彼女の行動
ー次の日ー
迷涼は、いつも通り大学へと向かう。遥と、千代も迷涼を車で送ったあと仕事へと向かって行った。
彼女が、一番に向かったのは仮眠室。
ガラガラっ!!!と、勢い良く開けてるとそこには、朝の一服をしている龍夜と、楽しそうに会話をしている右京と、七倉。
いつもの不良教授たちだ。
「迷涼さん」
どうしたんですか?と、声を掛ける前に彼女が駆け寄ったのは、龍夜でも右京でもなく、七倉だった。
千代の元彼である七倉なら、何か知っているかも知れない。そう、迷涼は思ったのだ。
「七倉教授!!」
「あん?」
どったの?と、煙草の火を消して迷涼を見つめる。
「ちょ、ちょっと講義で分からない所があるので、今から教えてくれないですか?」
まさか、千代が、あの死亡した筈の二階堂グループの会長令嬢などと、ここでは口が裂けても聞けない。
「そんなん、後でいくらでも教えてやるよ」
「今、教えてください」
「後ででいいだ「今!!!」
いつもと、様子がおかしい迷涼に七倉は、一言分かったよ。と、答えてふたりは、消えていった。
「なぁに、アレ?」
「知りませんよ」
ふぅ~。と、ため息混じりの白い煙を吐いた。
「千代が、二階堂グループの会長令嬢?」
ふたりは、とりあえず誰もいないいつもの講義室で、話し合いを始める。
「はい!知ってましたか?」
「そんなん、元から知ってるわ。俺たち、付き合ってたんだぞ」
「それって、いつの話ですか?」
「ヤケに食いつくな……なんか遭ったのかよ」
広い広い講義室の窓を開け、七倉は少しひんやりとした風を浴びながら、迷涼の質問に答える。
「その様子じゃなんか遭ったんだな」
迷涼は、自分の服をギュッと、掴み大粒の涙目を流した。
「私……千代姉ちゃんに、助けられたのに……酷いこと言っちゃった。いつも、あの笑顔に助けられてきたのに……酷いこと言っちゃった……だから!!今度は、私が千代姉ちゃんの力になりたい!助けたい!まずは、知りたいの!千代姉ちゃんのコト!だから、お願いします!!教えてください!!」
頭を下げる迷涼に、七倉はポケットから煙草と、ライターを取り出しカチカチっと、火をつけて、加えていた煙草に近付けた。
「アイツを、あの家から連れ出したのは俺なんだよ」
「え?」
「俺たちが、まだお前より若かった時かな?アイツの自律神経が壊れ始めて、俺が無理矢理……連れ出したんだ。」
ふぅー。と、白い煙を吐き出す。
『良いから、お前はあの家に居たら駄目だ!!』
『でも、お母さんの全ては私なの……私が居ないと……お母さんが、壊れてしまう』
そう言って、千代は、七倉に背を向けた。その時、七倉にはこれ以上千代が二階堂の家に居たらどうなるのか、どうなってしまうのか、最悪の場合が頭を過ぎった。
まるで、灯りが一つもない世界に自ら足を踏み入れようとしている様だった。
七倉は、そんな千代の手を引っ張り抱き寄せた。
『惚れた女が、これ以上……苦しんでいくのを見ていられるほど、俺は……心が腐ってねぇんだよ』
『え?』
『来い……俺が、お前を幸せにしてから、千代の本当の気持ち教えてくれよ!』
『…けて…』
『聞こえない』
『助けて!!!!』
そう言って、千代は七倉の言われるがまま家を出た。
「少しの間、同棲してたんだ……。でも、アイツ、知らない間に俺の家から出ていった」
「それが……プリン事件」
「サラリと、俺の古傷抉るのやめて……」
「でも、本当にそれだけで千代姉ちゃんが、七倉教授の前から姿消します?」
七倉は、窓辺に腰掛けて背を持たれながら天井を見つめた。
「知るかよ……でも、あの時の千代……泣いてたんだぜ。『助けて』ってよ……アイツとのあの時……過ごした日々が忘れられねぇ……だから、ずっと心に残ってるのかもな……我ながら、女々しい男だぜ」
ははっ。と、笑いながら七倉は再び煙草を加える。
「あんまり、役に立てなくて悪かったな」
「いや、そんなことありません。私なんかよらずっと、教授は千代姉ちゃんのこと良く理解してると思います」
七倉は、煙草の火を消して迷涼に近付く。
「アイツ……また、泣いてんの?」
彼からの問いに、迷涼はコクリッと頷く。
「そっか……じゃあ、俺は俺に出来ることをするだけだわ」
そのまま、七倉は今日あった講義を全てボイコットした。
迷涼も、七倉のあとを追って初めて、大学をサボるのであった。




