第八五話 未来からの時空の住民さん
私達は普通に歩いていただけだったわ。博麗神社に向かってね。異変に気付いたのはその時だっわ。
「蓮子? そういえば帽子は?」
「あ、本当だ! ないね」
蓮子の頭被っている筈の帽子がないわ。寺子屋を出た時はあったのに、何でかしら?
「探す?」
「探さなきゃいけないよ。私にとって大事なものなんだから」
いつもの調子より強めに言った。
慌ててる蓮子は近くの草むらを漁って帽子を探し始めたわ。
「そんなに?」
「勿論! 大事だよ」
「そ、そうなの? なら探すわよ」
私も辺りの草むらを漁って探したわ。
三分くらい経っても見つからなかったわ。そしたら屈んで探してた蓮子が背を伸ばした。
「何か聞こえた? メリー?」
私は蓮子のその言葉を聞いて、手を動かすのを止めて蓮子の聞いた微かな音を探す。でも、何も聞こえないわ。
「蓮子、今も聞こえるの?」
「今はもう聞こえないけど、はっきり聞こえたんだよ」
そんなはっきりした音なんて、私には聞こえなかったんだけど。しかも、蓮子の方がより集中してたと思うんだけど、何ではっきりと聞こえたのかしら?
「あっ! 聞こえたっ!」
「そもそも、何が聞こえるのよ」
それが分かれば、その音を探そうと集中できるわ。
「声だよ。ちょっと高めで……幼い子供みたいな声」
声? 全く聞こえないわ。探そうとはしてるわよ! でも、そんな音は聞こえず。風が通りすぎていく音とか、獣の唸声とかなら聞こえるんだけど……。
「んー……分からないわ。何て言ってるの?」
「えっと、最初は『ちっとも気付いてくれない』って言ってて、さっきは『気付いてくれたの?』って言ってたよ。感じ的には返事をした方がいいと思うけどね」
蓮子に聞こえて、私は聞こえないって何だか変ね。やっぱり蓮子の秘力のせい? でも、そんな筈があるわけ……。
「私もそう思うわ」
私は蓮子の秘封色に塗られた瞳を何気なく見ながら答えたわ。
「そうだよね……貴女は誰っ!? 姿を現してっ!」
蓮子は手をメガホン代わりに下に向けて叫んだわ。下に向けたら普通に呼ぶのと同じじゃない。無駄な動力を使っちゃって。大丈夫なのかしら?
でもね、その後、私にも分かるくらいの声が聞こえたのよ。
「霊夢様はいない、誰も私に気付かないっ!! でも、やっと気付いてくれた!! 分かりました!私はぁ……ここなのですっ!」
すると、探した筈の近くの草むらから女の子が顔を覗かせた。そしてぴょんとジャンプして草むらを飛び越したわ。
「あら、貴女は寺子屋にも居たような……?」
私の授業がいつなのか聞いてきた生徒よ。いつの間にか居たのよ。
「確かにー。居たね。貴女は誰?」
「私は未来から着ました!元は時空の住民なのです!寺子屋に居たのは過去を弄ったせいなのです!」
これってもしかして、ようやく?
「見つけたーーーーー!!」
蓮子は時空の住民のやや上に指差して叫んだわ。指差した先には黒帽子に白リボン。差すところそっち?
「見つかっちゃった。てへへ」
蓮子の狙いが貴女の頭にある帽子とは気付かずに照れ臭く笑う時空の住民。蓮子はそんな時空の住民に一歩、歩み寄せて手を伸ばしたわ。
まだ笑っている時空の住民さんは、蓮子が帽子を取ったのでむすっとしたわ。
「何だ、そっちなのですか」
自分を構ったかと思ったのか、期待外れの事に顔を膨らませたわ。
蓮子はお構いなしに帽子を被るわ。
「えっと? 時空の住民って言ったことよね? 名前は?」
「ないです。だからここに来たのです」
「どういう事?」
「私は未来の方達から、霊夢様に名前を授けてもらうように言われてきたのです。なので、まだ名前はありません」
「博麗神社に行ったの?」
「行きました。でも、霊夢様は留守でした」
なるほどね。要には霊夢に会おうとしたけど、居なかったから人里に行ったとね。
「でも、何でずっと居なかったの?その内帰ってくる筈よ」
「私……待つの嫌いなのですよ」
よくあるわよねー、特に子供は。待つの嫌いだから何処にでも行っちゃうっていうの。経験したことはないけど何となく分かるわ。
「へー……あ、私達丁度博麗神社に向かう途中だったんだよ。ついてきて」
「ありがとうございます」
名前のない時空の住民さんはお礼を言って、黙って博麗神社に向かう私達についていったわ。子供にとってはちょっと長い距離よね。




