第六七話 闇の姿
朝、早すぎる諏訪湖。まだ陽が少ししか顔を出してないよ。風もなく蒸し暑い。死ぬぅ……。
黒い霧は出てなくて、白い霧が出ている。でも、もうそろそろかな?
「さぁて……本番だねぇ……」
いつもより低い声で驚かせようとした。案の定、二人の腕には鳥肌が立った。
「蓮子怖いわ」
「私もぞくっときましたよ」
「さ、そんな事より……そろそろでしょ?」
自分で蒔いた種は放置して、次の話に移した。
「ええ。ボートは予め用意しているので、いつでも大丈夫ですよ」
「いいの? 行方不明になるくらいなのよ?」
「ボートは大丈夫と思いますよ。ただ、私達の命の保証は大丈夫じゃないですがね……」
「何それ怖い」
エニーも意外と黒い事考えるなぁ。少しびびつちゃったよ。
だけど、私はそんなエニーの方に振り返らずに、じっと湖を見ていた。
「……出た」
目線の先には、昨日見たものがあった。今はそれを睨んでいる。
「よしっ、行こう! 私達がこれの原因を突き止めるんだ!」
「ええ、そうね」
「……? は、はい!」
その時の私の瞳が深緋に染まっていたのか、何も知らないエニーは顔をしかめた。
メリーはそれに気付いてエニーの方に近寄った。
「そういえばまだ言ってなかったわね。蓮子はね━━」
「そうなんですか!?」
メリーが私の事を言ったのはこの声で分かったよ。そして私の瞳が赤い事もね。
「わざわざ説明ご苦労様」
「あらばれちゃった?」
「別にひそひそ説明しなくてもいいのに……取り合えず乗ろっか」
どうせばれる事なんだからいいのにね。気を遣ってくれてるつもりなのかな?変な気遣い。
「はいはい」
私達は用意されたボートに乗って黒い闇に包まれた霧の中に入った。
「わっ、暗いわ。大丈夫なの? 蓮子……って、何処蓮子」
「そんなに暗い?」
「宇佐見さんは見えるのですか? 今私が持っているオールすら見えませんよ?」
「えっ?」
私は船頭で内側座っていて、メリーとエニーは向かい側に居る。メリー達は分かっているだろうけど、暗すぎて姿が見えないみたい。
「まさか秘力のせいなの?」
「まさか。ここまで?」
「私もないと思うけどね……」
はっきり見える二人は少し考え込んだ顔をしていた。私って不思議だなー。
エニーはオールで漕いで船を水に滑らせる。
「そういえば、狐火が出ていないですね。もしかしたら……本当に食べられているのですかね」
少し鳥肌が立った。私達、食べられたりしないといいんだけど。
そう言いながらも先に進む。戻ったりしない。
静かな湖をどんどん進んでいくと、誰かの声が響いた。
「やっとみーつけた! きょーのあさごはんー!」
私の視界の先にはっきり見えた。その姿がね。
姿はこっちに向かってくる。
「だ、誰っ!? み、見えないんだけど!」
周りすら見えないメリー達はおどおどしている。
「いただきまーす!」
こっちに向かっていた姿はスピードを上げていく。
「いただくってまさかですかっ!? ちょっと! 食べられて死ぬのは嫌ですよぉぉ!?」
叫んではいるけど体は硬直していた。ここで暴れても意味がないからね。
だけど叫んでも、姿は近くなる。このままだと……!
「エニー、オール貸してっ!」
「わっ! 何ですか!?」
私はエニーの持っていたオールを掴み取って姿に向かって思いっきり振った。
「うりゃーーー!」
「えっっ! うぃゃーーーーーー!!??」




