届いて
一方で、七倉と迷涼は道が空いていたこともあり、40分程度で到着した。
「でかっ!!」
思わず、見上げてしまう程大きい、高層ビル。ここが、大手化粧品会社スノードロップを経営している二階堂グループの本社。
「良いから、行くぞ」
「あ、はい!」
七倉は、堂々真正面から入ろうとするが立っていた警備員に止められる。
ガラス越しから、見える母親と千代の姿。記者会見が、終わり家に帰る所みたいだ。
「千代っ!!!退け!!てめぇ!!」
「いけない!!!このままだと、公務執行妨害で逮捕するぞ!!」
2人掛りで、止められる七倉と迷涼。
「離してください!!千代姉ちゃん!!!!」
外が騒がしいわね。と、千代の母親である。
ー二階堂 八千代ーは、七倉を見つけるなり、驚きの余り言葉を失う。
千代も、それに釣られて後ろを振り返る。
「すず……陽平さん……」
駆け出したかった。2人の元へ今すぐにでも。しかし、握り締められている八千代の手がそれを許さない。
「良い?千代ちゃん!あんな、野蛮な人たちとは、もう今後一切関わらないとお母さんに誓って」
「え?……でも!」
「誓いなさい。一度、人生を失敗したあなたに、チャンスが回ってきたのよ?お母さんと、あの野蛮な人たちどっちを取るの?お母さんよね?また、あなたは、お母さんを見捨てるの?」
八千代の一言一言に、彼女は金縛り状態に陥る。
その時、窓越しから七倉の声が聞こえる。
「千代!!!!お前、いい加減にしろよ!!!毎回毎回、心配ばっかり掛けやがって!!こっちの身が持たねぇわ!!」
「千代ちゃん……あの人たちにお別れを言いなさい。さぁ……早く。」
「はい、お母さん」
千代は、警備員たちに一言呟き退かせる。警備員は、彼女に敬礼をして七倉たちの前から消える。
「私は……二階堂家に帰ります……これ以上……頼みますから……邪魔、しないで……」
千代は、俯き震え声でそう呟いた。
「じゃあ、永久にさようなら」
そう言うと、彼女はくるっと再び、八千代の元へと足を踏み入れる。
七倉の中で、またあの時と同じ光景に見えた。
彼は、思わず千代を後ろから抱きしめる。
彼女の目に手を当てる。
涙が溢れているのが良くわかった。
「わかった……お前がまた、暗闇に入るっつーなら……俺が何度でも引き上げてやる」
「陽平さん……?」
「あなたは!!また、そうやって千代を惑わせて!!良い?!千代!あなたは、一生私の言うことを聞いていればいいの!!!今までだって、そうやって来たでしょ?また、お母さんを困らせたいの?」
「ちがっ……」
「千代のおふくろさん……千代だけが、悪者だと思ってるみたいだけどよ。ハッキリ言わせてもらう……千代は、お前の操り人形じゃねぇんだよッ!!!!!」
急の七倉の言葉に、千代は再び涙が溢れだした。
八千代は、目を見開く。
彼の手をズラして、千代は七倉を見つめる。彼の瞳は、真っ直ぐ凛として何より曇が無かった。
そこに。
「ちょい、まちぃや……」
ガラスの扉に背を持たれ、肩で息をする遥の姿があった。
「遥……さん。なんで……来たの?」
「先に千代……自分を犠牲にしてまで、あの店……守りたいって思うか?僕が、1番に守りたいのは、千代やねんて、何度言えば分かるんじゃ、阿呆……」
ヨタヨタと、千代と七倉に近付く遥。
「ごめんなさい……」
「そ、れ、と……」
とりあえず、千代を七倉から引き剥がしたと思えば、彼の鳩尾を勢い良く殴り付ける遥。
「がハッ!!な、なにしやがる……」
「じゃかあしいわ!!さっきのお返しや!!」
「さっきは、死にかけてたじゃん……お前」
「阿呆か、薬飲んだからもうピンピンや!!」
先程、遥の鳩尾を殴り付けた七倉に、お返しをした。
「あと……その……おおきに」
顔を赤く染めてから、遥は蚊が鳴くよう声でそっと呟いた。
それは、しっかり地獄耳の七倉には届いていた。
「ハイハイ。じゃあ、後はバトンタッチ」
パチんッと、遥と手を叩いた。
「な、なんなの?!あなたたちは!!千代!早くこっちに来なさい!!!来ないと、その男の店がどうなるか分かってるんでしょうね!?」
「遥さんは、関係ない!!全部私が悪いんです」
周りには、仕事の職員たちや、記者たちが集まってきて大事になり始めた。
騒ぎを聞きつけてやって来たのは、千代の父であるー二階堂 純也ーと、兄の葵希だった。
「なんの騒ぎだ」
「あ、あなた!!千代が……千代が……あの男に攫われそうなの!!今すぐ警察を!呼んでください!!」
八千代は、泣き叫びながら純也に抱きつく。そんな、痛々しい母親の背中を優しく撫でてやるのは、兄の葵希だ。
まるで、千代が悪者のようだ。
「ちがっ!遥さんは……関係ないっ」
しかし、千代の想いも声も彼らには、届かない。




