第八六話 異変黒幕の未現過さん
「名前……なのですか? つけられないのですか?」
「生憎ね……ちょっと忙しくなりそうなんだ」
私は紫様や霊夢様の居ない、未来の幻想郷からやって来たのです。
今話している人は博麗の神様なのです。名前も顔も覚えていません。あったばかりなのです。
そんな神様は私に博麗の巫女を勤めるように言ったのです。
急に連れ去られて吃驚してますけど、なんとか理解をしているのです。
「それで、貴女の能力を生かして先代の博麗の巫女につけてもらって欲しいんだ」
「先代の博麗の巫女様ですか? ……誰?」
時空に住んでいたので知りません。本当に誰なのですか?
「博麗霊夢。行けば分かるね」
「何故今はいないのですか?」
周りを見ても神様と私以外、誰もいないのです。
「色々……わけありだね。のちに分かるよ」
「そうなのですか」
「それじゃ、行ってきなさーい!」
神様は私の背中を押したのです。私は渋々過去へと向かったのです。
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「紫って誰?」
最初に聞いた質問だった。
「時空でも有名人な幻想郷の大妖怪なのです」
霊夢に聞いたつもりだったけど、霊夢が口を開く前に時空の住民さんが言い出した。子供にはよくあるよね。
「私達の世界では紫のゆの字すら出てこないのにね。何でこんなに差があるんだろう?」
「貴女達の世界は夢と現を同意語にしてるからじゃないかしら?きっとそうでしょ?」
「私達は違うけどね。でも、そうよね。でも、何で分かるの?」
夢世界にしても現世界しても、実際にあるもの。そんなのだから同意語にされるんだよ。
「近夏から聞いたわ」
「なるほどね」
霊夢は私達の方に向かって座っていたけど、時空の住民さんに体を向けた。
「んで、めんどくさいから適当につけるわよ」
流石自由人。霊夢の辞書には''遠慮''の''え''の字もないだろうね。
「あ、はい」
「ん……未来の未、現在の現、過去の過。それを組み合わせて''未現過''ね」
「凄い簡単だぁ……」
ただ能力を短くしただけじゃん。霊夢って我儘なんだけど、結構単純だね。
「という事で、あんたの名前は未現過ね。覚えなさいよ」
「未現過……? いいのですっ! 嬉しいのですっ!ありがとうございますなのです!」
霊夢に名付け親になってもらい激しく喜ぶ未現過。
「あれ、霊夢の事、知らなかったんじゃなかったっけ?」
「先代の博麗の巫女様に名前を授かるのですよ! 嬉しいに決まってるのです!」
そっか、霊夢がどんな人かは知らなくても''凄い人''と認識出来てるんだ。凄い人……なのかな?
「そうなのね……」
メリーも私も、あらぶる未現過を見て苦笑いをした。ちょっと喜びすぎだね。
「あっ! それでは行かなくてはいけないのです! さよならなのですっ!」
「あー……うん」
未現過はどうでもいい気持ちである私達に手を振りながら、白い光を出して体が光ったと思ったら、光は未現過と一緒に消えてしまった。
「行っちゃった。未来ってどんな感じなのかな?」
「さあ、どうかしらね? そこは私も紫もいないって言ってたみたいだけど」
霊夢がジト目でお茶をすすった。
「でも、ちょっと疑問点があるのよねー。あの子、連れ去られたって言ったわよね ?紫がいないとしたら誰が連れてきたのかしらね?」
「そもそも、紫ってどんな人よ」
それ、私も思った。今、分かっている事では、時空でもよく知られる大妖怪って事だけだね。
「紫ぃ? あいつは結界を操る事が出来るのよ」
なんだかメリーに似た能力だ。メリーも次第に結界を操る能力になってきているし……まさかね。
「結界を操る、ね……なんだか私に似てるわ」
「私も聞いて思ったわ。後で聞いてみよ。取り敢えず、異変解決したんだから宴会挙げるわよっ!」
「え、宴会!?」
「何よ。そっちはしないの?」
「そんな事はないけどさ……」
幻想郷では異変が解決される度に宴会を開くの? わー……お金かかりそうだなぁ……。
「取り敢えず宴よ! もう、やりたい気分よっ!」
「何もしてないくせにー」
「私はあいつの名付け親になったわよ。そのおかげで時空の歪みだとか何とかが直ったのよ。多分」
「多分は余計」
でも、分からないね。時空の歪みを引き起こしていたと思われる未現過が戻っただけで直ったりするのかな? ま、その責任は霊夢に押し付けよ。
「さ、人集めるわよ。貴女達も手伝って」
「え、何処で集めるの?」
「貴女達が知ってる人全員よ」
「わ、分かった……」
押し付ける前に押し付けられた私達は、寺子屋の慧音から紅いお屋敷、紅魔館の主、レミリアの所まで行って、異変が解決した事を伝えたよ。皆微妙な反応だったなー、伝えた時。
博麗神社の宴は私達が帰ってすぐに行われた。今は四時四十九分五十九秒。空に輝く白い点で分かったよ。