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クラウド編

 クラウドの手の中には、旅の間ライシュルトが書き綴っていた本がある。世界の荒廃の記録が書かれたそれを、カズキの指標になればと、セディアから借りてきたのだ。


「どこから回ろうか」


「絶対、ユーライ」


「え?」


「全部の聖獣解放したらまた行くって約束したから。ついでに自然を治してあげるよ」


「はは、そうだったな。じゃあユーライにしよう。ミツチカ様達に会うのも楽しみだな」


「うんっ、温泉も。行こ、クラウド!」


 カズキの召喚した聖獣の背に乗り、空高く舞い上がる。この聖獣も最初は両手に抱えられるほど小さかった。随分と成長したものだとクラウドは思い、カズキの頭を撫でる。


 空から見る世界は静かで力強い。


「見てごらん。カズキが護った世界だよ」


「えー? 護ったのクラウドだよ」


「俺?」


「うん。だってあの時、クラウドがボクを見つけてくれなかったら、ボクは魔獣に殺されてた。それに生きてたとしても、あの時のボクなら、こんな世界はむしろ無くなっちゃえばいいと思ったよ。それを変えてくれたのはクラウドだもん。クラウドいなかったら護りたいとも思わなかったし」


「そうか……なぁ、少し寄っていかないか? あの林に」


「いいよー」


 地上に降りたクラウドは、カズキを抱き上げて林の先の草原へと歩いた。昼に見る草原は心地好い風に緑が揺れ、魔獣と戦ったとは思えぬほど穏やかな場所だった。


「カズキはあの時、何故ここに来たんだい?」


「んー。ここ林の奥だから人も寄りつかないし、一人になれるから、嫌なことあると良くここに来てたんだ。だから、最期くらい自分の好きな場所で死のうかと思って。それがボクに許された、ただ一つの自由だと思ったから」


「はぁ……止められて良かった」


「あの時クラウドが抱きしめてくれて凄く温かかった。初めて怒ってくれて凄く嬉しかった。ボクはここでクラウドが好きになったんだ」


「カズキ……」


 クラウドはポケットに手を入れ、一つの指輪を指にかける。


「初めて抱きしめ合ったこの場所から再び始めようか。俺とカズキの二人の人生を」


「クラウド?」


「以前に剣を渡した意味、ライから聞いたか?」


「……ぁ」


 頬を紅潮させたカズキが恥ずかしそうに下を向く。クラウドはカズキの手を取って、ポケットにあった指輪をはめた。小さな指に銀色が優しく光った。様々に遊色する乳白色の石はカズキの白い肌に似合う。


「――カズキ、これからの人生を君と共に生きたい」


「クラウド……うん。うん、ボクもクラウドと一緒に生きたいよ。召喚士としてじゃなくボクの守人(もりびと)になって下さい」


「ああ、喜んで」


 クラウドは唇を触れ合わせた。この先何があってもカズキを護り続けると誓って――。


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