましだったんだけど、こりゃあいけないってんで、即手術、入院ってことになった。


事故にあって緊急入院なもんで、当然、なんの準備もできてない。こころの準備だってもちろんできてない。Sさん本人も、今まで入院した経験もない。相部屋に入ることになって、その日はなかなか寝付けなかった。朝、目が覚めると食事になって、それから点滴を受けるっていうのが日課になった。足をやっちゃったもんだから、簡単に動くってわけにはいかない。松葉づえを使うにしたって、何かの拍子でアキレス腱がぶちっといっちゃったら大変だってんで、当分は車いすの生活をすることになったんだ。

 まあ、慣れないながらも二日三日としていくうちに、人間、だんだん勝手がわかってくるもんで、夜も眠れるようになったんだけど、五日目くらいの晩に、ふっと目が覚めた。廊下から音が聞こえる。

こつーん、かつーん…

近いところから聞こえてくる。

何だろう?

こつーん、かつーん…

今度は遠くから聞こえる。

何だろう?

考えてるうちに、すーっと、sさん眠っちゃった。


 朝になって、いつもの点滴の時間になった。昨夜のこと、看護婦さんに聞いてみようと考えたけど、やめた。いくら病院ったって、そんなに不思議なことが起こるとは思えない。まして、幽霊がでるなんて思えない。看護婦さんに聞いたとしても「そんなこと聞いたことないね、よせやーい」なんて言われるにきまってる。その日も、いつも通り過ごした。

 で、夜になって、またふっと、目が覚めた。

こつーん、かつーん…

また聞こえてきた。

こつーん、かつーん…

何だろうって考えてるうちに、また眠った。


 朝になって、sさん、どうにも体がしんどい。点滴の前に、毎朝検温がある。起き抜けに体温を測って、看護婦さんが定期チェックをするんだ。この時、一緒に前日のトイレの回数も報告することになってる。患者の体調をチェックして、異常がないか調べるんだね、ええ。で、その時の体温は37℃ちょっとだった。トイレの回数もまあ、普通ってところだ。表面的には異常はないんだけど、でも、どうにもしんどい。その日はいつも以上に、ベッドから動かないように、安静にしてた。

 

夜になって、眠っていたsさん、また目が覚めた。今度は音が聞こえる前に、目が覚めた。どうにも具合が悪いってんで、トイレに行こうとした。頭はぼーっとしている。やっとの思いで車いすにのって、トイレに入る。用をたしながら、自分の体が、なーんかおかしい、なんかおかしい。いやだなー何だろうな―と考えてると、スーッと気が遠くなって、気絶しちゃったんだ。


ハッと目が覚める。いけねぇ、もう出なくちゃ、と思って、右手をみると、

「うわーっ!なんだこれ!」

右手には、う〇こがべっとりとついていたんだ。

「すいませんすいません!勘弁してください!」ってんで、すぐに手を洗っていそいでベッドに戻った。

「勘弁してください!勘弁してください!」布団に潜り込んで目を瞑ってぐーっと縮こまってると、また、スーッと気が遠くなっちゃった。


 朝、定期チェックに看護婦さんがやってくる。

「sさん、昨日はトイレ何回でした?」

14回です。そう答えた。えっ!てんで、体温を聞かれる。

40.1℃。こりゃいけないってんで、すぐに別の点滴が用意された。


 看護婦さんが言うには、どうやら点滴が体に合わなかったんじゃないかって。しばらく続けて体にたまった成分が一気に出てきちゃったんじゃないかって、いう事だった。

sさんも個人的に点滴の成分を調べたら、「副作用:発熱・下痢」って書いてあったらしい。

夜中に聞こえていたこつーんて言う音は、相部屋の男性の松葉づえの調子が悪く、ネジが緩んで、こつこつと鳴っていたんだと。夜中にトイレに行くとき、その音が響いてたんだね、ええ。

 「いやー、こういう不思議なことってあるもんだねJちゃん」って彼、言ってましたよ。



 




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