おかえり
千代編は、このお話で最後です!
最後までお付き合いありがとうございました!
これからも、ちよすず物語をよろしくお願いします。
「待ってよ……さっきから、聞いてれば千代姉ちゃんが、遥ちゃんがって!元を正せば、全部……モゴッ」
文句を言おうとする迷涼の口を塞いだのは千代だった。
「ここから、先は……私が言わないと変わらないから」
プルプルプル。と、震える千代の手。彼女は、母親 八千代の前に向き合うように立ち口を開いた。
「わ、私はッ!やっぱり……家に帰れませんッッッ!」
「千代ちゃんっ!?あなた、自分が何を言ってるのか分かってるの?!二階堂に、帰らなのであれば、約束違反として奥山グループを潰しまぶします」
「ソレはッ!遥さんは、関係ないっ」
「許しません……絶対に」
「勝手にして下さい」
ふと、隣を見ると遥が千代の震える手を握り締めていた。もう傍らには、迷涼が。後ろには、七倉が立っていた。
「奥山グループなんて、僕は知りません。僕は、ち……娘さんから色々なことを教えて頂きました。人の温もり、優しさ、厳しさ、全部全部彼女から、教わったんです!」
「あなたは……奥山グループのなんなの」
「奥山 遥と申します。娘さんと、結婚を考えている者です」
遥の言葉に、目を見開く八千代。思わず、父親である純也を見つめる。
「千代」
いつ振りだろうか、純也に名前を呼んでもらうのは。彼女は、どこか新鮮味を感じながら彼を見つめる。
「お前は、何度この家の顔に泥を塗れば気が済むんだ」
「そんなつもりはッ」
「もう、いい。お前はこの家から、勘当だ……好きに生きて、好きに死ね。二階堂の名も2度と名乗るな。お前は、これからも如月 千代 (きさらぎ ちよ)として、生きろ」
それだけ言い残すと、純也は彼女に背を向けてそのまま消えていく。
その後を、兄の葵希と八千代も追う。
しかし、八千代だけ歩みを止めてこう呟く。
「……如月……お母さんの好きな年覚えててくれたのね。………風邪だけは、引かないのよ」
これが、最初で最後の母と父からの素の愛だったのかもしれない。
隣で、遥が頭を下げている。千代も、涙を流しながら、頭を下げた。
その後は、記者や野次馬は全て純也が処理をしてくれた。
二階堂グループのビルを見上げて、彼女はもう1度頭を下げる。
「千代」
遥に名前を呼ばれ前を向くと、彼の顔が間近にあり思わず、声を上げた。
「な、なんですか!?」
いきなり、彼は彼女にデコピンを食らわせる。
「なんですか?!やないやろ?!?心配させて!!僕……ホンマに心配し過ぎて吐血してもうたわ!!」
「遥さんが、言うと冗談に聞こえないので笑えない冗談は、やめてもらえますか?」
「「いや、冗談じゃないし」」
思わず、七倉と迷涼がハモって答える。
「ええええ?!!は、遥さん?!また、吐血って!!び、病院行きましょ?!」
遥の手を握り締める千代のことを、引っ張り力いっぱい抱き締めた。
彼は、耳元でこう囁くのだ。
「もう……何処にも行かんといて……ぶっちゃけ、八重桜がどうなろうが……奥山グループが、どうなろうが関係ないねん……千代が、居てくれればそれで、僕の傍に居てくれれば……ホンマに……だから……」
千代は、気付いていた遥の声に涙かかっていること、頬が濡れていたことに。
そっと、彼の優しい背中に手を伸ばした。
「遥さん……ありがとう。陽平さんも、すずも……ありがとうっ!コレで、私は自由です!!二階堂 千代ではなく!!如月 千代です!」
その時の、千代は初めて心から笑えた気がした。
☆おまけ☆
4人は、とりあえず帰ることにした。
七倉と、遥がまたいがみ合っていた。
それはと言うと、帰り方の問題だ。七倉が、どうしても千代をバイクに乗せて帰ると言い張る。
しかし、千代は自分より具合のよろしくない遥を。と、勧めたからである。
「私と迷涼は、タクシーで帰りますから」
「俺、バイクの後ろには女しか乗せないんだよなぁ~」
「アレ?前に、右京教授と乗ってるところ私、見ましたよ?」
迷涼の言葉に、しぃーっ!と口に人差し指を立てる七倉。
「僕も嫌や。タクシーで帰る」
「これからタクシーで、帰ると時間掛かりますし、お体にも障ります!早めに帰れる陽平さんの、バイクで帰ってください」
「ええ……こんな、男の腰に腕を回したくないし、タバコ臭い」
「てンめぇ……誰のおかげで、生きてるのかよーく考えてみろや」
「お、く、す、り」
確かに。と、迷涼は思う。が、後々面倒になりそうなのでその言葉は、胸にしまう。
「殺す!!!次は、ぜってぇー殺す!!!」
「何度でも言えや!!憎まれっ子世に憚るて、言葉知らんのか?!」
「遥さんこそ、その言葉の意味分かります?」
まぁ、いいか。と、先程から隣でスマホをいじっている迷涼を千代は、横目で確認した。
日も段々と、落ちてきた頃に。
「お迎えにあがりました~」
プップー。と、クラクションと共に聞こえてきた聞き覚えのある声に、千代たちは振り返る。そこには、運転してきた龍夜と、助手席からこちらに手を振っている右京の姿があった。
「あ、来てくれたんですね」
車に駆け寄る迷涼に、運転席の窓を開けて助手席に、座っていた右京が体を乗り出した。
「そりゃあ、可愛いすずちゃんの為だもん。来るよ~」
「右京、この車誰の物で、誰が運転してきたか考えろ」
いつもの笑顔を迷涼に向けたまま、淡々と口を開く龍夜に対して、はい。と大人しくなる右京であった。
「早く、風邪引きますよ。乗った乗った」
「わぁい!お邪魔します!」
「すみません……」
「龍ちゃん、ナイス~」
次々と、龍夜の車に乗って行く迷涼、千代、遥。
「はい、全員乗りましたね。帰りますよ」
「「「「はーい」」」」
右京を入れての、愉快な仲間たちが返事をする。
取り残された七倉。
「え、俺は?」
「悪いな。七倉、この車5人用なんで」
「陽平くんは、バイクあるでしょ」
「うわ……なんだろ、この〇び太みたいな気持ち……」
そのまま、車は走り出す。
「お、置いていくなよーー!!」
車内から響く、千代たちの笑い声。
嗚呼、これで日常が帰ってきた。




