第六二話 床に突く音がするスポーツ
ボールが床を何回も突いている音が聞こえる。そのスポーツ、何だか知ってる?
音が止まったわ。そして走り出た音。
そう、バスケットよ。今、バスケの試合を上の観客席に座って見ているわ。
何でそんな所に居るか? それはね━━
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「ねぇメリー! 夏休み明けにバスケの試合があるんだけど」
「ふーん……って蓮子、貴女掛け持ちしてたの? 初めて聞いたわ」
試合が始まる二週間前といえば、私達が三途の川を見に行った時だわ。今は私が花束を渡した後、蓮子が私に''言いたい事''を言ったところだわ。
まさか倶楽部の掛け持ちだなんて……だから運動神経抜群なのね。まぁ、それだけじゃないんだけどね。襲われた時とかに、避けられるのは。
「知らなかったの? まぁ、そうだもんね。何も言ってないもん」
「それで?」
私が''用件は?''っていう顔で蓮子を見るとね、蓮子はきょとんとしてね━━
「えっ?」
なんて言ったわ。な、何? 用件言っていないわよ? 貴女。
「あー、すいませんね! 細かく言わなくて。それで、その試合に見に来れるかな? って言いたかったの」
「もし嫌って言ったら?」
「あー! もうっ! なら来てっ。ぜぇったいに来てあっ!」
ついむきにしちゃった。仕方ないわねー。
「はいはい、分かりました」
「うぅっ!」
行くって言ってるのにまだ不機嫌だわ。随分と曲がるわね。ご機嫌が九十度曲がったわ。
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そんなこんながあったんだけど、九月なのに上旬のせいなのか、物凄く暑いわ。試合どころじゃないわ。蓮子、帰ってもいい? まぁ、駄目って言うでしょうね。貴女なら。
「頑張れ、蓮子」
そんな事を無意識に呟いて、じっと蓮子を見つめていたわ。別に好きだからじゃないわよ。ボールを蓮子が持っているからよ。
バスケのルールとか、よく知らないんだけど、難しそうね。素早い判断がいるみたいね。
あっ、今蓮子が味方にパスしたわ。そのまま味方はゴールに向かってドリブルしていく。
因みに今は第四ピリオドで。点数は三十二と三十三よ。第四ピリオドにしては少ない方なのかしら?ド素人だからよく分からないわ。
「よし、行け行け」
また呟いちゃった。でも周りの観客は気にしてないわ。
タイムが一分を切る中、味方が点を入れたわ。
「よしっ」
後、最低でも逆転に二点いるわ。頑張れ。
ドリブルをしてショットをしようと思っていたところで、蓮子がボールを奪ったわ。時間は四十秒。まだ可能性はあるわ。
だけど折角のボールは奪われて、相手に二点。そして味方にボールが回り、あっさり二点。時間は二十三秒。
相手にボールが回り、ボールをパス。そのまま走り出す。十六秒。
相手のゴールに近い位置で、蓮子がまた奪う。十三秒。
どうするのかしら? 奪い合いが続いているわ。時間を気にして。負けちゃうわよ。十秒。
やっと抜け出したところで六秒。間に合う?
「大丈夫……いける!」
そんな声が心で響いた気がする。蓮子の声だわ。
私はその声よりも実体に集中していた。すると、遠くながらも、蓮子の瞳が赤く染まるのが見えた。
蓮子が走るのを止めてボールを持つ。そこ……遠い。三秒。
そしてジャンプして━━
━━入ったわ……。
そのまま終了のホイッスルがなって、三十七━三十五で、蓮子側の勝ちだわ。
蓮子は瞳を赤く染めたままバク転をしたわ。結果は当たり前の成功。観客は盛り上がる。
私は蓮子が勝ち、盛り上がる中、一人だけ溜め息をしたわ。
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「蓮子ー。流石にあれを使うのは狡いわよ」
「ばれてなきゃいいの」
「全く……でも優勝おめでと」
あれから同じペースで突き進んでたら優勝しちゃってたわ。なんか凄いわね。
ここは近場のカフェテラス。まだ紅葉も落ちてこなくて、素肌丸見えの地面にパラソルの蔭が写る。
「えっへへー!」
「残念だけど、そこまで誉めてないわ。蓮子」
「えー! 今日くらいは本気で誉めようよー!」
蓮子が顔を膨らませて不機嫌になる。角度は……ざっと十度。大丈夫ね。
「それでね、蓮子」
「無視ぃっ!?」
そうよ、無視よ。確かに無視をしているわ。
私は蓮子のご機嫌角度を気にせずに続けたわ。
「昨日、久々に夢を見たのよ」
「二週間振りだね」
「そうなのよ。それでそれで━━」
夏休みが過ぎた後でも愉快に話が弾んだ。




