学園祭4
少しして、理由を聞いた龍夜は興味がなさそうに椅子に腰掛けて千代と龍夜。目覚めの一杯温かいミルクティーを迷涼が淹れてくれた。
「そういえば、女子コンと一緒に男性教授コンテストとかあるみたいですよ。まぁ、俺は出ませんがね」
優雅にミルクティーを飲みながら、答える龍夜。
「え、でもそれって確か、理事長命令で名簿みたいなのが職員室に貼ってあったはずだぞ?その名簿に俺達の名前も入ってた」
ミルクティーをうっかり目の前で、同じくミルクティーを楽しんでいた千代に吹きかけそうになるが。
「吐くな、飲み込め」
千代の言葉を聞いてから、必死にミルクティーを飲み込み復活した七倉が自分に付いてしまったホコリを払いながら、龍夜の前に立つ。女子生徒達はというと、とりあえず女子コンに出場する遥と迷涼を連れて最後のメイクに取り掛かる為、体育館へと向かっていってしまった。教室には、今龍夜、千代、七倉、右京の4人だ。
「で・・・その男性教授コンには、誰と誰が出場するんですか?」
「僕でしょ?兄さんでしょ?あと、陽平くんと・・・確か秋島 紅葉教授じゃない?あの人、顔も良いし性格も優しいから結構生徒達から人気なんだよね」
「へぇー私、知らないです」
「当たり前でしょ。千代ちゃん、ここの生徒じゃないんだしてか、歳的にアウトだよねっ!!!!?」
右京の言葉に、怒りを隠せなかった千代は彼の鳩尾に本気のグーパンチを入れた。
「殴るわよ」
「殴ったあとに言わないでくれるかな・・・」
今にも死にそうな声で、床に倒れる右京。
「今のは、右京が悪い。女の気持ちとか、お前実は分かってないだろ?」
「はっ!?分かってるから、分かり知ってるし!!千代ちゃんみたいなタイプは、実はベッドの上ではドMッ!!!」
七倉の問に答えようとしたが、再び鳩尾に激痛が走った。
「下品」
千代が悪を成敗した。
「お前って実は、バカなの?」
「陽平くんに言われるとか・・・屈辱的なんだけど・・・」
そのまま、右京は再び床に倒れ込む。
「で?秋島教授って、どんな人なんですか?」
「あれ?千代さん、気になるんですか?」
「少しだけ」
「遥に怒られるぞ~」
すると、そこに。
「おい、ここにいるのか?」
そこに現れたのは、七倉と同い年同じ小さめの身長の男が一人扉を開けてきた。爽やか系の黒髪に、でも何処か切なさそうな涙ほくろ。黒いスーツに黒いネクタイ姿の彼に、千代は思わず、口を開く。
「え・・・ちゃんとした人ってこの大学にいたんだ・・」
「おい、千代。それってどういう意味だよ」
俺だって、こんななりだけど、ちゃんと教授してるわ。と、七倉が言うのも無理は無い。七倉の外見は、金髪に真っ赤のパーカーに、黒いズボン、どっからどう見てもチャラ男。
龍夜は、見た目はボサボサな髪の毛に眠そうな顔と、いつもどこにでも間違えてトイレ用のスリッパを履いている。
右京は、サラサラな紺の髪の毛に夏でも冬でも関係なしのにワイシャツ姿。どこからどう見ても、ホストにしか見えない。これが、千代の知っている『かすみ大学』の教授達だ。初めて、まともな教授を見た気がする。
「あ、失礼致しました。私、ここの生徒の保護者の1人である兎菓子 迷涼の姉のような者で。如月 千代と申します」
「ご丁寧にどうも。歴史と地理などを教えている秋島 紅葉と申します。」
「やっぱり、ちゃんとした人っているんだ・・・」
「え?」
「あ、いや・・・こっちの話です」
気にしないでください。と、思わず苦笑いをしてしまう。
「それより、あの4バカにご用事じゃなかったんですか?」
「なんか、千代さん。俺達の扱い悪くないですか・・・」
「キミの目には、一体僕達がどんな風に映っているのかな?」
「知りたいなら、全部言いますけど?」
「「遠慮しておきます」」
流石は、兄弟息がピッタリだ。
「まぁ、如月さんの言いたいことも理解は出来ますけどね・・・コイツら、本当にクズですからね」
クズを強調して、話す紅葉。
「え?」
「コイツらは、このかすみ大学の恥さらしですから」
刺々しい紅葉の言い方に、流石の彼女も驚きを隠せない。
「特にこの七倉は、本当に問題な教授ですよ。噂では、生徒に性的な嫌がらせをしているとか・・・あなたも気をつけたほうがいい」
「ンだと!??」
「七倉っ!落ち着け」
龍夜が、今にもキレてしまいそうな七倉の腕を掴んだ。
「おお・・・怖い怖い。本当に生徒に人気のあるから調子に乗ってるから怖いんですよ」
「・・・が・・・わかるのよ」
「え?」
下を向いて、拳を震わせる千代。
「あんたに陽平さんのなにが分かるってんのよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
自分でも、驚くほどの大きな声と、涙が流れた。
「陽平さんは、とっっても優しいの!!かっこいいの!!何が性的な嫌がらせよ!あんたの顔面と性格の方が、断然不愉快極まりないわ!!!」
千代の爆弾発言に陽平は、笑いが止まらなくなる。
「あははははあははっはっ!!あーー、涙出た」
七倉は、龍夜の手を解いて自分の為に悔し涙を流してくれている千代に近付いて、頭を撫でた。
「俺たちの事は、まぁ・・・なんて言われようが慣れてるから別に良いよ。何を言おうと・・・でもよ」
紅葉の胸倉を掴んで、驚くほどの低いドスの効いた声でこう呟く。
「俺の可愛い女泣かせるなら、てめえの心臓えぐりとるぞ」
「ヒィィッ!」
そのまま、紅葉は教室を去る。悔し涙が止まらない千代に、七倉はニカッと微笑んでから自分のパーカーの袖で濡れた頬を拭いてやる。
「あの人・・・嫌いです」
「うん・・・でも、嬉しかった」
「陽平さんの事なんにも知らないくせに・・・」
「うん・・・ありがとう」
「陽平さん・・・私、陽平さんのことがまだ・・・「ったく。さっきの教授何なん?ぶつかっておいて挨拶もないんかい!」
とても、良いところで遥と迷涼が帰ってきた。
「あの人、私苦手です・・・すごく他の教授のことをバカにするから」
「へぇ~って!!まぁた、アホ倉が千代に手を出す!!!」
女装中の遥が、七倉から千代を引き剥がす。
「千代・・・お前、今なんて・・・」
「また今度」
そう、小声で呟いてしぃーっと口元に人差し指を置いた。
そして、舞台はコンテストへ・・・。




