第五〇話 秘めた力
「な、何者って言われてもねー……」
私達は出雲結縁って言う出雲大社の神の言葉に戸惑っていた。
「貴女達には他とは違う力がある。その力は何?」
流石神ってところかな? 私達の瞳の力を察知したみたい。でも、何かっていうのは流石に分からないみたいだね。
ここまで言い当てたんだから、隠さずに言わなきゃね。
「実は私達は大学で''秘封倶楽部''っていうサークルをやってるんだけどね、私達の瞳には能力があるんだ」
「どんな?」
「私は『月を見て 今いる場所が分かり、星の光を見て今の時間が分かる瞳』を持っているんだ」
「私は『結界の境目を見る瞳』を持っています」
「へー。どうりでね」
結縁は私達に近づいて、瞳をまじまじ見つめた。
私の瞳を見た時、少しだけまた顔をしかめた気がする。
「蓮子って言ったっかな? ちょっと来て」
「私? う、うん。いいけど」
私は結縁に呼ばれて、メリーから少し離れた本殿とは反対方向の所まで寄った。何だろう?
「貴女、他にないの? 力を」
「うん? どういう事?」
「貴女にはまだあるの。さっき言ったのとは違った力が」
さっき顔をしかめたのは私の何かを察知したから? 今の力とは違うってどういう事?
いろんな疑問が浮かんだ。
「わ、私は知らないけど……」
「んー、まぁ、そうだよね。隠されてるし、消えそうだし……なら、その力、使ってみたいって思わない?」
「えっ?」
「言えば''秘めた力''、略して''秘力''。どう? 秘封倶楽部って言うほどなんだから欲しいんじゃない?」
私の知らない力。使ってはみたいかもしれないけど、少し怖いっていう感じがあるよ。自分が変わってしまって他の人の目からどう映られるかっていうのも怖いし、自分が自分でなくなりそうで怖いっていうのもある。
どうしよう。でも、やっぱり使ってみたい。自分も知らない未知なる力を。
「……はい!」
普段は''はい''なんて言わないけど、神を目の前にしているからかな? 少し緊張してるのかも。
「なら決まり。私準備してくるから」
「うん」
結縁は本殿の方へと走って入って行った。メリーはそれを見て私の方に駆け寄った。
「何だったの?」
「実はね━━」
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「あーれ? 何処やったー?」
本殿の隅っこの部屋にある小さな蔵。今は使われていないただのがらくた置き場。そんな中私は探し物を探していた。
しかし、あの子達の力って本当に不思議だったね。特に蓮子って子。何て言うのか……違う物から得たっていう感じ。
って本当に、あれ何処にやった?
「んー? ここ?……」
私は大きな棚の大きな引き出しを引いた。誰が作ったんだったかしら? 貰い物だった記憶があるし、結構年代物だし。
私の引いた引き出しの中には目的の物が入っていなかった。
「あらー? ないねー。ここ、結構散らかってるから探す所、沢山あるんだけど。困ったもんだね」
私はあちこち探し回った。探していないような所、全部。こんな飛び入り客なんて珍しいからね。張り切っているんだからあんな力を持つ人、気にしないわけがない!
探している内にここにはないのじゃないのか、という疑惑が漂ってきた。
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「そ、そうなの?」
「うん、何処で入った物なのかな?」
「私が知るわけがないわよ」
「まぁ、そうだよねー」
私は結縁に言われた事をメリーに全部話したんだ。メリーが不可解な顔をしてるのはそのせいだよ。
「あっ、どうしたの?」
結縁が本殿から出て私達を通りすぎて行ったよ。
「あー、ちょっと探し物!」
「あ、そ、そうなんだ」
私に呼ばれて後ろを振り向いていた結縁は急いで走ってった。
竺紗みたいに瞬間移動が出来ないのかな? でも、足速かったなー。
「それで、その''秘めた力''、略して''秘力''について他に何か言ってたの?」
「いや、まだだよ。これからなんじゃないかな」
「そうなの」
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あれから十分、正確には十分十八秒経ったよ。何日も経つと慣れるものだね。
「長かったね。何を探してたの」
「相変わらず容易く言うのね。神様に対して」
「えー、別にいいじゃん」
緊張が解れたのか、いつの間にかため口になっていた。正直戻すのは面倒だよ。
「い、いや、私は別にいいよ」
「ほら、本人もそう言ってるよ?」
「……そうね」
メリー、少しご機嫌斜めみたい。丁度四十五度にめり込んでいるよ。
私はいつでも気にしないよ。余計酷くなるしね。
「それで、説明してほしい事があるんだけど。私の''秘力''ってどんなの?」
「どんな力かっていうのはよく分からないけど、結界の中に沢山押し込まれているみたいなの、その力。だから━━」
「ちょ、ちょちょっとごめんね。その結界ってどういう原理で出てくるの?」
私は結縁が続けようとするのを素早く止めた。
いきなり結界って言っても分からないよ。その結界が出てきた切っ掛けがないと納得がいかないよ。
「元々、生き物には中が空洞な結界が一つ入っている。その結界の中には主にストレスとかを入れるんだけどね、不良物が沢山溜まると結界ごと外に出ちゃうんだよね。言えば精神的な不良物のごみ箱」
「へ、へー」
分かりやすいけど、いまいち信じられないよ。聞いた事ないし。
「えっ、じゃあ、蓮子のその……結界の中身が沢山詰まっているって事は━━」
「そう、今にも蓮子の結界は中身ごと消えちゃいそうだから本当に危ないとこだったよ。こんな面白そうな事を見逃しちゃうなんて、絶対に出来ない」
神にとって、この''秘めた力''は面白そう程度なんだ……どうでもいい事だけどね。
「さて、説明はこのくらいにしてね。早速やろうかな。準備はいい?」
「うん。いいよ!」
準備する事がまずないから。
心の中でツッコミを入れる私。しながらもちょっとうきうき。最初は怖かったのに、何だろう? この感じ。とても不思議だよ。
「じゃあ……行くよっ! の、その前に!」
「へ?」
結縁は私に近づいて手を差し伸べた。何? この手。
「五円。五円がないと出来ないの」
「えっ、まさかお金を取るの? 嫌らしー」
「仕方ないでしょ。ないと出来ないんだから」
「その腰にある五円は駄目なの?」
メリーが結縁の腰の横に赤い糸で結び付けられた五円を指差した。確かに、あの五円は駄目なのかな?
答えは当然の事ながら━━
「これは綺麗な物だから駄目。さぁ、早く!」
駄目でした。ちょっと無愛想だなー。ま、仕方ないか。
「はいはい。分かりましたー! はい」
私は財布の中に入っているかどうか分からなかったけど、財布に入っていた五円を出した。前ふり長いね。
「どうも! 結構綺麗だね、使うの勿体ないな……さぁ、改めて始めるよ」
結縁はそう言って、さっき居た所に戻った。そして手に透けている赤いカードみたいな物を出して、渡した五円を真上に投げた
な、何が起こるのっ!?
「スペル……縛符『結縁』!!」
いよいよ五十話目になりました。書くのって大変ですね……。
今は七十二話を書き終えたところです。まだまだ余裕ですね。
しかし、私も来年は受験生なので、それまでには書き終えたいですね。




