表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちよすず物語  作者: ひな菊
54/60

番外編、クリスマスの夜に2

メリークリスマス!!



当時、迷涼 18歳。


一方で、迷涼は病院に居た。


弟の『涼音』のお見舞いだ。しかし、彼は、意識がない上に、心臓の病気に掛かっていて、いつ容態が急変してもおかしくない状態だ。


ピッピッピッピッ。と、一人部屋で鳴り響く機械音だけが、今彼が生きている証だ。


迷涼は、眠りついている涼音の隣のパイプ椅子に腰掛けて、手を握り締めながら、今年も同じ事を祈るのだ。


ーー サンタさん……本当に居るならお願いします。プレゼントなんか要らない……だから、どうかすずを……涼音を、助けて。


「たった一人の家族なの……」


涙が、止まらなかった。


窓から見える、チラチラと降る雪。


「すず……メリークリスマス」


聞こえているかも、分からないでもきっと心は繋がっている。


そう、迷涼は思うしかなかった。



少ししてから、遥と千代が病院まで迷涼を迎えに来た。


病院を出ると、ひんやりとした空気が全身に染み渡る。何段かの階段の下で、腕を組んでこちらを見つめている遥と、寒い寒いと足踏みをしている千代が待っていた。


そんな2人を見て、迷涼は思わず走り出し階段をぴょん!と、飛び越え2人にダイブする。


そのまま、3人は仲良く地面へと倒れ込む。


地面には、少し雪が積もっていてた。


「すず、あんた……何してるの?寒いんだけど、痛いんですけど!?」


「スズちゃん?」


迷涼は、2人から離れなかった。


遥と千代は、一度上半身を起き上がらせる。迷涼の顔を覗き込むと、彼女は泣いていた。


彼女は、いつも弟『涼音』のお見舞いに来る度に涙を流す。それは、もう二度と目を覚まさないかもしれない涼音に対する涙なのだ。


迷涼は、本当に優しい子なのだ。


この子は、こんな小さな背中に沢山のモノを背負っている。遥と、千代は優しく彼女の背中を摩ってやる。


すると、迷涼は涙が止まらなくなり声を上げて泣く。


「うっうっ……うゎぁぁぁ」


まるで、親に叱られた子供のように。


「全くこの子は……。なんでも、独りで背負い込むなっつーの」


「せめて、家に帰ってから泣いて欲しいわ」


遥と、千代はそんな、軽い悪態をつきながらも、彼女の手を決して決して離さなかった。


「あんたは、独りじゃない」


「僕達がおるやろ?忘れたんか?」


迷涼は、顔を上げてこれまた可愛い笑顔を向けて、呟く。


「ありがとう」


2人は、その笑顔を見るなり安心したように迷涼の頭を撫でてやる。


「さてさて、そろそろ帰らないと雪だるまにでもなっちゃうわ」


「千代ちゃん、最近太ったもんな」


「すず~、こんな人ほっておいてふたりでケーキと、チキン買って帰ろ」


遥の悪態に千代は、スっと、立ち上がり迷涼の手を引っ張り、帰ろうとする。


そんな、2人を追って遥、迷涼、千代の順番で手を繋ぎ家に向かう。


「ごめんて~千代ちゃん、そない怒らんといて~ぷくぷくしてる千代ちゃんも、可愛くて僕は好きやで」


「すず、今年はサンタさんに何が欲しい?て、頼むの?」


「無視ッ?!」


まさかの千代の反応に、思わず必死になる遥。


「ホンマに堪忍やてぇ~」


「知るか。そこら辺に、ミニスカサンタのお姉さんにでも、デレデレしてろッ」


「み、ミニスカサンタッ?!千代ちゃん、ミニスカサンタと、メイド服と、峰〇子は、男の浪漫やで!?」


「その、男の浪漫叶えたくないですか?」


「か、叶えてくれるん??!」


遥の頭の中には、色々なコスプレをしている千代が浮かび上がる。


しかし、千代は笑顔で答える。


「風俗でも行ってこい」


その答えに、遥は一気に夢から覚めた。


「すず、こういう大人にはならないでね」


「うん、きっとならないから大丈夫」


「酷くないッ?!僕の扱い酷くない?!」


遥と、千代の会話にいつしか迷涼は声を出して笑っていた。


遥が、バカを言って。


千代が、それにツッコミを入れて。


迷涼が、笑う。


ーーサンタさん、私に素敵な家族を贈ってくれてありがとう。


迷涼は、そう心の中で囁く。


これが、『幸せ』て、言うのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