第七二話 幻想郷の白テンさん
「いよっと。さて、もう戻してもいいよね」
私達はあの建物の前に降りたわ。
一階建てで和風の民家って感じだけど、民家にしては少し大きいかしら?
「そのままでいてもらってもねー。私が気持ち悪いわ」
「はいはい」
蓮子は少し上目にして戻そうとしたわ。
そういえば、自然に変わったのって久々ね。
「……戻った?」
「戻ってないわよ」
深緋に染まった蓮子の瞳を見つめるわ。でも、何も変化は感じられない。
「え、そう? んー……」
「まだよ。全然戻ってない」
「えー? ……いや、戻そうとしてるんだけどなぁ……」
上目のままでじっと戻そうとする蓮子だけど、ごめんなさい。本当に全然戻ってないわ。
「うーん? ねぇ? 戻った?」
「さっきと全然変わらないわよ。っていうかもう戻らないんじゃない?」
「えー……ま、困る事はないけどね」
蓮子は深緋の瞳を閉じて笑った。
その時ね、建物の扉が開いたわ。音を鳴らしたから分かったわ。ちりんちりんっていう風鈴みたいな音にぎーっていう軋む音が聞こえるの。流石和風。
私達はその音に加えて、声もしたからそちらの方を向いたわ。
「あのー……どちら様で」
「あー! ごめんなさい。今入ろうかと思ってたの」
蓮子のせいでつい入るのが遅くなったわ。全く。
声の持ち主は女性だったわ。顔を覗かせる感じだったから体はよく分からないけど、麦わら帽子を被っているわ。第一印象はこのくらいかしら?
「あー……はい、いいけど」
「なら、お邪魔します」
隣で蓮子が''八時三十八分三秒''って呟いたけどあんまり気にならなかったわ。
そういえば、何だか人の気配がするわね。気のせいね。
私達はそのまま彼女が入った建物の中に入ったわ。
「普段は人が集まったりして宴を始めたりするんだけど、今日は誰も来てないね」
その女性の全体が見えた時、可愛らしいなって思ったわ。青を中心の服だわ。片方は袖なしで、片方は肩を出して振り袖みたいなのがあるわ。喋り方はそうでもないけど。
「そうなんですか。あ、何だかすみません」
私達はダイニングであろう所にある四角いテーブルを囲む椅子に座った。
「いやいや! そんな事ないよ。いやそんな事より……」
彼女はテーブルを挟んだ私達の向かい側の椅子に座りながら、顔をしかめたわ。何か不味い事があるのかしら?
「何かしら?」
「見かけない顔だけど、どちらから?」
「どちらからって……京都だよ」
蓮子がそう答えたけど、私達は博麗神社のよく分からない穴を飛び込んでここに来たのよ。日本語を喋っていても、ここが日本とは限らないわ。
「という事は日本……やはりねぇ」
でも彼女は意味が分かったみたい。ここは日本なのかしら?
彼女は少し咳払いをして話始めたわ。
「いい? 今から話す事は全部事実だからね」
急に低い声でそんな事を言ったら緊張しちゃうじゃない。
私達は顔を強張らせた。
「まず、ここは人間や妖怪、神などの住まう世界。貴女達の世界にはいない妖怪が当たり前のように生きているんですよ」
妖怪に神……私達の世界にもいたけど、''当たり前のように''って言うんだから沢山いるんでしょうね。
「その名も''幻想郷''。貴女達みたいな外の世界から来た人間は、すぐ自分達の世界に戻らなきゃいけないんです」
ここに目的があって来たのに帰れ、だってぇ。何とかして話を聞かせなきゃ。
あれ? でも、ここが私達の世界とは違う世界だとしたら、何で彼女は日本を知っているのかしら?
後で聞いてみましょうか。
「そしてあたしはその幻想郷の住民である神様、四月一日近夏。歴とした白テン妖怪であり、訳ありの神様の代わりのお勤めでもあり、ここ、想夏庵の主だよ」
ため口はどうにかならないのかしら?
「は、はぁ……あ、私は宇佐見蓮子。こっちはマエリベリー・ハーンだよ」
ちょっと危うかったけど発音出来たわ。よかったわ。
でも、白テンの妖怪だって。しかも、神様の代わり……。妖怪なのに神?
そういえば、頭の左側にも斜め掛けの帽子の下からちょっとだけ犬みたいな耳が出てるけど、鼬の耳なのね。
そういえば思ったけど、麦わら帽子に透明な花みたいなのがあるわね。とても綺麗だわ。でも、やっぱり喋り方がね……。
「蓮子とマエリベリーですか。よろしくね」
おまけに呼び捨て……。初見よね? 私達。
「あー、はい。少し言わせてもらってもいいかな? 近夏さん」
蓮子がさん付けするのは珍しいわね。この静かな状態だしね。後、まだ強張っているわ。
「はいはい、どうぞ」
「私達、色々事情があってね。博麗の巫女に会いたいんだけど」
「博麗の巫女……霊夢の事ですか」
近夏さんがぼそっと何かを言った気がするけど、何て言ったかは分からなかったわ。
「どんな用件?」
「実はね、かくかくしかじか━━」
私達は私の見た夢の事。時空が歪んでいる事。博麗の巫女に伝えろと言われた事━━
私達の能力も踏まえて言ったわ。
「な、なるほどねー……分かった! あたしが後で━━」
近夏さんがそこまで言ったところで、想夏庵の扉が開き、ベルを鳴らしながら遅い来客がやってきた。
「失礼するわよ」
最近視聴が悪いですが、頑張って書いていきますよっ!
感想もらうと喜ぶ極楽鳳凰でした。




