第八四話 妖獣の頼み事
「あー! 疲れた」
人里の道を蓮子と一緒に通っていたわ。蓮子は伸びをした。
「お疲れ様。振り回されまくったものね」
「もう絶対にやりたくないっ!」
「だったら、早く時空の住民に会わなきゃね」
「あー……見つかるかな?」
時空の住民を探そうと、必死に人里を廻った。
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私達がルーミアと一緒に寺子屋に着いた時には大体の人が来ていたわ。
慧音さんの部屋で聞いてみると、人間は勿論、妖怪、妖精も含んで二十八人。水泳の授業もある唯一の寺子屋。水泳は教える人が違うみたいだけど。
「すまないな……いきなり頼んで」
「いやいや、大丈夫だよ! それで……何をすればいいの?」
「今日は皆、お前達に頼んである事は知ってる。だから三時間で終わるようにしている」
あぁ、それで騒がしいのね。職員室の扉から漏れてくる楽しげな声を聞いて思った。
「まず一時間目は算数だ。引き算を教えればいい」
「一時間で引き算?逆に難しいなぁ……」
私も驚いたわ。なんたって、すぐに計算出来る引き算を一時間で教えろって言うんですもの。流石にきついわね……。
「馬鹿が数人居るから大丈夫だ」
「そういう問題でもないと思いますが……」
「さて、二時間目は理科だ。それであれを━━」
三時間目までの予定を聞いて、教材を持って生徒のいる教室に出た。
皆ががやがや五月蝿いわ。『おー!』という、いかにも珍しそうな声から、『あれが外の世界の人間かっ!』や『あたいの方が最強!』とか。目立ったのはこのくらいかしら?
「えっと、じゃあまず、朝礼をしよっか」
蓮子がそう言った直後、
「先生っ! チョウレイって何ですか?」
そうなるわよね……テスト九点取る人がいるくらいだものね……。
蓮子は手で目を覆った。その目はきっと、面倒な気持ちを表しているでしょうね。
「はい……朝礼って言うのは朝の会の事です。じゃあ、始めようか!」
すると、ルーミアが起立の号令をしたわ。ルーミアが日直なのね。
「おはようなのだー!」
ルーミアの号令に少し苦笑いしちゃったわ。
ルーミア以外の人達はちゃんと『おはようございます』と、元気よく挨拶する。
その後、ルーミアは着席の号令をかけて、朝の会が始まったわ。
朝の会はカット。健康観察と自己紹介をしたくらいだからね。
「じゃあ一時間目、算数を始めよっか!」
蓮子はまるで先生のような言い方で授業を進めていった。
出だしはよかったんだけど、あのチルノって子? あの妖精の子の暴走が酷くてね……。
「さるののさんすうきょうしつ、はっぢまっるよー!」
何て言って、部屋を凍らせたりしてから大変だったわ。
まぁでも、その子のお友達が何とかしてくれたけど、このまま二時間やるのはきついかもしれないわね。
あ、因みに私は三時間目にやるわ。何の教科かは秘密。
「さて……次は理科だね。何するんだっけ?」
「葉っぱ?」
「葉っぱの……何を?」
「……さぁ? 頑張って」
「えっ、メリー酷いなぁ。んー……」
蓮子は教科書をぺらぺら捲り、確認してる。その内に五分が経ってしまったわ。
「んーじゃ、理科を始めるよ」
「蓮子先生っ!」
下の名前に先生付けって何か変な感じだわ。私達も普通に''慧音さん''って呼んでいるから、あまり言えないけど。
「何かな?」
「マエリベリー先生の授業はあるのですか?」
二時間ずっと蓮子がやるものね。普通は皆、交互にやると思うでしょうね。
「三時間目にあるよ」
「そうなんですか」
そういえばあの子の名前、何て言うんだったかしら? よく覚えていないわね。言える事といえば、緑髪で羽のない子ね。
理科ではスケッチの描き方を教えた後、外に出て植物のスケッチをしたわ。ちょっと難しかったかしら?
それに、算数で暴れてたチルノは、
「あたいは天才でもあるから、すけっちなんて簡単よっ!」
って言いながらも、十分後には蛙を凍らして遊んでたわ。スケッチを見ると、まあまあ、描けている方だとは思ったわ。
そのまま授業が終わって、次はいよいよ私の番ね。
「メリー、何話すの? 四十五分間」
「色々よ」
次の授業は生活。現世の世界を語るように言われているわ。
「メモがないけど、大丈夫?」
「大丈夫よ。適当に言っておけば、四十五分なんてあっという間よ」
やる気満々の素振りを見せる私だったけど、実際はそう上手くいかなかったわ。
話す事はよかったのよ。問題はその後よ。生徒達が次から次へと質問攻めをするから、一つ一つ答えるのが大変だったわ。総合、何回質問があったかしら?
授業が終わり、終わりの会も済んだら生徒達は帰っていったわ。
私達は誰もいない教室の教卓の傍で、二人だけの会話をしたわ。
「あれだけ質問攻めって凄いよね」
「現世の話だったからか、それとも元からあんな感じだったか。どちらかよね」
「普通は、例え興味深い話でもあそこまではしないよね」
そうよ。
貴方達だって、質問したくてもし辛いっていうのあるでしょ?
生徒達がお構い無しだからって言っても、そこまですると思う?
「納得だわ。んー……」
私が理由を考えていると、後ろの扉が開いたわ。
「今日はありがとな。お疲れだろう」
「いつもあんな感じなんですか?」
「いつもよりは騒がしいが、大体あんな感じだな」
「はぁー……」
わー。慧音さんも大変なのね。いつも生徒のお構い無しに付き合うなんて。
「ま、騒ぎを起こしたら私の頭突きでどうにかするんだけどな! ははは」
頭突きって……相当の石頭なのね。痛そうだわ。どのくらいの痛さなのかも確かめたいけど、怖くて出来ないわ。
「はは。さて、ありがとな……ふぅ。やはりまだ回復は出来てないな。授業中本当に辛くてな、なかなか寝付けなかったよ」
「今は大丈夫なの?」
「ちょっとな……もしかしたら時空の住民っていう奴は人里の中に紛れ込んでるのかなぁ?」
「人里に……?」
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「うーん……居そうにないなー」
人里中のあちこちを探しても見つからない、時空の住民は一体何処に居るのかしら?
「もしかして違う所に行ったのかしら?」
「だったら慧音は苦しそうな素振りを見せないと思うよ。今、二時三十四分十六秒。どうする?後でもう一度探す?」
上を見たら、東にあった筈の太陽が真上よりやや西にあったわ。
「んー……そうね。一旦、博麗神社に戻って霊夢にも手伝ってもらいましょうか」
「霊夢、手伝うかな?」
「無理矢理でも連れてくのよ」
「何かむきだね……メリー」
「あの人、何もしてないんだもの。仕方がないわ」
私達は人里に隠れていた人にも気付けずに、博麗神社に向かった。
「……むぅ。面白くない」




