第六一話 菊と百合と蝦夷菊 〜 白の真実と黄の偽りと青の心配
「うわー……これは酷いね」
蓮子は赤い河を除き込んでいた。これが三途の川って言うのかしら? いくらなんでも血の河ってどうかと思うんだけど。
「どうする? 蓮子」
「んーー、どうしよ?」
「''どうしよ''じゃないわよ」
「あははは」
あっ。いや、何でもないわ。少し違和感があっただけよ。
「あはははは……さて、どうしようか」
笑っていたのに、急に真顔になった。相当まずい事よね。
「んー……どうする? あっ」
私が赤い三途の川の先を見たら、蓮子もつられてそちらを見た。
「やっと気付いたー。見てるだけじゃーつまんないんだからー!」
「だ、誰?」
そこには三途の川に水面に立った女性が居た。少し生意気かも。腹立つわ。
「私ー? 私はねー━━」
その生意気口調のまま私達に突きつけてきた。ますます腹立つ。
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
河の向こうから誰かが叫んでるわ。しかもざざざざって聞こえてくるし、声と音がこっちに近づいてくる。
「あら、大変だわ。すぐに……ってちょっとぉぉぉ!?」
漕いでいる。人が舟を漕いでいるわ。
「このお節介がぁぁぁぁ!!」
その舟はもう女性の目の前にあった。来るの早っ。漕いでいた叫び声の持ち主は彼女の肩を勢いよく掴んだ。
「ななな何ですか? 映姫様……」
「貴女のした罪は分かっていますよね?」
「……はい」
「後で仕置きです」
「ぐぅ……」
肩を掴んだ声の持ち主は女性で、あの人よりも偉い立場みたいね。でも、罪って何の? まさかこの人が三途の川を赤く染まらせたのかしら?
取り敢えずなんとかなったのかなぁ? そんな事を思っていたら、偉い人がこっちを睨んでいる。
「貴女達……もう自分の世界に帰りなさい。ここは貴女達のような生きた人間が来る所ではないですよ」
「あ、はい……」
彼女らは背を向けて舟に座り込んだ。漕いでいる人はさっき漕いでた人とは違う人だった。漕ぐスピードも少しゆったりだわ。
舟が見えなくなったら蓮子が話し掛けてきた。
「……ずっとここに居ても意味ないし、帰ろっか」
「そうね、ってどうやって」
「また彼岸花に触れればいいじゃん」
「そうね……」
また触るのか……仕方ないわ。帰れないんだもの。嫌いでも触らなきゃ。
「結局、彼岸と冥界って違うものだったみたいだね」
「本当ね」
━━━━
あんな事こんな事が色々あった次の日。
ニュースでは昨日の京都一日開花の事件について取り上げられてた。原因は偶然の組み合わせが何とか……。
本当の事を知っている私は下らない事を思ってたら思わず溜め息が出た。
「どーしたの?」
「いや、何でもないわ。そんな事より思い出したわ、蓮子」
「何?」
「実は貴女に渡したい物があるわ」
私は紙袋に入った三種類の花がある花束を出した。どれも違う色よ。
「これよ」
「何これ? 信号機のようで信号機じゃないこの色の組合せ」
「私からのメッセージよ」
「これが?」
蓮子はメッセージカードが添えられているかと思ったのか、花束の中を漁った。
「違うわ。花言葉よ、花言葉」
「花言葉がメッセージ? 流石に細かには知らないからなー。メリー、解釈お願い」
言うんじゃないかと思ってたわ。予想通りにいってくすりと笑った。
「いいわ。教えてあげる。まず、白い菊。これは『真実』。黄色い百合は『偽り』、または『陽気』。そして蝦夷菊。これは『あなたを信じているけど心配』っていう事よ」
「つまり?」
「そこまで? まぁ……いいけど。つまりは、蓮子はいつも『陽気』だけど、貴女は『真実』と『偽り』を見極める事が出来る? 様には夢と現の事だけど、それが『心配』なのよ」
「じゃあ……そう言うメリーは?」
私は蓮子の質問で口が止まった。
「メリーはどうなの? 私も夢を現実にしたい……けど、今は難しいよ。まぁ、私なりの答えを出すね。答えはね……出来るよ。だから心配なんてしないでよ!」
口がこれ以上動く気がしなかった。でも動かないと話が終わらないから、口を開いたわ。
「ありがとう」
「いえいえ! メリーは大切な秘封倶楽部の相棒だもん! 痛みは分け合わないとね」
「そう……」
少し心配になってきたのは気のせいかしらね?
「そうそう、私も言いたい事があるよ!」
「何かしら?」
どうせまた、''次の課題だけど……''でしょうね。ちょっと憂鬱だわ。
まぁでも、取り敢えず蓮子頑張れ! 私も頑張ってみるから。
夢を現実に変える時は、そう遠くはなかった事は、まだ知らない。
花言葉に関してはメリーの言った通りです。
後、この章はこれにて終わりです。