恋
その頃の大学、仮眠室では。
学園祭の片付けを生徒達がしている為、何か遭ったら困るので見張り役に右京、龍夜、七倉が当番となって生徒達の安全を見張る係となった。詳しくは、ほとんど、じゃんけんで負けた右京が見張り役で他二人は、仮眠室で喫煙タイムだ。
窓を開けると、大学が山の頂上ということもあり都会の街の灯りがまるで星空のようだ。
「都会には、地面に星空があるんだな」
「なぁに詩人っぽいこと言ってるんですか」
二人の吐くタバコの煙が、都会の星空の彼方へと消えていく。
「いや・・・あの時の千代の怒り方がさ、なんか嬉しかったんだよな」
「嬉しかった?」
「なんかさ・・・勘違いしちまうんだ・・・まだ俺のこと好きで居てくれてるのかなって・・・」
「珍しくセンチメンタルですね」
「センチメンタルにもなりたくなるわ。あんな庇い方されたら・・・誰だって勘違いしちまうだろうが。俺、どこで間違えちまったんだろうな・・・」
「ふぅ・・・生まれたところからでは?」
「はっはっ。ちげぇねえわ」
二人の会話は、休憩ついでにタバコでも吸ってこようかと思い仮眠室へと来た右京の耳にもたまたま入ってきた。右京は、扉に背を任せてもう少し二人の会話を聴くことにする。
「でも、お前もどーなんだよ」
「なにがです?」
「兎菓子だよ」
迷涼の名前が出た瞬間、龍夜の目がまんまるくなる。
「・・・な、なんでそこで迷涼さんの名前が出てくるんですか?」
「あからさまに動揺してるじゃねえか」
タバコを反対方向に加えて、ライターで火をつけようとしている龍夜にククッと笑いながら七倉は、再び煙を吐く。
「じゃあ、七倉はどうなんですか?」
「ん?」
「千代さん、奥山さんのこと好きなんかじゃないですよ」
今度は、龍夜の言葉に七倉が目を丸くした。
「え?」
「多分ね」
「た、多分かよ」
「でも・・・見込はあると思いますよ」
この言葉は、龍夜からの応援のメッセージのように思えた。
「ありがとよ。お前も頑張れ、捕まらない程度にな」
「大丈夫です。完璧な計画を立てるのは得意ですから」
「そういう意味じゃない」
この時、外に居た右京は一人暗い暗い渡り廊下で体育座りをしたまま思う。
―― 兄さんも、迷涼ちゃんのことが好きなんだ・・・。僕は、兄さんに叶わないのかな?
この思いを右京は、誰に話したら良いのかどんな難問より難しいこの気持は『恋』だ。




