表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちよすず物語  作者: ひな菊
50/60

届いて


一方で、七倉と迷涼は道が空いていたこともあり、40分程度で到着した。


「でかっ!!」


思わず、見上げてしまう程大きい、高層ビル。ここが、大手化粧品会社スノードロップを経営している二階堂グループの本社。


「良いから、行くぞ」


「あ、はい!」


七倉は、堂々真正面から入ろうとするが立っていた警備員に止められる。


ガラス越しから、見える母親と千代の姿。記者会見が、終わり家に帰る所みたいだ。


「千代っ!!!退け!!てめぇ!!」


「いけない!!!このままだと、公務執行妨害で逮捕するぞ!!」


2人掛りで、止められる七倉と迷涼。


「離してください!!千代姉ちゃん!!!!」


外が騒がしいわね。と、千代の母親である。

二階堂(にかいどう) 八千代(やちよ)ーは、七倉を見つけるなり、驚きの余り言葉を失う。


千代も、それに釣られて後ろを振り返る。


「すず……陽平さん……」


駆け出したかった。2人の元へ今すぐにでも。しかし、握り締められている八千代の手がそれを許さない。


「良い?千代ちゃん!あんな、野蛮な人たちとは、もう今後一切関わらないとお母さんに誓って」


「え?……でも!」


「誓いなさい。一度、人生を失敗したあなたに、チャンスが回ってきたのよ?お母さんと、あの野蛮な人たちどっちを取るの?お母さんよね?また、あなたは、お母さんを見捨てるの?」


八千代の一言一言に、彼女は金縛り状態に陥る。


その時、窓越しから七倉の声が聞こえる。


「千代!!!!お前、いい加減にしろよ!!!毎回毎回、心配ばっかり掛けやがって!!こっちの身が持たねぇわ!!」


「千代ちゃん……あの人たちにお別れを言いなさい。さぁ……早く。」


「はい、お母さん」


千代は、警備員たちに一言呟き退かせる。警備員は、彼女に敬礼をして七倉たちの前から消える。


「私は……二階堂家に帰ります……これ以上……頼みますから……邪魔、しないで……」


千代は、俯き震え声でそう呟いた。


「じゃあ、永久にさようなら」


そう言うと、彼女はくるっと再び、八千代の元へと足を踏み入れる。


七倉の中で、またあの時と同じ光景に見えた。


彼は、思わず千代を後ろから抱きしめる。


彼女の目に手を当てる。


涙が溢れているのが良くわかった。


「わかった……お前がまた、暗闇に入るっつーなら……俺が何度でも引き上げてやる」


「陽平さん……?」


「あなたは!!また、そうやって千代を惑わせて!!良い?!千代!あなたは、一生私の言うことを聞いていればいいの!!!今までだって、そうやって来たでしょ?また、お母さんを困らせたいの?」


「ちがっ……」


「千代のおふくろさん……千代だけが、悪者だと思ってるみたいだけどよ。ハッキリ言わせてもらう……千代は、お前の操り人形じゃねぇんだよッ!!!!!」


急の七倉の言葉に、千代は再び涙が溢れだした。


八千代は、目を見開く。


彼の手をズラして、千代は七倉を見つめる。彼の瞳は、真っ直ぐ凛として何より曇が無かった。


そこに。


「ちょい、まちぃや……」


ガラスの扉に背を持たれ、肩で息をする遥の姿があった。


「遥……さん。なんで……来たの?」


「先に千代……自分を犠牲にしてまで、あの店……守りたいって思うか?僕が、1番に守りたいのは、千代やねんて、何度言えば分かるんじゃ、阿呆……」


ヨタヨタと、千代と七倉に近付く遥。


「ごめんなさい……」


「そ、れ、と……」


とりあえず、千代を七倉から引き剥がしたと思えば、彼の鳩尾を勢い良く殴り付ける遥。


「がハッ!!な、なにしやがる……」


「じゃかあしいわ!!さっきのお返しや!!」


「さっきは、死にかけてたじゃん……お前」


「阿呆か、薬飲んだからもうピンピンや!!」


先程、遥の鳩尾を殴り付けた七倉に、お返しをした。


「あと……その……おおきに」


顔を赤く染めてから、遥は蚊が鳴くよう声でそっと呟いた。


それは、しっかり地獄耳の七倉には届いていた。


「ハイハイ。じゃあ、後はバトンタッチ」


パチんッと、遥と手を叩いた。


「な、なんなの?!あなたたちは!!千代!早くこっちに来なさい!!!来ないと、その男の店がどうなるか分かってるんでしょうね!?」


「遥さんは、関係ない!!全部私が悪いんです」


周りには、仕事の職員たちや、記者たちが集まってきて大事になり始めた。


騒ぎを聞きつけてやって来たのは、千代の父であるー二階堂(にかいどう) 純也(じゅんや)ーと、兄の葵希だった。


「なんの騒ぎだ」


「あ、あなた!!千代が……千代が……あの男に攫われそうなの!!今すぐ警察を!呼んでください!!」


八千代は、泣き叫びながら純也に抱きつく。そんな、痛々しい母親の背中を優しく撫でてやるのは、兄の葵希だ。


まるで、千代が悪者のようだ。


「ちがっ!遥さんは……関係ないっ」


しかし、千代の想いも声も彼らには、届かない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