第五九話 桜 〜 寒桜の気紛れ
石段を下りきったら元の場所戻っていた。とっても静かね。蓮子によれば、今は九時四十九分一秒だって。よいこが眠る時間帯ね。
「どうしようか……全然考えてなかったよ」
「賽の河原の辺りにあるんじゃない?」
「賽の河原って……沢山あるけど?」
「そうだったわ……はぁ……」
蓮子が張り切りすぎるからこうなるのよ……目の前に巨大壁が出現したわ。
「竺紗の所に行ってみようか。明日」
「分かったわ」
明日はまた伏見に寄る事になった。正直面倒だけど、早く終わらせたいしね。だから、蓮子の判断は正しいと思うわ。あの人は呑気だけど結構生きてるし、何か分かるかも。
「そういえば、蓮子……」
「何?」
「いや、何でもないわ」
「うん? そ、そう」
気のせいよ。見間違いよね、きっと。
私は気付かなかったけど、桜の花弁が落ちてたわ。きっと冥界に居た時にくっ付けていたみたいね。
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「映姫様ー、どうするのですか? この状態」
「そーですね……何も為す術がないがないですからね……」
彼岸。そこは亡霊が裁判を受ける場所である。裁判を受けて白黒はっきりつける場所なのだ。
そこに裁判長の四季映姫・ヤマザナドゥと死神の小野塚小町が三途の川を覗いていた。真っ赤に染まった川を。
「というか誰の仕業なんですか?」
「それは分かっているのですが……さっきも言ったように為す術がないですから、見てるだけですね」
「あー、これのせいで仕事が出来ませんねー(仕事しなくてもいいー! やったよ!)」
映姫には小町の心の声など聞こえるはずがなかった。
「はぁ……亡霊達はこれを血の川に見立てたせいで冥界に逃げて行く。全く迷惑ですよ」
映姫は三途の川に背を向け、裁判所へ行った。
「どちらに?」
「仕事をしに行くだけです。しっかり見ててくださいね!」
「は、はい……」
映姫は仕事場である裁判所へと戻った。
小町は彼岸のお偉いさんが何の仕事をするか、何となく分かった。恐らく、面倒で映姫には何の意味もない仕事だと思った。
「ぐーすーぴーすー……」
映姫が居なくなった後、小町は眠ってしまった。
この後に起こった事は誰にでも予想が出来ているでしょう。
「こぉぉまぁぁぁちぃぃぃぃぃぃ!!」
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「うふふ。あー、やっぱり楽しいわ!」
「姉さん、頭大丈夫? 笑い方、怖いよ」
「あら、そうかしら?」
「うん、そうだよ。っていうか、前までは''善こそがこの世で一番美しい物''っていう心は何処に消えたんだよぉ」
ここは、今では''何処か''でしか表せない場所。そこに二人の女性が居た。
「それはね、お姉さんの気紛れよ」
「なんじゃそりゃぁ……」
「あーもう! っていうか、何でなのよ!?」
「私に聞かれてもねぇ……悪の気紛れって奴じゃない?」
「ふーん、あっそう。ならお姉さん、どんどん頑張っちゃうぞ!」
「テンション高いねー」
「当たり前でしょ?初めてやるんだもの。やってみたかったし」
彼女は楽しそうに笑った。やってはいけない事をやっているが。
「全く……裁かれるよ?」
「大丈夫大丈夫! 裁かれたって、どうって事ないんだから」
「そうだけど……! っもう!」
もう一人の彼女は厚い本を持って何処かに立ち去った。
すると、奇妙な笑い声が響き渡った。その響きに弾んで、寒桜の花弁が落ちていった。
寒桜は名の通りカンザクラです。花言葉は『気紛れ』ですね。
異変の黒幕が掴めそうですね。




