第五六話 薔薇 〜 黄の嫉妬と友情
「あーもうっ! 遅いっ!」
周りの人の目線にも気にせずにいらだった。蓮子が遅いのよ。待ち合わせでは六時って言ってたのに、今は六時十五分十一秒よ。蓮子って、遅刻魔だったのね。
「メリー! 遅れてごめん!」
蓮子が慌てて走って来る姿が見えた。
遅れている事は自覚してるのね。よかったわ。自覚してなかったら、一発いっちゃうところだったわ。私も暴力は嫌いじゃないわ。
「自分から言っておきながら、待ち合わせに遅れる人間って、最低レベルよ」
「ごめんごめん! 実は色々探してたら遅れちゃったんだよ。はい、これ」
「薔薇……」
蓮子の手から一本の黄色い薔薇が差し出されたわ。私はそれを見て、またむかっとした。一本だけっていうのもあるけど、それ以上に━━
「蓮子、私に嫉妬してるわね」
「あっ……」
私がむかっとした理由。それはね、黄色の薔薇の花言葉は『嫉妬』だ、って言われているの。『愛情の薄らぎ』とも言われているわ。だからよ。
基本的に黄色って、花言葉に変えれば悪いイメージの物が多いのよ。
蓮子って花言葉を知らないのかしら?
「取り合えず、人に薔薇を渡すなら別の色に━━」
「メ、メリー! 確かに黄色の薔薇は嫉妬を表すけど、違う意味があるんだよ!」
「誤魔化しても無駄よ!」
「本当だって!」
随分とやけね。もしかしたら違う意味が本当にあるのかしら?
「……何よ、違う意味って」
私は蓮子の自棄になっている様子を見て、聞いてみた。
「『友情』、だよ。メリー」
「えっ……」
知らなかったわ。黄色の薔薇にそんな花言葉があったなんて。蓮子って、私よりも物知りなのね。遅刻魔の事もあって、凄く意外な感じがするわ。
「そ、そうなの。初めて知ったわ。ありがとう」
私は明るみのある一本の黄色い薔薇を受け取った。私の目、おかしくなったのかしら? 一段と黄色い薔薇がさっきより綺麗に見えたわ。
「それでね、メリー。私、まだ言ってない事があるんだ。その事があって、今日待ち合わせしたんだ」
「な、何?」
「実は私はね━━」
━━━━
「あの時は吃驚したわ。貴女が急に自分の能力を言うんだから。ま、元から察してたけど」
「えへへー」
「でも、遅刻したのと黄色い薔薇を出してきた事もあって、あんまり関わりたくないって思ったわ」
「メリー、酷っ!」
私達は夏の昼間のリビングで昔の思い出を話してたわ。私達が出会った頃の話よ。
「普通は黄色い薔薇出して喜ぶ人なんていないわよ? まぁ、あの時は蓮子の言う花言葉を聞いていい花だって思ったけど、あの一言がなかったら、私本当に一発食らわせてやろうかって思ったわ」
「メリー、今更言われると、私の過去のトラウマが思い出してきちゃうんだけど」
「私は知らないわー」
「また酷っ!」
傷口にどんどん塩を塗り潰してあげるわー。蓮子ー。
「それで、この話はこのくらいにして……明日でしょ?」
「うん、明日だね」
今日は八月十五日。明日は肝心の五山送り火よ。正直、見つけても行きたくないけど……蓮子がやる気だから私も頑張ってみようかしら?
「さて……何しようかな?」
「さぁ?」
そんな事より私達は十六日の昼間も何して過ごすのかしら? 誰にも分からないわ。
小説内でメリーが言っていたように、花の黄色の花言葉は悪いイメージの物が多いです。
たまにいい物もありますがね。
恐らく『友情』というのは恋愛で言えば、友達程度の関係ってとこですね。
皆さんも花束の贈り物には色に注意しましょう。




