第七〇話 新聞部のエニーさん
相対性精神学の講義では、蓮子が出ていたわ。勿論、私の隣の席に座っているわ。
「エニーも連れてくよね?」
蓮子は教授に聞こえないように小声で私に話し掛けたわ。それを聞いて教授の方に目線をえたけど、教授はそれに気付いていないわ。まぁ、後ろから二番目の右から二番目辺りに座っているものね。黒板は見え辛いけど……。
「そりゃ勿論……じゃないの?」
「だってぇ、うーん……難しいなぁ」
「別に難しい事ないじゃない」
「いやいや、そういう意味じゃなくてね。講義がだよ」
「なんで主語言わないのよ」
「よくある事でしょ?」
「そうかしらね。蓮子、そこ、違うわ」
私は蓮子のノートを見て間違いがあったから指摘したわ。そんなに凄い間違いっていうわけじゃないけど、勘違いして覚えたら大変じゃない?
「あ、本当?あー、本当だ」
蓮子は手元にある教材とノートを見比べたわ。黒板を見るよりこっちの方が早いわ。
蓮子は間違いを消して書き直した。
「難しいなら無理に来なくてもいいのに」
「なんかメリーの事、もっと分からなきゃ夢を現実に変えるのは難しいかなって思ったんだよ」
「だからって講義まで一緒にする必要ないでしょ」
「そうかなー?」
蓮子の気持ちは分からなくはないけど、いつでもついて来ると流石に困るわ。
「さて……私の事を知りたいなら講義に集中しましょ?」
「はーい」
私達はやっと教授の声に集中する事が出来た。
隣をちらっと見てみると、蓮子が眉を寄せているところが見えた。
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「さーて、終わった終わった!」
「放課後になったのはいいけど、部室行かない?エニーが居るかもしれないわ」
居たらあの事話さなきゃいけないしね。居なかったら探すわ。徹底的にね。
「そうだね」
部室につながる廊下を歩いて行くと、そこは第一校舎一階の一番端。そこに秘封倶楽部の部室があるわ。
「エニー、居るー?」
「居ますよ」
エニーは先に入っていたみたいね。
そういえば国語学をやってた第一講義室はこの近くだったわね。私達の受けていた相対性精神学の講義は三階の第五講義でやってたから、エニーの方が早く着くわね。
「入るよー」
なんて蓮子が言っていながら相手の返事を待たずに入ったわ。
「はい。今日は何をするのですか?私、夜から用事があるので聞くだけ聞きますが」
「あ、そうなの、残念だねー。実はね……今日は結界暴きをするんだよ!」
まだ結界暴きだなんて決まっていないけど、そういう感じなのかな?
「そうなんですか!? いいですねー……」
「明日に引き延ばすのもいいけど?」
「いいんですか? ハーンさん!」
「いいわよね? 蓮子」
「勿論! いいよ」
意外とあっさり許したわ。いつもの事だけどね。
「よしっ。エニー、その用事っていうのは何時から?」
「午後八時頃からです」
「っていうか、何するの?」
「新聞部の皆さんが季節外れの肝だめし特集を書きましょうっていう事でね……」
「本当に季節外れ過ぎるわね」
私と蓮子は苦笑いをした。今は肌寒いっていうのに、余計寒くしてどうするのよ。
「今は……六時半ジャスト。後一時間半はあるね。カフェでも行こうか!」
秘封倶楽部の活動は殆どカフェテラスで珈琲を煤って喋るだけよ。流石不良サークルだけ言われて自由よね。
まぁ、それが楽しいんだけどね。
「賛成です!私の新聞を一足早く見せますよー!」
「いいわね。何て言う新聞?」
「黒漆新聞です!」
「漆黒じゃなくて?」
「いいえ、黒漆です!」
エニーは自分の書いているっていう新聞を突き出した。白黒ね。構内の掲示板で新聞部の新聞を見たことあるけど、その時はカラーが多かったのよね。
また、白黒なんて珍しいわね。
「それでそれで、これが野球特集でこっちが━━」
カフェテラスに着くまでに色々聞かされたわ。カフェテラスに着いても聞かされたわ。
寒くなると太陽も寒がって薄暗くなるわ。
八時前になるとエニーは急いで新聞部の部室に向かったわ。
「さてと……メリー! 結界暴き行くよ!」
エニーが見えなくなると、蓮子の口から驚きの言葉が聞こえたわ。
「えっ? 明日って言ったじゃない。忘れたの?」
「あんなの嘘に決まっているじゃん! さ、早く準備して行くよ!」
「ええ!? ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ!!」
私と蓮子は急いで蓮子の家に帰り、準備をし、帰っていく時と同じ勢いで博麗神社に向かったわ。
あそこには何があるのかしらね? エニーには悪いけど、蓮子の好奇心はもう抑えられないみたいだわ。




