第五五話 大千本槍 〜 赤の神秘
あの宇佐見蓮子って言う人にぶつかった次の日。今日も講義を入れてるから、今向かっているところなの。
初めて会ったにはよく名前を覚えているなって思ったわ。何か突っかかるのよ。あの人の瞳。また会うかもしれないわ。その時は聞かなきゃね。
「あっ、貴女は!」
「あっ……」
またあっさり会うとは思ってなかったわ。
やっぱり、何かある。
「マー……マエリベリー・ハーン、だったよね?」
「ええ。貴女は宇佐見蓮子よね」
「覚えてくれたの? ありがとう! それで、ちょっと頼み事があるんだけど」
「何?」
頼み事って何かしら? っていうか何で私なの?
私は嫌な予感がして右斜め前にある黒い境目を見たわ。
「秘封倶楽部に入って欲しいんだ!」
「は、はぁ……」
嫌な予感適中。
な、何? ''秘封倶楽部''って。聞いた感じ、お祓いとかする活動にしか聞こえないんだけど。私、好きじゃないんだけど、そういうの。
「次、何か入れてる?」
「え、ええ」
「そっか……後でそれについて話すからまた会おうね。じゃ」
宇佐見蓮子はノートやらを持ってまた廊下の先へと見えなくなったわ。
私も行かなくちゃ。
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物理学の講義を受けているのよね、私。
私の隣はあの宇佐見蓮子だったわ。違う席がよかったけど、生憎、ここのしか空いてなかったの。
物理学の教授の声に集中しようと思ったんだけど、宇佐見蓮子が話し掛けてくるの。まだ友達にもなってないのに気安く聞いてくるのよ。しつこいわ。
「それで……って聞いてるの?」
「聞いてるわ。結界暴きをするっていう話よね。嫌よ」
声を潜めて教授にばれないように話す私達。
私の瞳の力なら結界暴きなんて簡単だけど、リスクが大きいわ。ばれたらどうするのよ。
「大丈夫だって。私みたいな大学生が結界暴きをしたくらいでどうって事ないよ」
「……入らないと駄目なの?」
「うん」
きっぱり言うわね……困っちゃうわ。でも、何で? もしかして私の力がばれたの?
「また、後で話そうね」
「ええ……」
私達は教授の講義を聞いた。
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「で、何で私なのよ」
私と宇佐見蓮子は校外のベンチに座ってあの話をしてたわ。
「実はねー、理由があるんだよ。メリーを誘うのは」
「メリーィ? 私、ちゃんとした名前があるんですけどー」
「メリーの本名、発音し辛いんだよ。それでね、メリー」
私の名前に関してはスルーですか。ちょっと色々むかっとくるわ。でも、発音し辛いなら仕方ないと思うわね。
「何?」
「メリー、何かあるでしょ」
「何かって……何よ」
「誰にも言えない能力とか」
もしかしてばれたの? な、何で?
「……」
「やっぱりあるんだ! 実はね? あの時ぶつかったじゃん。その時一瞬だけだけど、黒い裂目が見えたんだ」
「えっ!?」
「だから、その日考えてみたんだよ。あれは何だったのかって」
「……実は、私は結界の裂目が見えるの」
「通りでね……」
もう自分の瞳の事、認めたわ。もう言い訳が効かないわ。
「でも、何で私にぶつかった時に見えたのかしら?」
「さぁ? 私も考えてみるよ。取り敢えず、メリーの入部確定!」
「はいはい。で、いつ活動するの?」
「明日、午後六時に校内のカフェテラスで、情報報告!」
そういえば、校内にカフェってあったんだっけ? 改めて知ったわ。
「はいはい」
私は何気なく返事をした。
でも、私はまだ知らなかったのよ。赤い大千本槍の神秘に包まれた、秘封倶楽部、宇佐見蓮子の秘密をね。
大千本槍と言うのは、ガーベラの事です。
赤いガーベラの花言葉は、サブタイトル通りの『神秘』です。
あとがきがちょっとした豆知識になってきています。




