番外編、クリスマスの夜に2
メリークリスマス!!
当時、迷涼 18歳。
一方で、迷涼は病院に居た。
弟の『涼音』のお見舞いだ。しかし、彼は、意識がない上に、心臓の病気に掛かっていて、いつ容態が急変してもおかしくない状態だ。
ピッピッピッピッ。と、一人部屋で鳴り響く機械音だけが、今彼が生きている証だ。
迷涼は、眠りついている涼音の隣のパイプ椅子に腰掛けて、手を握り締めながら、今年も同じ事を祈るのだ。
ーー サンタさん……本当に居るならお願いします。プレゼントなんか要らない……だから、どうかすずを……涼音を、助けて。
「たった一人の家族なの……」
涙が、止まらなかった。
窓から見える、チラチラと降る雪。
「すず……メリークリスマス」
聞こえているかも、分からないでもきっと心は繋がっている。
そう、迷涼は思うしかなかった。
少ししてから、遥と千代が病院まで迷涼を迎えに来た。
病院を出ると、ひんやりとした空気が全身に染み渡る。何段かの階段の下で、腕を組んでこちらを見つめている遥と、寒い寒いと足踏みをしている千代が待っていた。
そんな2人を見て、迷涼は思わず走り出し階段をぴょん!と、飛び越え2人にダイブする。
そのまま、3人は仲良く地面へと倒れ込む。
地面には、少し雪が積もっていてた。
「すず、あんた……何してるの?寒いんだけど、痛いんですけど!?」
「スズちゃん?」
迷涼は、2人から離れなかった。
遥と千代は、一度上半身を起き上がらせる。迷涼の顔を覗き込むと、彼女は泣いていた。
彼女は、いつも弟『涼音』のお見舞いに来る度に涙を流す。それは、もう二度と目を覚まさないかもしれない涼音に対する涙なのだ。
迷涼は、本当に優しい子なのだ。
この子は、こんな小さな背中に沢山のモノを背負っている。遥と、千代は優しく彼女の背中を摩ってやる。
すると、迷涼は涙が止まらなくなり声を上げて泣く。
「うっうっ……うゎぁぁぁ」
まるで、親に叱られた子供のように。
「全くこの子は……。なんでも、独りで背負い込むなっつーの」
「せめて、家に帰ってから泣いて欲しいわ」
遥と、千代はそんな、軽い悪態をつきながらも、彼女の手を決して決して離さなかった。
「あんたは、独りじゃない」
「僕達がおるやろ?忘れたんか?」
迷涼は、顔を上げてこれまた可愛い笑顔を向けて、呟く。
「ありがとう」
2人は、その笑顔を見るなり安心したように迷涼の頭を撫でてやる。
「さてさて、そろそろ帰らないと雪だるまにでもなっちゃうわ」
「千代ちゃん、最近太ったもんな」
「すず~、こんな人ほっておいてふたりでケーキと、チキン買って帰ろ」
遥の悪態に千代は、スっと、立ち上がり迷涼の手を引っ張り、帰ろうとする。
そんな、2人を追って遥、迷涼、千代の順番で手を繋ぎ家に向かう。
「ごめんて~千代ちゃん、そない怒らんといて~ぷくぷくしてる千代ちゃんも、可愛くて僕は好きやで」
「すず、今年はサンタさんに何が欲しい?て、頼むの?」
「無視ッ?!」
まさかの千代の反応に、思わず必死になる遥。
「ホンマに堪忍やてぇ~」
「知るか。そこら辺に、ミニスカサンタのお姉さんにでも、デレデレしてろッ」
「み、ミニスカサンタッ?!千代ちゃん、ミニスカサンタと、メイド服と、峰〇子は、男の浪漫やで!?」
「その、男の浪漫叶えたくないですか?」
「か、叶えてくれるん??!」
遥の頭の中には、色々なコスプレをしている千代が浮かび上がる。
しかし、千代は笑顔で答える。
「風俗でも行ってこい」
その答えに、遥は一気に夢から覚めた。
「すず、こういう大人にはならないでね」
「うん、きっとならないから大丈夫」
「酷くないッ?!僕の扱い酷くない?!」
遥と、千代の会話にいつしか迷涼は声を出して笑っていた。
遥が、バカを言って。
千代が、それにツッコミを入れて。
迷涼が、笑う。
ーーサンタさん、私に素敵な家族を贈ってくれてありがとう。
迷涼は、そう心の中で囁く。
これが、『幸せ』て、言うのかな。




