守る
「婚約!?!」
迷涼は、バッ!と、後ろを向くと遥がムクっと、起き上がっていた。
「遥ちゃん!ダメだよ!安静にして寝てて?!」
「うっ……ゴホゴホ。駄目や……僕、千代と、約束したんや……僕が、守るって約束したんやっ!!!」
「遥ちゃん……」
「遥……てめぇの想い俺に預けな」
ぜーはーぜーはー。と、荒い息を上げている遥に、七倉がこう呟く。
「俺が、アイツを取り戻す」
「私も、行く!!!」
「兎菓子は、遥について……」
「お願い……千代姉ちゃんを助けたい!」
「分かった。バイクの後ろに乗せるのは、千代だけだったけど、しゃーねぇわ乗せてやる」
「行きも乗ってきたよ?」
「うるさい」
行くぞ!と、迷涼と部屋から出て行く七倉。
「ちゃんと、寝ておいてね!遥ちゃん!」
残された遥は、悔しさと自分への不甲斐なさに腸が煮えくり返る思いだった。
ーー 僕から……こんな僕から…離れたくないって言ってくれたのに……。
ーー僕は……彼女を守るって約束したのに……。
「なんでや!!なんで、体が動かへんのや!!なんで、なんで………」
ーー手放したくない!!あの笑顔が、もう一度……たったもう一度でいいから、見たい!
「くそったれがぁあぁぁぁあっ!!!」
ソファーから、立ち上がり床に倒れ込む遥。その時だ。
遥の懐に入れていた、スマホが鳴り響く。
相手は、自分の継母からだ。
「はい……」
自分でも、驚くほどに低く不機嫌な声色をしていた。
『あら、遥さん。良かったですね』
「なにがですか?」
話が読めない、彼に継母である聡子がこう続けた。
『如月 千代さん?でしたっけ?本当は、二階堂グループのご令嬢だったなんて、知らなかったわ。しかも、おかげで家の店は、潰されずに済んで良かったわね』
「どういうことですか?」
『あら?聞かなかったの?まぁ、簡単に言えば家を救ってくれたのよ。二階堂グループが、家の奥山グループを潰す気でいたらしくてね。……それを、彼女が止めてくれたらし……て、聞いているの遥さん?』
ーー千代は、自分の……僕の為に……自ら二階堂に帰ったんや……。僕のせいやんか!!!
「失礼致します」
『ちょっ!!遥さん!?貴方、今、何をしようとしているの?!変な気を起こすのは、辞めなさい!!』
「うっさいねん!!どいつもこいつも!!僕は……っ!!!」
うっ…ゴホゴホっ!!!と、咳を込むと再び吐血した。
『貴方に、何が出来るの』
「知るか!でも……千代は、絶対に取り戻す!!絶対にや……改めて、今度本社に伺わせて頂きます……では」
『遥さっ……!』
遥は、そのまま電話をきると鉛のように重たい体を、奮い立たせて彼は立ち上がる。
そして、ヨタヨタと確かに一歩一歩足を進めながら、彼女のことを思い出す。
『遥さんー!アイス取ってぇ』
ソファーに、寝っ転がりながら遥に頼む千代。
『遥さん、抜くわよ』
恐ろしほど、声が冷たい千代。
『遥さんっ!』
自分に初めて抱き着いてきた時の千代。
『独りにしないで!!』
泣いていた千代。
どれも、手に取るには値しないかもしれないが、でも、彼に取っては本当に本当に愛おしい思い出なのだ。
遥は、運良く店の前を通ったタクシーを捕まえた。
「二階堂会社本部まで」
「お客さんっ?それ、血じゃ?」
「ええから!はよっ!!!」
「あ、はいっ!!」
ーー絶対1人にはせんからな……千代。僕が、守るんや……。




