選ばれし者
『ぼっちはステータス!』
おまじないように、その言葉。
ひとりでも寂しくないさ。一人だから出来ることがあるんだから。
さぁ、今日も楽しく残飯あさりだ!
「イエスホームレス!イエスぼっち!」
ガザガサと、公園の茂みを漁る。
たまに若者が某ファーストフード店のゴミを、この茂みの中に捨てる。
そしてそのポテトのあまりをもらったり、肉の骨をしゃぶりタバコのように咥えるのだがそれが何か?
「プライドなんてフライドポテトと一緒にあげちまいな~っと」
謎の鼻歌交じりで、楽しく残飯収集活動。
いつもと同じ・・・はずだった。
「痛っ!」
指先に走る痛み、ぽたぽた滴る血。
何かに噛まれたようだ。
「野良猫か?はぁ、ついてねえな」
チュプリと指の血を舐めて治す。
そして数分したら、傷くらい忘れた。
だって、それよりもくいものだ。寝るとこ?そのへんでいいさ。
そんな感じののんびりホームレス生活。
それが変わったのは、あの薄暗い夜の日のこと。
珍しく、居住地としている公園に、警察が来た。
「何か事件ですか~?」と言いつつ、ヘラヘラ笑って近づいた。
だって、昔事件があったとき、情報と引き換えにチョコレートもらったからさ、今回もどうせそんなことだろうと思った。
そしたらさ、「君が選ばれた」ってそれだけ。
「へ?」
そんな声が出た。
そしてわけもわからぬまま、黒い手枷をつけられて、引きずられる。
「は?ちょっと待ってよ!俺何も悪いことしてないよ?!安全安心なホームレスだよ!」
何も言われないまま、車に押し込められ、目隠しと猿轡をされた。
これはなんかまずい。と、大人しくしている今年にて、そのうち眠ってしまった。
だって車のシートがすんごいフカフカだったからさ。
そんなこんなであくびを一つして起きたとき、そこは白い部屋。
窓はなく、ドアは明らかに重そうで、監視カメラがある。
「ねぇ、誰か聞こえてる?説明してくれねえかな?この状況」
返事はなく、頭をボリボリと掻く。
そして気づく。俺、なんか綺麗になってると。
匂いもなんか綺麗になってるし、体の汚れが取れてるし、なにこれ?寝ているあいだに洗われた?
そうだとしたら俺気づかなすぎるだろ!
洗われてるって事は裸って事だろ多分。なんか服も白くて綺麗な服になってるし、これは絶対1回全裸にされたな俺。
何それ恥ずかしい。それが数人いたとしたら?もう恥ずかしさで死ねるよ。
公園で生活してた時、雨が降れば全裸で雨で体の汚れ落としていたけど、それでも一応羞恥心てものはあるんだよ。
まあ・・・いい匂いになったしいっか。うん、恥ずかしいよりもありがとうと思うんだ俺。
そんな感じで考え事をしていた時、扉が空いた。
「よっしゃ出れる!」
そんな訳もなく、スライディングした俺は閉じた扉に頭を打ち付け、入ってきてた防護服を着た人に、目は見えないけれど絶対憐れむような目で見られている。
というか、ものすごくいい匂いがする。
痛む頭を抑えるのをやめ、バッと起き上がると、防護服の人が美味そうな卵カツ丼的なものを持っていることに気づいた。
「これ・・・何?」
『食べてください』
あ、喋れるのかこいつ。ちょっと、ロボットなのかな?とも思っていたんだが。
「いいの?!」
『平均的なあなたの年代のデータによると、あなたは痩せすぎです。食べて太って生きてください』
「任せとけ!」
『一応言っておきますが、食べてもいいですが、机の上に食事をおいてからでお願いします』
「襲わねえよ!」
そして待望の食事タイム。久々の、数年ぶりのまともな食事、まともな肉。
がっついて食べる。思わず涙が出た。
「超うめえ!」
『それはよかった。では』
出ようとする防護服のやつ。
「ああ、待ってよ」
ピタリと動きが止まる。言うことは聞いてくれるみたいだ。
「質問を2つ、いい?」
『答えられるのならば』
「じゃあ質問その1、俺はなんでここに連れてこられたの?」
『それはあなたが選ばれたから』
「何に?」
『それは機密事項です』
ってことは、政府がどうのこうのなのか?と、食べながら考える。
「それじゃ、その2.君と俺が友達になることは可能?」
『不可能です。私はあなたの監視を命じられている。私は人間。だけど、あなたとは最低限の会話、最低限の接触、最低限の応答しかできないのです』
「私ってことは女?!」
『私は一人称。男でも自分の事を私という人はいる。けれど、私の性別は秘密です』
「ふーん」
でも、もしも防護服が女なら・・・うん、悪くない。
『それでは後ほど、入浴時間の時に』
「あ、ごめん質問その3!トイレは?!」
『ベッドの枕元近くの黄色いボタンを押して、誰かを呼んでください』
「おお、OKOK」
『では後ほど』
「またー」
こうして俺の監視されるいわゆる軟禁生活?が始まった。
ああ、最悪だ・・・なんて思ったのは数日だけ。すぐに考えは変わった。
朝起きて、することないから黄色ボタン連打で怒らせて遊んだり、ちゃんと呼んで本なら読んでもいいと言われたので、本を読む。そして豪華な味噌汁漬物白ご飯に魚までついた朝ごはんを堪能出来る。
昼や夜の感覚なんてない。食事は1日に2回。だから、時間なんてわからない。
ただ本を読んで、豪華な食事食って、監視されているけれども、一方的に話しかけつつのトイレや入浴。
防護服の人間は複数いるようで、3人ほどに囲まれての初めての入浴にはビビった。
ホームレス時代の傷などがあるので、それを心配しての人数だったりするらしい。
監視されて、暇なことは暇だけども、ホームレスじゃない、ぼっちじゃないって素晴らしい!
