番外編、クリスマスの夜に
ーークリスマス?何それ?美味しいの?
当時、千代、22歳。
ハロウィンが、あっという間に通り過ぎ街は、早くもクリスマスモードONだ。
イルミネーションに、ツリーに、サンタさんの格好をして、ポケットティッシュを配る若い女の人達。
そして、あちこちにいるリア充、リア充、リア充!!!!
イルミネーションの中を仲睦まじく、歩いている仕事終わりの遥と、千代。
「ぶぇっくしゅん!!!!」
豪快にくしゃみをする千代に、遥は横目で彼女を見つめた。
「千代ちゃん……せめて、女の子らしくくしゃみできへんの?」
「コレでも、性別学上は女ですよ。あ、保険証見ます?」
「いや、そう言う意味ちゃうくて……」
「大体なんで、こんなくっっっそ寒い中、何が悲しくて店長なんかとイルミネーショと、ツリー見に行かないと行けないんですか?」
あ、深い意味は無いですよ?と、凍える手を口元に当てる。
はぁー。と、ため息混じりの息を吐くと白く浮かび上がり消えていった。
「深い意味はなくても、悪意は有りそうやな……」
遥も、寒い寒いと口積みながら白いマフラーに顔を埋めた。
「おー寒い……」
雑談を、繰り返しながら2人は、この街1番に有名なクリスマスツリーの前に着く。周りには、千代の大嫌いなリア充に、リア充に、リア充……。
「爆発すればいいのに……」
「サラリと怖いこと言わなーい」
「あ、すみません。心の声が漏れてしまいました」
「千代ちゃんも、下ばかり見てないで上向いてみ?キレーやで?」
先程から、下ばかり見つめる千代に呟く遥。
千代は、仕方なく上を向くと目に映る大きくて、ピカピカしていて、とても素敵なクリスマスツリー。
「ほら、キレーやろ?……千代ちゃん?」
千代の頬には、一筋の涙が流れた。
これには、遥も驚きを隠せない。
「どうしたん?」
慌てて、来ている着物の上に羽織っている道中着の袖で拭いてやる。
「ダメですよ、道中着……汚れちゃう」
「ええよ、別にこんなん……。千代ちゃんの方が大切やから」
「セクハラ……」
「どうしたん?」
セクハラ。と、言う単語を無視をして遥は、千代の顔を覗き込む。
「昔に……母親に言われたんです。クリスマスなんて、必要なんかない。あんなのバカで、頭が足りない子たちが集まる会だって……だから、私は……ずっと、クリスマスから目を逸らしてた……でも……」
再び、ツリーを見て微笑む千代。
「凄く綺麗……」
その言葉を聞いて、遥は心がギュッと掴まれるような心情になる。
思わず、彼女を抱きしめた。
「店長???」
「千代ちゃんの、哀しみとか苦しみとか自由にしてあげたい……僕が、千代ちゃん心の拠り所に……」
遥の言葉に、千代はある人物が脳裏に通り過ぎる。
『千代のよりどころになりたいんだ!』
真剣な彼の言葉が、どんなに千代を救ってくれた事か。
でも、その人は今はもう隣にいない。
「店長……ありがとうございます」
遥は、巻いていた自分の白いマフラーを彼女に巻いてやった。
「いいの?」
「僕は、これで充分や」
そういうと、彼は後ろから千代を優しく抱きしめる。
「バカップルて、思われますよ」
「ソレは、大歓迎やな」
「おバカさん」
2人は、そのままクリスマスツリーを眺めていた。




