第五八話 仏桑花 〜 赤の勇気
私達は長く続いていく石段を上がっていった。メリーにしたら二回目だね。お疲れ様。
でも、私もお疲れだよー。
「メリー、疲れた……」
「まだ十分もしてないわ。しっかりしてよ!」
「うぇ……」
長い、長すぎる。もう三十分はいってるって!
「メリー、メリーの夢に出た石段って、どのくらいで上がりきった?」
「聞く? 多分やる気をなくすわよ?」
「やっぱりいいよ」
即答。聞いてやる気がなくなるなら、聞かない方がいいに決まってる。
私はさっきよりも張り切って石段を上がっていった。
「メリー、夢と全く一緒?」
「ええ。凄い似てるから、多分そうだと思うわ」
「そっか……」
でも、ここが冥界ならば亡霊がわんさか居てもおかしくはないと思うんだけど。
そろそろ終わりに近いね、頑張ろ!
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「ふぅ……はぁ、はぁ」
「つ、疲れったーーー!」
後、もうちょっとなんて思ってたけど、全然まだだったのが不思議。
「石段上り、お疲れ様です」
私の真正面から声が聞こえた。私は前屈の状態だったから、前が見えなかったんだ。
「貴女は……」
「メリー、どうしたの?」
「夢で会った人とおんなじ人」
「えっ?」
私は起き上がった。そしたら目の前には一人の少女が居た。それに白いのも隣に居る。
「おおぅ……」
「貴女達に会いたい方が居ますので、案内をしに来ました。早速案内する前に、一つしたい事があります」
少女は畏まって言って、メリーの方に向かった。
「……あの時はすみませんでした」
あの時って……やっぱり、メリーの夢に出てきた人と同一人物なのかな?
「いいえ、別に……というより、何で私を襲おうとしたの?」
「正確に言えば、''殺そうとした''です。私が貴女を殺そうとした理由は、貴女達に会いたい方が説明します。取り合えず案内します」
「あ、はいはい」
私達はメリーを襲った真犯人の女の子と一緒に居る白いのについて行った。
白い桜の並木道を歩いている途中、真っ赤な花を見つけた。でも、こんな白い世界に赤って……気のせい気のせい、気のせいだよ。多分……。
っていうか、何で真夏に桜?
「着きました」
いつの間に……早っ。
「おっきい……前に行った時の冥界ってこんな感じだったかしら?」
「大体おんなじだと思うけど?」
「早く行きますよ」
「あー! はいはい」
私達は女の子がジト目でこっちを見てくるから急いで向かった。
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「そういえば、君、誰?」
「私は魂魄妖夢と申します。ここ、白玉楼の庭師をやっています」
魂魄……妖夢? 魂魄って確か霊魂のことだよね。珍しいなー。
「それで、もう一つ……さっきから貴女と一緒についてってる、白いの何?」
「これ? これは私の半霊。私、半分死んでますからね」
「は、半分死んでる?」
「はい」
こっちの言葉で言えば脳死? だって、半分生きてるのに死んでるし。同じようなものじゃないの?
「へ、へー」
他に話す事がなくて黙って歩いてた。いつ着くのかな?
和風な廊下の曲がり角を曲がったら、左側の庭が目に映った。綺麗に手入れがされている。そういえば、あの子庭師って言ってたっけ?
綺麗な庭に見とれて立ち止まったら、メリーとぶつかった。
「ちょっと、早く」
「ごめんごめん!」
私は先々と進む妖夢って言う半分死んでる人に追い付こうと、小走りで進んだ。なんとか追い付いたよ。
「幽々子様、連れて参りました」
「どうぞ」
「失礼致します」
追い付いたら妖夢は立ち止まっていた。どうやらここみたいだね。
妖夢は声が聞こえた部屋の襖を開けて入っていった。
「おじゃましまーす……」
私達は恐る恐るその部屋に入っていった。部屋は和室。その和室の真ん中には四角い卓袱台があって、向かい側には女性が座っている。優しそうな顔をしてるなー。私達を連れてこいって言ってたから、つい怖い人かと思ってたよ。
「いらっしゃい。ごめんなさいねー、来たばかりなのに呼び出しちゃったりして。あっ、こっちに座って」
「は、はい」
言われた通り、座ったけど……全く知らない人なのに、何で私達を呼び出すんだろう?
