第七六話 普通の魔法使いさん
久々の三千字以上です。取り敢えず長いです。
後、''取り敢えず''という字が''取り合えず''になっていました。これからは気を付けます。
朝、私達は霊夢に許可を貰って、近夏の居る想夏庵に向かった。もっとここの事知りたいし、近夏って優しいしね。
霊夢に安全な道を教えてもらって、そこを歩いていた。
「本当に妖怪がうじゃうじゃいるわね」
たまに傍の草むらががさごそ音を立てているね。もしかして捕食中? 妖怪って事は人を食べるんだよね? ほら、ルーミアって人食い妖怪だし。
「ねえ、蓮子はこの世界、どう思う?」
「あらゆる不思議を受け止めるのが秘封倶楽部でしょ? なら、信じなきゃね」
「違うわ。私の夢の世界なのかって事」
「言わないと分からないよ、そんな事……」
今度は修飾語が抜けるねぇ。前には私が主語を外して揉めて……ま、いいや。
「どう思うの?」
メリー、真剣だしね。真剣に答えてあげないと、メリーが何処かに行っちゃう。
「まだ何とも言えないね。メリーの言ってた建物とか、まだ出てこないし……」
「紅いお屋敷、何処を走っても迷う竹林、万能の医者、地底の少女……まだないわね」
そんなにも……メリーも苦労してるなぁ。
「ま、探してみよ」
「ええ、それにここがあの子の言っていた世界かもしれないしね」
あの子っていうのは、多分童こうの事だと思うね。そういえば、最近会ってないね。
「っていうかここなんじゃない? 妖怪に関しては言ってなかったけど、日本の暮らしも残っているし自然も沢山だよ?」
「帰ったら連れていかなきゃね」
「そうだね! あ、丁度いい時に着いた着いた。えっと……九時二十八分五秒だね……場所も大丈夫!」
私は朝の空の星を見て時間を読み取り、持っていた月の石で場所確認した。メリーはそれを細い目で見てくる。
メリーだって最近頻繁に夢の世界に行っちゃうくせに……。最近は逆さまの城に入って大変な目に合ったって言ってたね。
「お邪魔しまーす……」
既に先客が居た。こんなに早い時間に先客だなんて、凄いね。
先客は私達に背を向けて近夏に話す。
「あの時は大変だったよなー。近夏のせいでなっ」
先客は向かい側にいる近夏に指差した。誰だろう?テーブルに置かれている黒い大きな魔法使いとかが被りそうな帽子が目立つけど。
「酷いよ……あ、来ると思ってた! 蓮子! マエリベリー!」
近夏は私達の事をいきなり呼び捨てしてきた。私はいいと思うけど、メリーの顔は不可解だった。
近夏は私達に向かって手を振った。ここから近夏の姿はよく見えると思っているのか、小振りで振っている。
「あいつらがさっき言ってた人達か?」
近夏の反応と扉の音で後ろを振り返った先客はよくよく見ながら尋ねた。
「うん、そうだよ。左が宇佐見蓮子で、右がマエリベリー・ハーン」
「蓮子とマエリベリーって事か。来いよ」
先客が笑顔で私達を手招いた。って本当に誰?
私達は先客の隣の椅子に座った。前に言うの忘れてたけど、ここって形がカフェみたいなんだよね。珈琲でも出すのかな?私は紅茶の方が好きだけどね。
「外の世界からやってきたって言ってたよな。話は聞いてるぜ」
先客は男口調なんだけど声がしっくりしてて、違和感がない。金髪がそうさせるのか、白黒の服がそうさせるのか……。
「私は霧雨魔理沙だ。よろしくなっ」
「は、はぁ……魔理沙も妖怪なの?」
最近会うのが妖怪ばかりなのか、そんな事を言っていた。でも、霊夢は違うかもね。
「違うぜ違うぜノンノンノン。私は歴とした人間の魔法使いだ」
魔理沙は人間なのに魔法使いなんだって! ま、空飛ぶ巫女が居るなら魔法使いも居るよね。
魔法、使えるんだ。
「へー。じゃあ、魔法が使えるのね?」
「魔法使いなのに魔法使わない魔法使いが居るか?」
「茸しか頭にない人が何言ってんだか」
「魔法は使えるぜ! 今から見せてやる」
茸、好きなんだ。日本にも沢山居るよ、茸マニア。
魔理沙はむきになって、帽子を取ってを椅子から立ち上がった。そして、机も椅子も置かれていない広い所に移動した。
「私は星屑が好きなのさ! マジックタイムだ! スペルっ! 黒魔『イベント━━」
「ちょっと待って!?」
魔理沙が全部言い切る前に近夏がストップを掛けた。魔理沙はそれを聞いて、出していたカードを消す。
「なんだよ、いい所で。折角綺麗な弾幕をかましてやろうかと思って━━」
「ここではやらないで! 崩れるどころか、跡形もなくなるっ!」
弾幕? 何だろ? 取り敢えずここではやらない方がいいみたい。崩れるどころか跡形もなくなるって……どんな事をしようとしたの?
