千代の過去編1
私の子供の頃の世界は、『親』が全てだった。
『なんであんたは、そうなの!!?』
ーーガシャーンッ!!
モノが割れる音に。
『死ねっ!!!!』
ーードンドンドンッ!!!
扉を乱暴に叩く音。
『ごめんね、でもアナタのことを心から愛しているのよ』
しかし、少しすると優しく抱き締められる。
言うことを聞かないと、怒鳴られる毎日。いつしか私は、大きな音、家族団らんが怖くて堪らなくなった。
『あんたなんか、要らないわ!!!』
ーーバッ!!!
思わず、布団から起きる千代。
頭の中を過ぎる色んな声。色んな記憶。
ハッ。と、前を向くと目の前には心配そうにこちらを見つめる遥。
千代を抱き寄せようとする彼を千代は、枕を叩きつけた。
「あたッ!千代?」
枕は、見事に遥の顔面に打つかっては、床に落ちる。
「来ないで!!!誰も、私に近づかないで!!!」
「千代?」
再び、近付こうとする遥を見て、千代は叫び出す。
「きゃぁぁああぁぁあッ!!!!」
この声には、寝ていた迷涼も飛び起きて叫び声が聞こえてきた千代の部屋に向かう。
迷涼が、ひょっこり部屋を覗くといつもはきちんとした部屋の筈の千代の部屋が、物などが散乱していた。
そんな暴れる千代を抱きしめる遥。
「来ないで!!!触らないで!!!やめて!!!」
「大丈夫やから……千代、大丈夫。」
初めての千代の錯乱状態に、迷涼はどうすることも出来ないでいた。
「あ、すずちゃん。起きてもうた?堪忍な、少ししたら収まると思うから」
「ちぃちゃん……大丈夫?」
「大丈夫やから……すずちゃんは、あっちに行ってて?」
「でも……」
「ここから、出してよっ!! 私が邪魔なら、そう言ってよ!! 消えるからっ!!」
まるで、子供が泣きじゃくるように叫び出す千代。
「大丈夫やで……僕がおるよ。 千代、息……ゆっくり吸い?」
過呼吸に、なりそうな彼女を見て遥は、落ち着いた対処をする。
30分後。
やっと、落ち着いた千代は再び眠りについた。リビングに向かうと、テーブルに顔を伏せる迷涼がいた。
「すずちゃん?」
遥の声に、ビクっと肩を上がらせた迷涼。
「まだ、起きてたん?」
ちなみに、時刻は深夜の三時。
「あんな、ちぃちゃん見て自分だけグーグー寝てられないよ」
遥は、困った様に微笑んでキッチンへ行き、冷蔵庫からまだ未開封の牛乳を出して、マグカップを、二つ出し注ぐ。
「ホットミルクいれるな?」
「あ、うん。ありがとう」
数分で、ホットミルクが出来た。
遥は、『はい、熱いから気をつけ?』と、付け足して迷涼の目の前にマグカップを置く。
「ありがとう……」
「それ飲んだら、もうはよ寝ーや?」
遥は、部屋に戻ろうとするが迷涼がそれを阻止する。
「待って!私、聞いてないよ?千代姉ちゃん……どうしたの?」
今にも泣きそうな、彼女を見てため息をついてから、迷涼の前の椅子に腰掛け足を組む。
「まぁ。口止めも、されてへんからええか」
「どういうこと?」
「千代の過去……」
「千代姉ちゃんの過去?」
迷涼は、首を傾げた。