むしろ監視生活万歳!とまあ、そんな考えで、もう出ようとかは考えず、ただもうずっとこの生活でいいやと思っていた。
一方的ではあるけれど、話し相手は公園生活時代よりは多いしね。
そんな生活が数ヶ月続いたある日、珍しく健康診断が行われた。
『体重62キロ。だいぶ太りましたね』
「背脂たっぷりとんこつラーメンとか食ってからな」
『ここに来たときは30キロ台でしたから、ここまで太っていただきありがたいです』
「太って褒められるのも珍しいな」
今喋っているのは、最初に話した防護服の人。防護服越しのくぐもった声とはいえなんとなくだが区別はついてきた。
友達にならないとは言え、中には無視する防護服もいる中、一番返事をしてくれる。
ツンデレなのか?
『健康第一ですよ。痩せすぎで死ぬよりましです』
「ははっ、だな」
こんな感じで、前よりももっと笑えるようになった・・・気がする。
『太って健康になっていただきたいがための食事でしたが、今度は太りすぎ予防の、まあ太りすぎず痩せすぎずの食生活に変更します』
「お、いいよ。肉とかケーキとk太りそうなものばっか食ってたし、サラダとか出るならそれはそれで楽しみだ」
『・・・生野菜、美味しいですもんね』
「おう!」
友達にならない、とは言っていたけど、密かになれている気はする。
もう、この際男でも女でもいいや!恋愛的な意味ではなく友情的な意味で!
なんだろう、ぼっちも楽でいいけど、こういうのも面白い。
いいね、非ぼっち!
けれども、どんなものに終わりはあるもので・・・。
いつしか、食事は運ばれなくなった。そして、あの防護服の人間も、見なくなり、ボタンをおしても誰も来なくなった。
非常持用のバケツや尿瓶はあるからトイレは大丈夫だけども・・・そんな日々がずっと続けば腹は減るもので。
我慢できなくなって、その扉を開けることにした。
意外にも、あっさりと扉は開けることができた。
なんだか重苦しい雰囲気。でも別に、死体や血痕はなさそうだ。
驚く程拍子抜けに、俺が監視生活を送っていた場所には特になにもなく、誰もおらず、あっさりとその場所から外に出ることができた。
「へは?」
そんな変な声が出た。
だって、外には誰もいない。
そこに街はあったのだろうか?あったとしても、もう面影はない。
「なん・・・だよこれ」
風が冷たい中、ガレキだらけの場所を進む。
「誰か、誰かいないのか?」
焼け野原、という言葉がぴったりだろう、
家なんてない、道なんてない、死体もない、何もない。
何も・・・誰もいない。
状況が理解できない。いや、できるように整理しよう。
そもそも、『選ばれた』って何に?
俺だけが、生存者として選ばれた?
どうして?両親はとっくに死んだ。兄弟もいないし恋人も友人もいない。こんな一人ぼっちを生存する義務なんてあるのか?
・・・種の反映的なエロゲような展開ならありえるかもしれないが、相手はいないしな。
ならば俺が感染者として隔離されていたとしたら?
でも俺は普通の人間。感染して特殊能力がー、なんてこともない。
もし感染者だとして、その感染が広まったとして、死体はどこに?
死体がないという状況は、感染死ではなく人類消失のようで。
それよりも、何よりも怖いのは・・・。
「もしかして俺・・・ずっとひとり?」
公園生活の時は、チャンスがあった。友達を作って、ぼっち脱出のチャンスが。
でも今は人なんていない。ずっとぼっちだ。
誰かと関わるなんてできない。
ぼっちだなんて言いながらも、人とのつながりを求めていた俺にとって、誰もいないってのは恐怖なんだ。
「誰か・・・誰かいないのか?!」
大声を出しても、誰も答えない。
『俺はなぜ選ばれたのか』
ただそれだけを、誰もいない、ひとりぼっちのこの世界で、うなだれながら考えていた・・・。




