第六三話 志那都比古エニー
「ここですね、噂の場所は」
校内の隅っこにある秘封倶楽部の部室の前には一人の少女が居た。
手をスライドドアに近付けて━━
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「メリー、暑いー」
九月のくせに蒸し蒸しする。汗だくだよ。
「私だって暑いわ!」
メリーがむきになって怒った。言わなくても分かってる。クーラーが運悪く故障してるんだよ。殺す気ですかぁ……。
私達は部室の椅子で暑さに負けて伸びていた。
窓開けても暑い、閉めても暑いの繰り返し。今度教授に話しとこ。
「メリー、何かあった?」
「何にもないわ……」
「ふーん」
そこまで言ったら、ノックする音が聞こえた。誰だろう? こんな不良サークルに何の用かな?
「どうぞ」
私は誰が来たのか気になって、ノックした人に許可を下した。すると、一人の少女が失礼しますと礼儀正しくして部室に入ってきた。
「えっと……どちら様で?」
メリーは見覚えのない不審な少女に丁寧に訊ねた。丁寧、なのかな?
「私の名前はエボニー・セテントライトです! よろしくお願いします!」
随分と早口で言っていて名前が聞き取れなかった。
「エボニー・セテント……何?」
「エボニー・セテントライトですっ!」
顔を膨らませ、赤らませて怒る面識一切ない一人の少女。本当に誰?
「そ、それで……何?」
「え、あ……はい。実はですね……私、秘封倶楽部に入りたいですっ!」
最初はきょとんとなって、徐々に言葉を理解していく。別に驚いたりはしないよ。ただ入りたいっていうだけだからね。だけど、ちょっと……何ていうのか、いきなり言われると、ねぇ。
後それに、顔が近いから。
「まぁまぁ、分かったからまず顔を退けようか」
「す、すみません……」
少女が顔を退けると、背凭れに体重を掛けた。まずはリラックスしようか。
「それで……理由は?」
「理由はですね……風の噂を聞いたんですよ。それで気になって気になって」
「うん? 風の噂?」
風の噂って何? 美味しいの?
「はい! 風の噂です! 詳しく言えば風の声ですかね?」
「詳しくなってないから……」
わけが分からない! 風の噂? 声?
少女を見る限り、嘘をついているようには見えない。本気で言ってるの?
「あっ、もしかして信用出来ませんか?」
私の心を見透かしたような口調で言ってきた。その顔は笑顔。ちょっと気持ち悪いかも。
「うん、まぁ……って何で分かったの? まさか、風の噂ってやつ?」
「いいえ、これは勘ですよ。今風吹いていませんし」
「それで……どういう事なの?」
「あ、はい。真面目に説明しましょうかね」
今まで真面目じゃない事は態度で分かっていたよ。これから真剣に話してくれると思うとほっとした。
「改めて。私は国語学を専攻にしています、エボニー・セテントライトです。新聞部を努めております」
いきなり丁寧口調で驚いた。流石国語学を学んでいるだけあると思ったよ。
「私は昨日、中庭でネタ探しをしていましたら風が吹き荒れました。その時に貴女達の事を初めて知りました」
昨日といえばバスケの試合の次の日だね、と心で呟く。
「しかし風が教えてくれるのはサークル名と所属している人数だけ。その事も含め、私は不思議に思いました」
風……一体何者なんだろう?
口を挟むと話が進まなくなるから黙って頷いておく。
「サークル名は秘封倶楽部。人数は二人だけ……今まで風が吹けば何もかも分かってた事が分からないなんて。どれだけ謎が多いのかって思いましたね」
秘封倶楽部が出来たのは去年の四月の下旬。薔薇の咲き時だよ。
今は九月。一年五ヶ月も経っても知られざる存在だったの!? いや、でもまだ一年生っていうのもあるか。
「それで気になりすぎてここに来たってわけです」
少女は一息ついた。話しっぱなしだから疲れるよね。
「それで……聞いてたけど、貴女一体何者なの?」
メリーが単刀直入に質問した。当たり前の質問だよね。
少女は首を傾げて考え込んだけど、意味が分かったらしく首を真っ直ぐにした。
「はい……話してませんでしたね。実は、私は『風の言葉を聞く』能力を持ってます。それで部室の場所を訪ねるために教授に聞いていたら、何かをしているサークルだと聞きましてね。それで入りたいと思ったのです」
「は、はぁ……」
入りたい理由より少女の能力の方が気になった。風の言葉を聞く? そのまんまだよね、きっと。
「もしかして私の能力、まだ信用出来ませんか?」
「うん……」
よく分からない。メリーに初めて会った時は能力の力を実際に見たんだけど、見るものじゃないしねー。
「なら来て下さい!」
「え、えー! ちょっとぉ!?」
少女、エボニー・セテントライト。略してエニーは私達の手首を引っ張って外へ向かった。
志那都比古はシナツヒコと読みます。イザナギとイザナミの間で生まれた風神です。
エニーって聞いたら''思い出のマーニー''を思い出す……見てませんが。
そして、この小説を投稿して二ヶ月です。まだまだ頑張れますよ!
※今更、今日がルーミアの日だったとか言えない。