第八一話 東の国の眠れない夜で
「眠れないのね?」
「霊夢? ……まぁね」
私はメリーの事が凄く心配なんだ。何とかしたいけど、どうやってすればいいか分からないのが悔しいよ。
今は一時五十分二十二秒。普段は眠っている筈の私は、何故か眠れなかった。
「隣、座るわよ」
私は博麗神社の鳥居の見える、お賽銭箱に座っていた。霊夢は私の右側に座った。
「あ、そういえばごめんね。お賽銭箱に座って」
「参拝客なんていないからいいわよ。こんなただの飾り」
巫女がそんな事を言うなんて普通は想像つかないけど、何故かしっくりと来た。
「博麗神社にも実体のある神って居るんでしょ? 何の神なの?」
最初から気になっていた事を尋ねた。秘封倶楽部の活動で行った事ある神社には全部実体のある神が居た。空飛ぶ巫女や魔法使い、吸血鬼やいろんな事を操る能力があるこの世界なら、実体のある神が居る神社もあり得なくはない。
「そりゃ、私にも分かんない事よねー、実際」
「居ないの?」
「居るのかしらねー?」
霊夢の言う事がさっきからわざとらしい。
「居るんだね、はいはい」
その時、霊夢が私の事をじっと見つめてきた。夏想庵では一瞬だった視線が、今ではずっとこちらに向けてくる。
「何?」
「いえ、何でもないわ。そんな事より……貴女達は普通の外の世界の人間よりも行き過ぎているわ」
「私達の能力の事?」
「ええ。ここに何回か外の世界の人間が来たけど、何て言うか……無能なのよ。ここで言う人里の人間と同じくらい。たまに強い奴もいたんだけどね。そして、貴女達もまた、強い力を持っている。それで忠告よ」
ここにも来た事ある人が居るんだ。多分、現世の方の博麗神社の鳥居のあの場所に偶然立ったんだろうね。
強い人が来たのは多分、私達みたいに事情のある人なんだろうね。
「うん」
何気ない返事をして、霊夢の答えを待っていた。
「絶対に……人間を止めないでほしいわ」
「……どうして?」
「普通は強い力を持ってても人間を止める事なんて出来ないわ。人間なんだもの。だけど、貴女達はそれを突き破る事が出来るの」
「運命を切り裂く感じ?」
「そんな感じよ。だから、絶対に……ね」
霊夢は今出ている筈の下弦の月と全体に広がる真夜中の星の空の下で、上を見ていた。
「貴女には今、何時だか分かるのよね」
「うん。今は二時一分一秒」
「今の場所は?」
私は月面裏で拾ってきた、手のひらよりも大きい月の石を左ポケットから取り出そうとした。霊夢は右に座っているから、私が石を持って高く上げるまで、何を持っているかが分からなかった。石を高く上げても分からなさそうな表情だったけどね。
「確かに幻想郷の博麗神社だよ」
「その石って月の石なの?」
「うん。夏に拾ってきたんだ」
「どうやって」
「んー、また今度話すよ」
「ま、いいけどね。関係ないし」
私はそのままポケットに納して、霊夢を見ずに空を見上げた。昼間もだけど、ベテルギウスの超新星爆発の光は見えなかった。今はオリオン座の見える時間帯。だけど、そのオリオン座には冬の大三角の一部が欠けていた。
でも、明るくて冥いあの世界じゃ見られない光景だよね。
「さて……二時十三分四十九秒。私、そろそろ寝るね」
別にまだ眠たくなかったんだけど、ずっと星をみてたら頭が痛くなりそうだから、休める事にした。
「ええ。私は暫くここに居るわ」
「そうなんだ。じゃ」
私は神社の中へと入った。霊夢は座っている位置も変えずに、座ったままだった。
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「貴女は誰なのよ」
「だから、さっきも言ったでしょ? のちに分かるから」
「ま、大体予想がつくけどね。多分」
「流石博麗の巫女だね。異変、早くお願いね」
「偉そうに……あーまた……」
また後ろに居た人が消えた。
霊夢は呆れて溜め息をついた。
「いい加減、姿現したらいいのにねぇ」
霊夢は立ち上がり、蓮子と同じ道を通って自分の寝床に潜った。




