第六話 夜は遠ざかる
「そろそろ話もラストに差し掛かるわね」
「何でそんなこと分かるの?」
蓮子がそう言ってきた。私の能力を忘れたとでも言うのかしら。この人。
「見えるからよ。その世界が」
「あー……」
「えっ?どういうことですか? 普通の人間、ですよね?」
うぅっ、私のバカ。話がおかしくなったじゃない。
「えぇぇーっとぉぉ……」
「もういっそ言っちゃえば? どうせ襲えるような能力でもないし」
「能力? 能力持ちなのですか?」
こうは驚いて私達を見つめた。こうなっては言うしかない。
「私達の''瞳''がね」
「目……」
「多分貴方の想像している''め''は''瞳''じゃないと……」
「ま、まぁ! そんな細かいこといいじゃん。というわけで改めて私達の紹介をしようか。ねっ!メ・リ・ー・☆」
また結界が……しかもさっきよりも酷いわ。
「蓮子」
「ハイスミマセン」
素直に謝った。本当に私の説教が嫌いみたい。
「じゃあ、話し疲れていると思うから、少し休憩に私達の話をしようか。と言ってもすぐ終わるけど」
蓮子が苦笑いをしながら椅子に座り直し、咳払いをした。
「じゃあ私からね。私は『月を見て今いる場所が分かり、星の光を見て今の時間が分かる瞳』を持っているんだ。所謂、さっき言ってた能力だね。次、メリーの番……うん? メリー?」
私は少しぼーっとしてた。境界を見過ぎたからかな?
「あぁ……ごめんね。ちょっと頭が寝ていてたわ。蓮子、今何時か分かるかしら?」
「ちょっと待ってて。大丈夫? メリー」
蓮子が星を見ようと椅子から立ち上がり、近くの窓に行きながら私に尋ねた。
「んー。ちょっと疲れたわ」
「そう」
よく見ると蓮子も少しふらついている。飲酒をして酔っているみたいに揺れているわ。
「蓮子も大丈夫?」
「多分ね」
だんだん私と蓮子の口数が減っていくのはきのうせいだろうか。
「あっ、私、言っていなかったわね。私は『結界の境目を見る瞳』を持っているわ。だけど最近、何だかその能力が強くなっているのよね。境目を見るだけじゃなくて、その境目の中が見えたり……いろいろ」
「あ〜だからですか」
こうは一人納得していると、漸く蓮子が窓に着いた。
「今……って、えぇぇぇぇぇぇ!! メリー!」
蓮子の声が病院全体に響いた。
「そんなに大声出さなくても聞こえているわ。何があったのよ」
「メリー、今、朝」
「えっ?」
窓を見ると微かに光りが溢れていた。
「あのねー蓮子。例え今が朝でも、夏休みだし、日曜日よ?」
「いやー。それがね、メリー」
蓮子が何かに対して躊躇いを持っている時はだいたい用事がある時よ。でもこんな日曜日に何の用事があるのかしら。
「早く言いなさいよ」
「実はぁ……相談の予約が入っていて、日曜の朝に入れたんだよねー」
やっぱり。私は深い溜め息をついた。
「ごめん」
「もういいわ。そんなことより急ぐ方が先じゃない?」
「そうだね。じゃあ……あれっ?」
蓮子はこうが座っていた辺りを見た途端、顔を歪めた。私はそれを見て同じ方向を見ると、そこにはこうの姿が見えなかった。
「あっ」
私はこうの姿を探そうと辺りを見渡し、こうが座っていた長椅子を見た。するとそこには字の書かれた紙切れと鉛筆が置かれてあった。
「メリー、これ」
「多分あの子のね。読んで」
「おーけー」
蓮子はは少し乱雑に書かれた字を読み始めた。
''私は人間に自分を知られないようにするため、朝は姿を消す決まりなんです。すみません……
話の続きは■■の夜、昨日ここに来た時間に話しましょう。
待っています。''
「……ふーん。そっか」
「さっき詰まったのは何だったの?」
確か''話の続きは''の次辺りだったかしら?
「うん? あー。これだね」
蓮子が紙切れの■■の部分を指差した。それを見た後、その上に小さく書かれた字を見た。
「なるほどね。これは見にくいわね」
「本当本当。まぁ、間違えるのも分かるね」
私達は笑いながら太陽が完全に地から出ると同時にこの世界を後にした。