第六八話 人食い妖怪が来た理由
「きょーは何処行くのかー?」
「今日は妖怪山の河童にいたずらするんっだー!」
「そーなのかー」
「チルノちゃん、危ないってぇ……」
「大丈夫大丈夫! 何と言ってもあたいは幻想郷一の最強だからね!」
大自然の象徴である妖精が二匹。人を食べる妖怪が一匹。紅い屋敷が見える湖の近くで愉快な声が聞こえてくる。
妖精の方は、一匹はチルノ、もう一匹は大妖精。妖怪の方はルーミアだった。
「じゃ、早速行こー!」
「あっチルノちゃん、待ってよー!」
「そーなのかー。って待って」
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「ルーミアァァァ? 何処ぉぉぉぉぉ?」
「ルーミアちゃーん!」
人探しに全く興味ない妖精と、探すのに必死な妖精は行方不明の迷惑ルーミアを探していた。
妖怪山は勿論、霧の湖、博麗神社、魔法の森、更には三途の川までも探した。
「ルーミアァァァァ?」
「ルーミアちゃん!! 何処に居るの!?」
どんどん陽が暮れる。ルーミア、何処に居るのかな?
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その頃ルーミアは妖精達の探していない、守矢神社の近くの湖に来ていた。
「あっ、夕陽だ。みーんな何処に行ったのか?」
ルーミアも湖を中心に辺りを探した。だけど、既にその時に博麗神社に行っていた妖精は見つかる筈がない。
陽も、視界から消えていく。
「夕陽が……隠れていく。皆帰ったのかな?」
ルーミアは一人が普通だった。だから、皆いなくても平気だった。
人食い妖怪は人間で恐れられる存在。誰も近づく人間はおらず、妖精達とも、たまにしか遊ばない。だから平気だった。
「今日はここで寝よーっと!」
ルーミアは湖の近くで大の字になり眠った。
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鶏が鳴く時間帯。ルーミアはその前から起きていた。お腹が空いたのだ。
「うー……人肉人肉ぅ……」
ルーミアは何かないかと辺りを見渡し、湖の中を覗いた。水がゆらゆら揺れる。
「水の中に人肉があるわけないよねー……お腹空いたぁ……」
しかし、ルーミアは湖の底に穴が見え、その穴から光が差し込んでいる。
「あそこに人肉あるのかっ!! 絶対行くっ!!」
ルーミアは飛び込んだ。きっと人肉があるであろう、湖の中の穴へと。
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「な・る・ほ・どっねー。だから続けるんだ」
「そーなのだ」
ルーミアって子はそう言いつつも反省の顔を浮かべた。自分のしてる事が分かっているみたいだね。
「あー……折角いいネタだと思っていたのですが……妖怪の仕業じゃ書けませんね」
「ぐう……」
ルーミアは意味が分からないのか、項垂れた。
そのまま沈黙が流れるわけにはいかないから、私は微妙な空気を変えるため、話を切り替えた。
「とにかく! もうここに来ないで? 来るにしても、人、食べないでほしいよ」
「ううん……」
人食い妖怪はさっきよりも項垂れて、より反省の顔を浮かべた。少し涙目になっている気がする。
「蓮子……流石に''来ないで''はないでしょ」
「だから''来るにしても、人、食べないで''って言ったんじゃん」
「まぁ、そうだけど……言い方、変えたらどうなのよ」
「今更言っても、ねー」
「ぐぅっ!! 腹立つわ」
これもいちゃいちゃの内なのか。姉妹みたいに仲がいいっていうのはこういう事なのかな?
「取り敢えず、まぁ……お別れしますか」
エニーが詰まった話に終止符を打ってくれたおかげで、ルーミアは湖の中に飛び込む事が出来た。
私達はルーミアが潜っていった穴の中を覗いた。確かに光が差し込んでいる。
「流石にこの深さは無理だね……他の入口を探そうか!」
「あの約束もあるから、早めに見つけないとね」
「あ、それもあるね」
「忘れてると思ってたわ」
図星を当てられた。いつもの事だからすぐに分かってしまった。流石一年半相棒やってるだけあるね。
「約束って何ですか?」
そう、エニーは知る筈がないよね。説明しなきゃ。
「あー、実はねかくかくしかじかで━━」
長くなりそうな説明を、要約を引っ張り出して分かりやすく説明した。研究者なら、このくらい簡単だよ。っていうか、出来なきゃ駄目だね。
私達はリニアに乗って、今までの活動を順を追ってエニーに聞かせた。
「ハーンさんも大変ですね……いつも待たされて」
聞いた感想がそれかい。もっとましな感想はないのかな?
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「そういえば蓮子」
「何?」
私のマイホームのマイリビングにて。
ソファーに座って暇してた隣のメリーが話し掛けてきた。
「蓮子ってさ、月の石持ってたよね」
「うん。それが?」
月の石っていうのは、前に宇宙旅行に行った時に拾った土産物の事。本当はなんだか取っちゃいけないものだったらしいけどね。勿論、本物だよ。
「その月の石、持ってたらいつでも今の位置が分かるんじゃないの?」
「あっ、そうかも」
私は宇宙旅行で拾った産物が仕舞ってある引き出しの中から、月の石が入った袋を取り出した。
「もしかして気付かなかったの?」
「まぁ……あっ、メリーの言う通りだね」
月の石が今立っている位置を教えてくれる。これで何処に居ても、月が出ない日でも、持ってさえいれば分かる。
「これからGPS少女って言わせてもらうわ」
「ちょ、それは……」
「でも事実じゃない」
「うぅっ!」
一ついいものを手に入れる度に、メリーに気持ち悪がられる。仕方がないけど。
いつになったら溜め息が止められるかな? メリー。