日常は、ここから
あ、花の香りがする…もうすぐ春だね
春眠暁を覚えず。とは、よく言ったものだ。ベッドから、起きたくても起きれない。布団が、離してくれない。
仕事行きたくないなぁ…。なんて、思いながら、この物語の主人公の1人であるー如月 千代ーは、パンダのぬいぐるみを抱きしめて眠っていた。
そこに……。
ーー カンカンカンッ!!!
いきなりの騒音に、反射的に起き上がる千代。
「あ、ホントだ。起きた」
目の前には、ピンクのヒラヒラエプロンを身にまとい、何故かおたまとフライパンを持って、千代を起こしてきた。
彼女の名前はー兎菓子 迷涼ー人気ホラー小説家で、現役の大学生。
眠い目を、擦りながらベッドから起きるとか千代の姿に、目を見開く迷涼。なぜなら、彼女の姿は、全身パンダ。
パンダの着ぐるみを着て、パンダのぬいぐるみを抱き、パンダ柄の布団にくるまっていた。
「ちぃちゃん…どんだけ、パンダ好きなの?」
「めっちゃすき」
ふぁぁあっ。と、あくびをしながら部屋を出て、階段を下りてリビングへ向かう二人。
「にしても、なんでお玉とフライパン??」
「あ!コレはね「僕のアイデアやで」
迷涼が、答える前に下で優雅にブレックファーストを食べている男こそ、千代の上司で、有名な超高級呉服店『八重桜』の支店長をしているー奥山 遥ーだ。
彼は、足を組んで食後の珈琲を堪能していた。
新聞を片手に、我が物顔で新聞を開く、遥にイラッとする千代。
「やっぱり、スズちゃんにはピンクのヒラヒラエプロンがよー似合うなぁ」
「やっぱり、コレ店長の仕業だったのね!すずに、変なモノ着せないで下さい!!」
「ええやーん!かわええもんなぁー」
「ありがとうございます!」
えへへー。と、笑う迷涼にため息を零して、台所の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲む、千代。
「ちぃちゃんは、アレやろ?自分の分がないから、ふてくされるんやろ?」
千代は、思うのだ。
コイツ、バカか?と……。
別に千代は、遥のことが嫌いな訳では無い。むしろ、感謝に尊敬している。しかし、たまに思う。
タンスの角に足の小指をぶつけて、骨折すればいいのに。
でも、それはそれで面倒くさそうなので諦めて無視をする。
すると。。。
遥は、嬉しそうにテーブルの下の紙袋から黒いレースのエプロンを出しては、千代に見せた。
「はい!ちぃちゃんの分やで!」
「わぁい!お揃い!」
再び、千代は思う。
やっぱり、タンスの角で小指をぶつけてしまえば良いのに。
こんな日常を、彼女たちは愛していた……。