最近聞きなれない単語が沢山出てくるね。
「えー、なら外でやるか」
「ここの近くでやらないでね」
「分かってるぜ。ほら、行くぜ、蓮子、マエリベリー」
「ああ、う、うん」
魔理沙は、まだ入口に突っ立っていた私達を外に押し出した。
魔理沙は夏愁庵の壁に立て掛けていた箒を取って前の方に股がった。てこの原理で箒の穂が地面に着いている。
空けられたスペースには二人がぎりぎり入るくらいの長さなんだけど、まさか?
「ほら、どうせ飛べないんだろ? 歩くよりもこっちの方が速い」
「え?」
「早く! ほらっ」
魔法使いだから信用してもいいんだろうけど、今では魔法使いは忘れられようとしている存在。少し心配だよ。
「わ、分かった」
でも、これ以上気を悪くさせるのも悪いから、私達は仕方なく魔理沙に続けて箒に股がった。
「重いな……まぁ大丈夫か。行くぜ」
そう言った途端、地面に着いていた筈の足が浮いた。そして、地面がどんどん離れていく。
私は離れていく地面を見て緊張した。バランスを崩せば落ちて死んじゃう。ただそれだけを思っていた。
後ろは怖くて振り向けないけど、そう思っている筈。
魔理沙はたまに振り返って「大丈夫か?」と聞いてくるけど、凄く普通な顔をしている。私達は首を縦に振るのが精一杯だったよ。
やっぱり慣れてる人だからね。こっちなんかは、何の力も借りずに飛ぶなんて非常識当然。あの時もそうだったよ。
肩を上げてかちこちにしてたけど、その肩も時間が経つにつれて下がっていく。
そしてやっと口を開いた。
「そういえば、さっきは何話してたの?」
想夏庵に入った時、魔理沙と近夏は何か話していた。それが気になったんだ。
顔を下げずに目線を落とすと森が続いている。
「んー? あー、近夏と話してた事か? それはな、前に大変な異変があったなって話をしてたのさ。あ、異変ってのはお前達の言う『乱れ』みたいなものさ」
「どんな異変だったの?」
後ろのメリーが聞いてきた。
「去年の秋、丁度あの小槌魔力異変が起こる前にな、夏が続く異変があったのさ。それの解決が手間取ったってわけだ」
「小槌魔力異変って?」
「あー、それは霊夢に聞いてくれ。もう着いたから」
魔理沙は無理矢理話を打ち切らせた。
今度は頭を下げて下を見た。そしたら、森の中にぽっかり空いた広間に家が建ててあった。
私達の股がっていた箒はそのまま地面に垂直に降りていって、足が着いた。
「ここは?」
箒に降りながら聞いてみた。大体予想はつくけどね。
家の周りは木で囲まれてて、たまに唸声が聞こえてくる。
「私の家だぜ。この辺りの森は''魔法の森''って言うんだ」
一つは予想通りだったけど、一つは考えてもなかった。この辺りの森の名前だなんて。こっちは森もあまりないし、無名の森が殆どだよ。
「へー……」
「じゃ、早速見せてやろうじゃないか。妖怪ーー! 逃げるなら今の内だぜーー!」
森の方から物音を立てて、そのまま消えていった。居たんだね。さっきの唸声はそれでかな。
「よし、やるぜ! マジックタイム! スペルっ! 黒魔『イベントホライズン』!!」
━━━━
魔理沙のスペルカードは凄かった。とにかく綺麗だったんだ。星屑の魔法は今を夜にさせるくらい輝かしかった。
「凄い……」
「まだあるんだけど、見るか?」
「いや! 全然大丈夫だよ! もう感動しちゃった!」
目が眩んだだけなんだけどね。眩しかったよ。
「目が痛いわ……」
「あー、ごめん」
魔理沙が苦笑いでメリーを見つめた。でも苦笑いはすぐに終わり、考えた顔になった。
「どうしたの?」
「いや、何でも」
「そういえば、聞きたい事があるんだけど……いいかしら?」
「何?」
「幻想郷に紅いお屋敷とか、竹林とかってあるの?」
メリーがいよいよ聞いた。私も言いたかったけど、言うタイミングがなかったんだよ。言い訳じゃないからね!
「紅い屋敷に竹林? あるけど、それが何?」
「あ、あるの!?」
「ああ……あるぜ、ってそれが何だよ」
「それはかくかくしかじかのたかたかきたきたで……」
説明が長くなっちゃった。空を見ると、十一時十三分三十七秒だって。
「なるほどな……それは確かにここにある所ばかりだぜ?」
吃驚だね!じゃあ、夢を現にする出来たんだ! やったぁ!
「じゃあ、連れてってほしいんだけど、いいかな?」
「いいよ、お腹も空いたしな。じゃ、紅い屋敷の紅魔館からだな。さ、早く!」
私達は箒に股がり、紅いお屋敷へと向かった。でも、さっきみたいに緊張はしなかった。徐々にここに慣れてきている証拠かな?




