婚約
一方で、遥と千代はと言うと。
「店長~!私もう、お昼行ってきますね」
「おん、僕もすぐに行くから待っててぇー」
お店の外にある、看板を準備中にする千代。
珍しく、千代も振袖を着て髪型も和をイメージしたとても華やかだ。
その時。
懐に入れていた彼女のスマホが、鳴り響く。
パッと、見るとそこには、『非通知』の文字が浮かぶ。千代は、軽く首を傾げながら電話が切れてしまう前に出る。
「はい、もしもし?」
『千代ちゃん?』
聞き覚えのある懐かしい声に、千代は、目を見開く。
「お、お母さん……」
「ふぅい~……最近、やけに冷え込んできたなぁー今日の、ご飯は暖かいものにしようか?なあ、千代」
店の事を終わらせてから、外で待っている千代に話し掛けた遥。しかし、反応がなく前を向くとそこには、見慣れないリムジンと、千代の後ろ姿。
「ち、千代?」
「遥店長……今まで、お世話になりました」
「え?は?……どういうこと?」
千代は、振り向き満遍な笑顔でこういう。
「私、如月 千代は……二階堂 千代に戻ります」
その言葉に、遥は目を見開く。彼女の手を握ろうとした時急に意識が、朦朧とした。
それは、後ろから黒ずくめの男が遥の口を多い薬品の香りを嗅がせて、気絶させたのだ。
「ち……ょ……」
遠退く意識の中、遥が見た最後の千代の姿は……泣いていた。
彼女は、リムジンに乗りそのままその場を去る。
「い!……おい!!遥!!!」
「遥ちゃん!!!」
店の前の、竹で出来たベンチに寝かされていた遥の肩を乱暴に振る七倉。
「遥ちゃん!大丈夫?!なんで、こんな所で寝てるの?……アレ?千代ちゃんは?」
迷涼が、首を傾げる。
遥は、ハッ!と、顔を色を変えて七倉の肩を掴む。
「千代が!!二階堂にっ!!うっ!!!……ゴホゴホっ!!!」
手で覆って咳をすると、そこには血液が付く。
「お、おい!!」
「遥ちゃん!!」
「行かないと……千代が、待っとる!」
立ち上がると、よろよろと近くの電柱柱に手を付いては、再び咳き込む。
「こんな時に……」
「遥ちゃん!無茶だよっ!!!」
「とりあえず、店に入るぞ」
ほらっ。と、遥に手を差し伸べる七倉。その手を、払い除けて遥は、口元から血を流しながら、一歩一歩足を進める。
「黙らっしゃいっ……。 千代が、助けを求めてるのに、おちおち1人で、はいそーですか。て、寝てられると思うか?!!バカにすんのも、いい加減にしろや!!絶対……取り戻す……何があってもっ!!!」
「ああ、そーかい」
ーガンっ!!!
「がハッ」
七倉は、遥の鳩尾を勢い良く殴りつけそのまま本日2回目の気絶をする。
地面に倒れる前に、彼をキャッチして担ぎ上げ、そのまま店に入っていく。
「七倉教授!!やり過ぎです!!」
店には、今お昼休みの為幸い誰も居なかった。
七倉は、遥を奥の休憩室のソファーに寝かせる。
「こーでもしねぇと、コイツ……死ぬぞ」
「……うっ……ち、千代」
うなされながら、遥の夢の中では千代の涙姿しか浮かばない。
その時、迷涼のポケットからブルブル~と、バイブ音が鳴り響く。
メールのようだ。
宛名は、『笹木部 教授』
『迷涼さん、テレビつけてください』
首を傾げ、言われた通りにテレビを付けた。そこには……。
『只今!!死亡されたと思われていた二階堂グループのご令嬢様について、たった今記者会見を開始する様です!』
パシャパシャと、フラッシュがたかれて、そして、白いテーブルの前に居るのは、間違えなく千代だ。
『皆様には、大変なるご迷惑、ご心配をお掛けしました。本日を持ちまして、わたくし、二階堂 千代は……伊集院グループの伊集院 命様と婚約することになりました。』




