第八〇話 殺し合いさんとお医者さん
「なーるほどね。そういえば、悪夢を消す薬、作っといたけど?」
和風の家の中は私の見たものと全く一緒。この部屋も知っているわ。これで確実ね。
夢は現に変わったって……。
私は医者よりも派手な服を着た八意永琳に前の続きとここに来た理由を話した。今度は逃げる事なんて出来ないわ。
「……いいわ。私は今の方が好きよ。蓮子と居る事がね」
「……そう。後悔しても知らないわよ」
永琳はわざとらしく笑いながら話した。医者の笑顔って感じよ。
「後悔するわけがないわ」
私はその笑顔を笑顔で返した。折角頼んだのに台無しにしちゃったわ。
でも、これでここの世界の夢は見ないって思うわ。だって、夢と現は反意語じゃない。蓮子が一番分かると思うわ。
「それに、毎日私の夢の事を語らないと私達の活動が成り立たないじゃない」
「いい事言った! メリー! 沢山聞いてあげるからね!」
「呆れるほど話してやるわ」
「どんと来い!」
私、こんな気分になったのは久し振りな気がするわ。なんだか、素直になったっていうか、何ていうか……。
「はぁ……魔理沙、あれ本当に手加減?」
私を虐めた玉兎、鈴仙が扉から顔を覗かせてから、部屋に入った。
「私のスペカの中では弾幕濃度はそれほどでもない方だぜ?」
弾幕が何かは知らないけど、濃度って言うから、多分撃たれた球の事だと思うわ。今までの話からの推測だけどね。
「弾幕濃度の話じゃない。威力の話」
「威力? マスパの四/五だぜ?」
「高い高い高い! マスパの四/五はまだ高い!」
「でも、大体こんなもんだろ、お前のスペカも」
「ぐぅ……そういえば師匠━━」
その時、図書館で床が揺れたように、こちらでも床が大きく揺れた。
「な、何?」
「はぁ……気にしないでください。ただの殺し合いなんで」
今、変な単語を聞いた気がするわ。ただの殺し合いって……どういう事?
「いやいや、ただの殺し合いって何!? 殺し合いって駄目だよね? 駄目だよね?」
蓮子はそれに対してしつこく訊ねる。
そして、また床が揺れた。
「輝夜と妹紅なら可能よ。何なら見てみる?」
殺し合いを見るって、なんだかおっかないわ。蓮子と同じ事を言うけど、可能って……本当はしちゃ駄目なのよ?
「見てみるぜ、な! 二人とも」
「あー、あ、うん。メリーは?」
「……なら見るわ」
蓮子が行くなら私も行かなきゃ。何となく最近、置いていかれている気がするの。いつしか蓮子は? 私の居ない場所へ立ち去って行くかもしれない。
「決まりね。さ、鈴仙も行くわよ」
「わ、私もですか? また止めようとしてフルボッコにされるのは嫌ですよ?」
「知らないわ。合図をしたら止めに行きなさい」
「酷いです……師匠」
「行きましょうか」
私達は躓きながらの返事を返した。そして、殺し合いをしている場所に向かった。
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「本当に……殺し合いだなんてね。しかも死んでも生き返るし」
「そういう能力ですから」
外ではスペルカード勝負をした二人の人が居た。
常識ではあり得ない、殺し合い。死んでは生き返り、死んでは生き返りの繰り返しだわ。
「しっかしー……終わらないけど、どうやって止めるのか?」
「こうやって殺るのよ」
永琳が構えていたのは、弓と矢だったわ。動いている的を射る事が出来るのかしら?私には当然無理よね。
永琳は周りの音を一切聞かずに集中した。そして、矢を持った右手を離した。
「おー……」
見事命中したわ。射られたのは白髪の子だったわ。少しボーイッシュね。
「いてーよっ! 何すんのよ!」
少しどころか、凄くボーイッシュだった。
殺し合いをしていたもう一人の黒髪の子はほっとした顔をした。
「もう、輝夜と殺るのは止めなさい」
「ふん、いつかぜってーに勝ってやるっ!」
そして、白髪の子は竹林の中へと入っていった。
黒髪の子がこっちにやって来たわ。
「永琳助かったわー! ふふっ」
「えーとー……そちらは?」
「蓬莱山輝夜だぜ。蓬莱の薬とやらを飲んで大異変を起こしたんだな」
「へー……」
かぐや……竹取物語に出てくる、あのかぐや?月に行ったかぐや姫?
聞いてみたんだけど……ね?
「タケトリモノガタリ? 何だそれ? 外の世界にはあるのか?」
「ええ、そうなのよ」
「ふーん。知らんな」
知らないって。やっぱり私達の世界と幻想郷は違うのね。似ている世界なんだけど、何だか何処かが違うわ。
私達は永琳達にお礼を言ったわ。
そして、またまた箒に股がった。蓮子は九時八分十五秒と呟いて、箒は宙に浮いた。
そして、真夜中の夜空を通って博麗神社に戻ったわ。
そういえば、ここに来て一日は経つわね。最近、活動に忙しくてさぼってばっかりいるわ。もし、岡崎教授に呼び出されたら、全部蓮子のせいにしてやるわ。




