言葉にならない気持ち。
帰り道。千代は、考えていた。
あの時、龍夜に言われた言葉。
―― そんなこはずない。私は、遥さんの事が好きだ。
でも、あの時嫌な汗が背中を流れたのだ。まるで、図星を突かれた様なそんな気がした。
車の窓にコツンと、頭をぶつけて整理しようと思うがそう簡単にはいかない。
「千代?」
車を運転しながら、サイドミラーで助手席に座り切なそうな表情をしている千代に遥が声を掛ける。
「ん?」
「どないしたん?さっきから、難しい顔して」
「別に」
バックミラー越しから見える迷涼の顔も、千代を心配そうに見つめていた。
「千代ちゃん・・・さては、コンテスト一位が遥ちゃんだったのが予想通りで面白くなかったとか?」
「せやったんか!!?すまん!!僕があまりにも可愛いかったから!!」
必死に周りを明るくしようとしてくれている迷涼と、それに応えてくれている遥に思わず千代はクスッと微笑んだ。
「もう、本当ですよぉ!!」
千代は、思った。
―― 私は、この日常を愛している。誰にもそれは、否定させない。
家に着くと、千代はそそくさと自室へとこもる。
「千代、やっぱり元気ないなぁ・・・僕の女装がそんなに変やったんやろうか・・・」
リビングで、ソファーに腰掛けて頭を悩ませる遥。それをまた心配そうに見つめる迷涼。
「遥ちゃんの女装は可愛かったよ!!私より可愛かったもん!!」
「いや、スズちゃん以上に可愛い子なんていないで」
その言葉に、一瞬ドキッとした迷涼だがすぐにくるっと遥に背を向けて赤くなった頬を隠す。
「そういうことは、千代ちゃんに言ってあげてください」
少し声色をムッとさせて、そう呟くと遥は『参った参った』と、困った様に微笑みながら立ち上がる遥。
「さぁて、千代の様子でも見に行くかなぁ~」
その時、通り過ぎる遥のYシャツの裾を握りしめる迷涼。その行為だけで、心臓が口から飛び出そう思いだった。
「・・・もし、私が遥ちゃんのこと好きって言ったら・・・どうします?」
迷涼の精一杯の告白に首を傾げる遥。
「そないなことあらへんで?僕も、スズちゃん大好きやし」
「え?」
「僕と千代の大事な妹やで」
普通なら嬉しい言葉なのかもしれない。けど、この時の迷涼には電流が体全体に巡るような心苦しい言葉だった。しかし、迷涼はそれでも笑顔で。
「そっか!!じゃあ、千代ちゃんのことは任せたよ」
「うん!!任せとき!!」
Yシャツの袖を離した時、迷涼の心は今にも折れそうだった。
遥は、落ち込んでいる千代になんて優しい言葉を掛けるのだろうか。どうやって抱きしめるのだろうか。想像するだけで気が狂いそうになる。コロン。と、ソファーに寝そべるとふんわりと遥の残り香がまだそこにあった。
「そういう好きじゃない・・・」
切ないこの気持ちを彼女は、どう誰に伝えれば良いのだろうか。




