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秘封倶楽部の天気は現世のち幻想  作者: だみ
第六章 幻想未現過 ~ Space-Time Ghost Medium
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第六九話 否定したい夢

 見たことないわ、こんな世界。

 不思議すぎる空間の中で、ただ一人立ち竦んでいた。

 床がないこの世界は妙なグラデーションで彩られていた。赤になったと思ったら青になる。黄色になったと思ったら紫になる世界だったわ。

 こんな所に来たんだから何かあるのよね? なきゃ困るわ。

 じっと、立ち竦んでいた。もう飽きるわ! 早くしてよっ!

 そんな事を思った矢先、目の前の空間が歪んだわ。よくよく観察してたらね、その歪んだ空間に亀裂が入ったの。そして数秒もしない内に亀裂が横に開いたわ。

「結界の……境目?」

 誰もいない空間で呟いた。声が響かないわ。床だけじゃなく、壁も天井もないみたいだわ。

 緑のグラデーションがピンクのグラデーションに変わる。

「その通りよ」

「だ、誰?」

 声が聞こえたのは境目の中からよ。同じく響かない。

「名前は言えないけど。私は貴女の言う、未来から来たのよ」

「は、はぁ……」

 境目の中から人が出てきたわ。あれは……?

「えっ……」

「あら、驚かせたわね」

 その人は結界の境目を閉ざして、私の方へと一歩二歩、近づいた。

「私が貴女の所に来たのは理由があるの。あんまり話す暇ないから、はいこれ」

 その人は私に一枚の写真を差し出したわ。写っていたのは━━

「月?」

「ええ、そうよ」

 写真には大きく写った月があったの。これを? 蓮子に?

「私が貴女の所に来た理由はね、それを渡すだけじゃないわよ。頼み事があるの」

「な、何ですか? ってその前に一つ言いたい事があるわ……」

 知らない人を目の前にすると緊張するわね。人見知りとは違うわよ。人見知りは知らない人に対して怖じ気づいたり嫌ったりする事よ。だから人見知りじゃないわ。言い訳に聞こえるかもしれないけど人見知りじゃないわ。

「何かしら?」

 その人は何を言うか予想している感じがする。当たったら怖いわね。

「ここは何処ですか?」

「ここは時空よ」

 即答だった。本当に怖いと感じたのかもしれないわね。寒くないのに鳥肌が立っているもの。

「そうなんですか」

「割と驚かないのね」

「まぁ、慣れてますので……」

 言ってしまったわ。慣れてるなんて言ったら変な人って思われるじゃない。

「ふーん……あ、頼み事っていうのはね、今から言う事を博麗の巫女に伝えてほしいの」

 慣れに関しては無関心で返された。どうも思っていないのかしら?

「博麗の巫女?」

「ええ。ま、行けば分かるわ」

 博麗って博麗神社の事よね。その神社の巫女?聞いた事ないわ。あんな神もいない神社に巫女なんているわけがないわ。

「それでその博麗の巫女にね、時空の住民が影響を及ぼしていて時空が歪んでいるって伝えてほしいの」

「はぁ……」

 私は曖昧な返事をした。

 いるわけのない人物。あるわけのない出来事。それらが私の耳に入っていく。

 博麗の巫女、時空の住民、時空の歪み……。

 そういえば、私の目の前にいる人は未来から来たのよね。やっぱり私に似ているわ。何故かしら?

「なら決まりね! あ、さっき写真渡したけど、博麗の巫女はその月がある場所にあるわよ」

「は、はい」

 私は再びあの写真を見た。綺麗に輝いている月しか写っていないわ。蓮子にはどう見えるかしらね?

「あっ」

 私が境目の方を向いた時には既にあの人はいなくなっていたわ。

 本当にあの人は一体……。



 ━━━━



「━━っていう感じの夢を見たのよ」

「今日の夢はあまり覚えていないの?」

 九月の中旬は少し肌寒いわ。私達はすでに衣替えをしていたわ。

 今日もまた朝から夢の話を無理矢理聞かされている蓮子は大欠伸をして、目を擦った。

「どういう意味よ」

「だって''感じ''って言ったから」

 感じっていうのは感覚っていう意味でもあったわね。それでかも。

「流石にあの夢は信用し難いわ! だから見間違いかなって思って……」

「どうして?」

「……未来から来たっていうの今までになかったし、あんな世界に初めて行ったわ。だからよ」

 常に妖怪や怪物に襲われる毎日だから、今回みたいな世界に行くのは稀の中の稀なのよ。それに、更に信じ難い事まであると……流石に、ねー。

「ふーん、でもメリーの夢は本物が多いからなー」

「なによそれ」

 蓮子は自分の持っていた、あの月しかない写真に指差したわ。

「だって、メリーこれ持って帰ったじゃん」

「そうだけどっ!」

「夢を否定してたら駄目だよ。特にメリーは」

 真面目には言っていないけど、何故か心も身も停止した感覚だわ。

「私はメリーの見る夢を現実にしたいんだ! だからメリーが夢を否定しちゃうと、いつまでも夢が夢のままなんだよ」

「……分かったわ。受け入れる努力をするわ」

「それでこそメリーだよ」

 蓮子は微笑ましい笑顔を創った。私には出来ないような可愛らしい、でも何処かに寂しさがある笑顔。私には分かったわ。

「蓮子、悩みがあるわね? 私に対しての」

 蓮子の笑顔は絶やされなかったわ。

「そんな事ないよ。ほら、早く行かないとね。いつまでも夢の話に囚われちゃ駄目だよ」

 私の思った事は、気のせいね。蓮子に悩みなんてあるわけないわ。理屈なんてないわ。そう、思うだけよ……。

「はいはい」

 笑顔で返した私の顔はどういう感じの顔なんでしょ?

 蓮子が私を急かすから分からなかったわ。

「そうそう、この月。博麗神社のだよ」

「そうなの?」

 あそこに何かあるのね。

 結界暴きが始まるわ。



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