「それで……早速だけど貴女達にやってもらいたい事があるのよ」
「な、何?」
さっきからちょっと言葉に詰まりが出来るんだけど。
「その前にね、話さなきゃいけないわね」
名を名乗らない女性は微笑みを絶やさずに話始めた。
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実はね、ここ冥界にも、広さに限界があるのよ。亡霊が程好く過ごせるようにはしたいけど、流石に今以上広げるのは無理があるのよ。
世界が活きているように冥界も活きているの。あまり広い大地を受け取っても、命の栄養っていうのは行き届かないの。だから、広すぎたら駄目なの。亡霊が増えようが何だろうが関係ない。
だけどね、いきなりここにくる亡霊が一気に増えたのよ。亡霊って死んだ時の記憶って覚えるもんだから、パニックになるのよね。
まぁ、それがあって妖夢はあの子を殺そうとしたんだけどね。
そんな事より。亡霊が一気に増えて、さらに悪化。冥界が満帆なの! 今、最大限に広げているけど、それでも足りないのよ。
亡霊はいつか桜の花弁になるんだけど、結構経たないとなれないのよね。
妖夢に斬ってもらうっていう手もあるけど、やっぱり可哀想だから中々ね……。
それでね、私は気付いたのよ。急にやって来た亡霊の共通点。それは、裁かれていない事。それにもう一つの共通点は、怯えている事。これで確信したわ。
三途の川に異変が起こってるって。
さぼり死神のせいっていう事もあるかもしれないけど、だったら何で怯えるかが分からないわ。あの死神は何があろうと怒ったりしない人だし(人じゃないけどね)。あの人でもないだろうし……ね。
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「これで言えるわ! 貴女達にやってもらいたい事は━━」
「ちょっと待って」
メリーが話に待ったを掛けちゃったよ。何だろう?
「私を殺そうとしたのは何で?」
あー、そういえば言ってなかったね。そういう事か。
「そういえば言うの忘れてたわ」
女性はいつの間にか用意されてた三色団子を口にした。
「んー、あー美味し。それで、何で妖夢が貴女を殺そうとした理由はね……」
言葉を切らすって事は何か重大な事を言うのかな?あまりにも重大過ぎたら困るんだけど。
「後で妖夢に聞いて」
「がくっ!」
私も思わぬ答えに滑っちゃった。っていうか答えにもなってない。
「そんな事よりー! 私が貴女達にやってもらいたい事っていうのはね、三途の川を見てきてほしいの!」
「三途の……川?」
「そう、三途の川。きっと貴女達の世界からでも行けれるはずよ」
私達の世界からでも行けれるって……って、私達の世界の事知ってるの!? その事を聞いてみたら━━
「何となくよ」
うげぇ……なんて自由な人なんだろう。
「で、どうするの? 無理なら他の人に頼むけど」
「……勿論だよっ! 勿論行くよ!」
「ちょっと! 蓮子本気で言ってるの!?」
メリーが掴み掛かってきた。折角いい事言ったのにな。
「渡らなきゃいいんでしょ? だったら大丈夫だよ」
「あら、ならよかったわー。とっても勇敢ね、貴女。じゃ、早速お願いね」
女性が私の肩を軽く叩いた。また優しい叩き方だった。
「この私にお任せあれ!」
(あーあ。後戻り出来なさそうね)
メリーの小声が聞こえたのは気のせいだね。うんうん。
「えっと、じゃあ……あの石段を降りたら帰れると思いますので、入口まで送ります」
「はいはいはい」
私達はちょっと長かった話を終えて、伸びをした。そして立ち上がり廊下を歩いていた。
「ねえ、私を襲ったのは何故なの?」
「それは、貴女の力が強いからです」
「うん? 力が強いから何なの?」
私達はあの時あの女性に投げ遣りにされたあの話をについて話していたよ。
「力の強い亡霊は冥界のリダーシップの権利があるので、急に流れ込んだ亡霊達を安定させるのです」
「わー……私、そんな事されそうになったのね……」
「でもあの時、突き付けたら消えたので驚きましたよ。あの後、探しても見つからないので」
「あははは……」
笑って誤魔化すしかないよね、ここは。''実は夢だったんですよー''なんて言ったらどうなるのかな?
「あっ、つ、着いたわね! ではありがとうございました!」
メリーは全力ダッシュで走って玄関まで行った。余計怪しまれるって。
「待ってよ、メリーィ!」
私は妖夢に一礼をした後、メリーを追いかけた。
「もう、置いてかないでよ」
「はぁ、はぁ……ごめんね。それで、どうやって行くの? 三途の川まで」
「あっ」
横を見たらメリーのうんざり顔が見えた。
そういえば、メリーが石段で振り返った時とか、掴み掛かった時に顔をしかめてた気がする。気のせい……なのかな?
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「あの人達、本当に強い力でしたね。幽々子様」
「ええ、そうね。そんな事よりおやつ食べたーい! 妖夢ぅ」
「あー、はいはい。分かりました。今すぐに」
「早くねー」
妖夢が見えなくなったら、あの子の事を思い出したわ。あの子には真っ赤な仏桑花が似合うかもね。うふふ。
「そろそろ、門を閉めないとね。妖夢ー!」
仏桑花はハイビスカスの事です。あの南国の花です。
赤色のハイビスカスの花言葉は『勇敢』です。
さて、蓮子達はどうやって行くのでしょうかね?




