第五四話 薔薇の蕾 〜 白の未熟さ
私は外国からの留学生、マエリベリー・ハーンよ。えっ? もう知ってる? まぁ、いいんだけど。
あの日本のトップレベルに近い大学、京都大学に合格して大喜びよ。
大喜びしているんだけど、少しコンプレックスなところがあるの。それはね、結界の境目が見えちゃう事なのよ。しかも生まれつきに。親の霊感強さを引き継いだせいなのかも。
今の世界では結界暴きをする事が禁じられているの。でも、見えちゃうのよ。私の瞳に勝手に写っちゃうの。
そんな事があって、一歩踏み出すのが怖かったわ。ばれたらどうなるかしらって思っちゃって、中々。周りの目線を気にしちゃうわ、私のこの瞳をどう思うのか。勿論、言わないわよ。言わないんだけど……その、何て言うのか……見透かされそうな感じよ。
一人の手帳を持った黒髪少女がこっちをじっと見てくるんですけど……何か怖い。本当に見透かされたの? でも、その黒髪少女はまた別の方を向いたわ。
「ふぅ……」
よかったわ。私は安心の溜め息をした。
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校内に入って、廊下を歩いていたんだけど……廊下ってこんな感じなの? いっぱい黒い境目があるんですけど。
「うわぁ……」
一体何処に通じているのかしら? この世界の何処か、異世界、何もない真っ白な空間……誰も知る事が出来ないわ。私なら入る事は簡単だけど、神隠しされたって大騒ぎになるから嫌よ。私はあんまり派手な事をしたくないの。
そんな黒い境目を気にしながら歩いていたら、誰かの何かにぶつかったわ。しかも顔に。
「すすすみませんっ!」
私はぶつかった人に向かって必死に謝ったわ。目を瞑っちゃったくらい。
「……あぁ、うん。こっちこそごめんなさい」
私はその人の姿を初めて見た。黒い帽子を被ってて、その帽子には白いリボンがついているわ。白のワイシャツで、黒のロングスカート。そして真っ赤なネクタイ。少し格好いいわ。でも女性だったわ。
「本当に、本当にすみませんっ!!」
「いやいや、もういいよ。大丈夫。私は宇佐見蓮子。貴女は?」
「私は……マ、マエリベリー・ハーンです……」
あまり自信げない気持ちで自己紹介をした。どうせ名前なんて覚えてくれないわよ。私の名前、発音し辛いし、長いし……。
「マエリベリー・ハーン……そう。ならまた今度ね! マ、マエリベリー!」
「うん……」
ほーら、私の名前に詰まった。憂鬱だわ。
でも、あの、宇佐見蓮子って言ったっけ? あの人、一体何者なんだろう?
私はそんな事を思いながら、宇佐見蓮子が廊下の先へと見えなくなるのを不思議な瞳で見送ったわ。
私はまだまだ駄目ね。白薔薇の蕾が私の未熟さを訴えているわ。
この章では、サブタイトルの書き方が今回のような書き方になります。
因みに白い薔薇の蕾の花言葉は『恋をするには若すぎる』や『少女時代』という事らしいです。
それを解釈して『未熟さ』にしました。
後、結縁ちゃんの外見は描けたらお知らせします。
暫くの間は、メリーと蓮子の入学時代をお楽しみに。