第五三話 冥界の石段
もう、あの日に起きた事について話す事がないわ。ただ遊んだだけ。おかげで一日潰れたわ。楽しかったけど。でも、何かを忘れていたような……気のせいよね。
私達は遊びまくって疲れたから、京都の地に戻る事にしたわ。まだ夕方にもなっていないけどね。蓮子によれば、三時十分二十九秒だってさ。
そして、今蓮子の家に帰ってきたところ。十日間も経つと懐かしく思えるわ。
「ただいまー」
「おかえり」
「おかえりー」
「ただいま」
そしてまた例のやつを言って玄関に入った。相変わらずに青々とした夏野菜が出迎えしてくれたわ。実が熟しているわね。
「そろそろ採ったら?」
「そうだね。んー」
蓮子はその場でしゃがみこんで、私の行く手を阻んだ。
「ちょ、一度上がってからにしてよ。私をいつまで立たせる気?」
「あー、はいはい。分かりました」
蓮子はいくつか摘んだ夏野菜を持って玄関を上がったわ。いくつかって言ってもかなりあるけどね。たまにまだ熟してない青い実もある。デリカシーどころじゃないわね。もう物の判別もつかないんじゃない?
「ん? どうしたの? メリー」
「なんでもないわ。そんな事よりお腹が空いたわ」
お昼を食べたのに何ででしょうね?
「早い夕食? まぁ別にいいけど」
「今日は何かしら?」
「カレー」
「またぁ……」
「またって何!? 十日振りだよ?」
「普通一ヶ月に一、二回だから」
「そんなもの?」
「そんなものよ」
私達は十日振りのカレーを食べて、早いいちゃいちゃをして、早く浅い眠りについた。
早く結婚しろ? 誰がこんな人としなくちゃいけないのよ。しかも同性だし。絶対に嫌よ。
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私は石段を上がっていたわ。何処まで続くかも分からない長い長い石段。この石段を上がって行ったら何処に行くのかしら?本当にあの世だったらどうしましょう。
あら、後もうちょっとでこの石段も終わりだわ。誰かいるみたいだけど、誰かしら? まさか迎えかしら?
「……貴女がいい」
「えっ?」
その人が何かを発した気がするわ。よく聞こえなかったけど。
私は石段で立ち止まったわ。その人の表情が怖かったんですもの。
「ここに居る亡霊達を安定させるために、貴女を殺します!!」
そう言ってその人の腰にある長い刀と反対にある短い刀を出してきたわ。えっ、ほ、本気なの!? や、止めてっ!
そんな思いも届かず、その人の刀の刄は私の方へと向かってくる。そして真正面に突き付けられたわ。
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「なーんていう事があったのよ。って、蓮子聞いてる?」
「聞いてるよ。亡霊達を安定させるために、ねー……」
朝起きて、私は蓮子にあの夢の話を早速したわ。蓮子が少し眠そうよ。しっかりして、蓮子。
「また何か起こる予感だね! メリー!」
「そ、そうね」
殺されかけたのに気に掛けてくれないわ。全くのものだわ。毎回の事だからかしら? でもね蓮子。私、夢から帰って来ない日がいつかくるかもしれないのよ。もしそうなったら貴女、蓮子はどうするの?
「亡霊って事は……冥界だね!」
「また蓮台野に行くの?」
「違うよ、メリー。五山送り火だよ」
「あー……見えるかしらね」
五山送り火。それは京都四大行事の一つである大文字山を中心に送り火を熾して、お精霊さんって言う死者の霊をあの世に送り出すの。
確かにそこなら冥界の入口が開くかもしれないけど、前行った時は見えなかったのよね……大丈夫かしら?
「見えるって! 絶対に! というか、メリーを襲った人を懲らしめないといけないから、どのみち見えなくちゃいけないって」
「というより、十六日だけど……」
「あっ」
相変わらずね、蓮子ったら。本当に大丈夫かしら?
まぁ、いいや。その時はその時よ。まだ一緒に居られるし……大丈夫よね。きっと。
「五山送り火が十六日にある事は置いといて……そういえばメリー。寒くなるまでその服装でいくの?」
この小説を読んでくれているは忘れているかもしれないけど、私は蓮子と同じような半袖ワイシャツなのよ。皺のないワイシャツは清々しいわね。
「ええ、そのつもりよ」
「ふーん、そうなんだ」
さて、十六日まで何をしようかしらね。たまにはゆっくりする時間が欲しいわね。
「ねぇ! メリー、何処行く?」




