第八三話 朝の人喰い妖怪さん
「ふー……ずずずず」
「疲れたわ。ずずっ」
「本当だね。ず」
「「「おかわりー」」」
「ちょっ! 何回目よ!」
私達は霊夢達に竺紗に会った事を語り終わって、霊夢の出したお茶を飲むだけだった。
「まだ三回目だったかな?」
「二倍よ! 六回目よ!」
分かってるよ。私はにっこり笑顔で笑う。
霊夢は立ち上がって、三つの湯呑みに六回目のお茶を注いで、また座り直した。
「でも、まさか能楽の修業のためだけにここに来たなんてねー。てっきり他の神に追い出されたかと思ったよ」
傍に居たんだから、責任を押し付けられるのは当たり前かなって思ったけど、別の理由だった事から少し苦笑いした。
こころの表情は相変わらずに変わらなかった。
「だけど、怖かった。出雲の神って名乗る人が竺紗を消したんだもん……『何故消した』って聞いたら、『これ以上暴れたら正気に戻す事は難しい。だから』って答えた」
無表情のまま、話していった。
出雲の神って言ったら、結縁の事になるね。そっか、そんな繋がりがあったんだ。
「でも、その竺紗が復活している。何で?」
言葉に感情はあるのに、顔の感情がないといまいち気持ちが伝わってこない。その辺りが狂うなぁ。
「信仰が戻ったんだってさ」
「そうなんだ……霊夢?」
「何かしら?」
「外の世界に行きたい」
「んー、考えとくわ」
霊夢は上目で答えた。腹立つほどではないけど、やっぱり自由人だねぇ。
「……!」
「ん?何か聞こえた?」
外で何かが聞こえてくる。声っぽいけどよく聞き取れない。
「……ぇ……ぅ!」
「確かに、微かだけど聞こえるわね」
私達は周りをきょろきょろ見渡した。外から聞こえるから神社の中で見渡しても分からないと思うけどね。それでも見渡す。
声は次第に近づいてくる。
「れぇ……むぅ!!」
霊夢はその後、視線を落として溜め息をついた。
「れぇむっ!」
襖がばちんと音を立てて入ってきたのはルーミアだった。ルーミアはそのままの勢いで続ける。
「れーむ! れんことマエリベリーちょーだいっ!」
「何で妖怪がうちの神社に入ってくるのかしら? ま、構わないわよ?」
「私も一応妖怪だけど……」
ルーミアは霊夢もこころも無視して私達の後ろに廻った。座った私達よりも低いルーミアは、そのまま私の頭に顔を乗せた。ルーミアは爪先立ちになる。
「早く行くよー!」
「ど、何処に?」
「寺子屋に行くのぉ」
「寺子屋? 何で?」
メリーが私の頭の上にある顔を見つめて首を傾げた。
「けーね先生が来てって」
「そうなの?」
「そーなのだー。ほらっ、れーむちょーだいねっ!」
「はいはいはい」
ルーミアは霊夢の返事を聞いて、私の頭から顔を除ける代わりに、私達を立たせてそのまま背中を押していった。
「速くー」
「分かったから! 分かったから押すの止めて!」
ルーミアが入ってきた所から出て、私達は外に出た。
「何で呼んだの? 予想はつくけどさー」
「けーね先生のちょーしが悪いから授業してって」
やっぱりか。慧音、頼み事するかもしれないって言ってたからね。
「じゅ、授業……かぁ」
私達は単なる賢い大学生。人を教える事は出来るとは思うけど、テストで九点を取るくらいの人を教えるとなると、どうすればいいのか……。
「何とかなるといいけどね……」
取り敢えずそれだけ答えておいた。
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「紫さー。あの人達の事、どう思う?」
「強いわよね」
こころも帰った博麗神社には霊夢と八雲紫が居た。
「また何か引き起こしそうね。楽しみだわ」
「それもそれで困るんだけど」
「対処はよろしくね」
「えー……それでさ、強いって言うんだから、二人に何かしたの?」
「一応しておいたわ」
「あっそ」
「何ー? まさか、凄く気になるのー?」
「そ、そんなわけないじゃない! 聞いてみただけよっ!」
「気になるのねー。全く素直じゃないんだからー」
「だから違うって!」




